熱狂のシューベルトを終えて

昨日、全日程を終了しました。ゴールデンウィークの有楽町、丸の内一帯を舞台に、全400もの公演が繰り広げられた「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 熱狂の日音楽祭2008」(シューベルトとウィーン)です。



私は結局、今までで一番多い9つの公演をハシゴしましたが、さすがに回を重ねることに全体の運営もスムーズになっていると感心するものがありました。もちろん過密スケジュールということもあって、開演、終演時刻などは多少前後していましたが、少なくとも私は特にストレスを感じることなく音楽にじっくりと浸ることが出来ました。スタッフ、そしてもちろんアーティストの方々に改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。

会場面の点ですが、元は会議室という初登場のG409は、その空間の『狭さ』に、演奏者と聴衆の良い一体感が生まれていたと思います。(音響面はやむを得ないとして。)また、B5ホールも去年よりも座席数が減ったように見え、とても聴き易く感じられました。あとはキャパシティーの関係からAは仕方ないとしても、ステージのやや見にくいB7ホールをもう少し手直ししていただければとも思います。D7とまではいきませんが、後列は若干の傾斜をつけて欲しいです。



段々規模が大きくなっている感のある屋台村やキオスクなど、今年も無料で楽しめる仕掛けが盛りだくさんでした。また、子ども向けのイベントが拡充されているのも良い傾向です。地下展示ホールの無料コンサートは去年より若干スケールダウンした感もありますが、ウィーン少年合唱団のサプライズなど、「何かあるぞ。」という仕掛けをつくるのは相変わらず巧いなと思います。(マルタン登場の豪華追加コンサートも盛り上がったそうです。)

さて来年の熱狂のテーマも早速決まりました。テーマは「バッハとヨーロッパ」。アンケートなどでの「取り上げて欲しい作曲家」ナンバー1だったそうで、満を持しての「音楽の父」の登場となりそうです。詳細は以下の公式ブログをご参照下さい。

公式レポート 「来年のテーマは「バッハとヨーロッパ」!



「ヨーロッパ」と大きな括りがあるので、バッハに影響を受けた後世の作曲家なども多く取り上げるかと思いきや、その息子や同時代の作曲家(ラモー、クープランとは楽しみです。)など、かなりバロック色の強いイベントになるようです。また一例として挙げられた古楽器とモダンオケの対比など、特に前者の好きな私にとっては今から期待したい部分がたくさんありますが、演奏時間の長い受難曲など、宗教声楽曲をどうスケジュールに載せるかにも注目したいと思いました。

それにしてもビールやワイン片手に、歩いているだけで楽しいクラシックのイベントなどまず他にありません。早くも来年が待ち通しいです。(写真は公演最終日夕方の様子です。)
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コルボ 他 「シューベルト 1828年3月26日のコンサートのプログラム」 LFJ2008

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 熱狂の日音楽祭2008
公演番号546

1828年3月26日のコンサートのプログラム
シューベルト
 弦楽四重奏曲第15番 D887より第1楽章
 「十字軍」 D932
 「星」 D939
 「さすらい人の月に寄せる歌」D870
 「アイスキュロスからの断片」D450
 「戦の歌」D912
 ピアノ三重奏曲第2番 変ホ長調 D929より第2楽章
 「川の上で」 D943
 「全能の神」 D852
 「セレナード」D920

ピアノ フィリップ・カサール
ホルン 岸上穣
プラジャーク弦楽四重奏団
トリオ・ショーソン
バリトン シュテファン・ゲンツ
テノール クリストフ・アインホルン
アルト ヴァレリー・ボナール
コレギウム・ヴォカーレによる男声合唱
ローザンヌ声楽アンサンブル
指揮 ミシェル・コルボ

2008/5/6 18:45 東京国際フォーラムホールC(マイアーホーファー)



シューベルトの生前、友人たちがただ一度だけ開いたという自作品のみコンサートを再現します。歌曲あり、弦楽四重奏あり、合唱ありの盛りだくさんな演奏会でした。

ともかく入れ替わり立ち替わり、奏者が出入りする様を見るだけでも楽しめる内容でしたが、まずは器楽曲から、中盤のトリオ・ショーソンによるピアノ三重奏曲が秀逸でした。そもそも有名なチェロの刹那的なフレーズからして魅力ある作品ですが、それを息の合ったコンビにかかると思わずこみ上げてくるものすら感じられます。時を刻むような、前へ前へと静かに音を奏でるチェロの音がやはり一番印象に残りました。

バリトン、テノール、それにアルトの各種が揃う歌曲も非常に聴き応えがあります。私の好みは冒頭「十字軍」にて、切々と思いを吐露するかのように歌い上げるバリトンのゲンツにありましたが、トリの「セレナード」を飾ったアルトのボナールによる愛に満ちた可憐な歌も心に響きました。そしてメインはもちろんコルボ率いる見事な男声合唱です。特に無伴奏の「戦の歌」での高音の瑞々しさには聞き惚れました。また前へ押し出す音圧感のあるフォルテと、その反面での引き、言い換えればすうっとホールの空気を取り込むかのような静寂のピアニッシモの双方に卓越した表現を感じることも出来ます。

プログラミングからして楽しめる、LFJならではのコンサートだったのではないでしょうか。こうした企画は是非今後とも続けて欲しいです。
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イザイ弦楽四重奏団 他 「シューベルト:八重奏曲」 LFJ2008

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 熱狂の日音楽祭2008
公演番号535

シューベルト 八重奏曲 ヘ長調 D803

クラリネット 山本正治
ファゴット 河村幹子
ホルン 岸上穣
コントラバス 池松宏
イザイ弦楽四重奏団

2008/5/6 東京国際フォーラムホールB5(テレーゼ・グロープ)



LFJでは常連のイザイ弦楽四重奏団と、新旧の新日フィル首席奏者、または気鋭の日本人若手ホルン奏者などがシューベルトの大作に挑みます。八重奏曲のコンサートです。

不慣れな面とでもいうのか、さすがに息の合ったコンビとまでは言えませんでしたが、弦部では躍動感溢れたイザイのシュトル(ヴァイオリン)の手引きを、また管では安定感のあるクラリネットの山本の力を借りて、この全6楽章、ゆうに1時間はかかるという大曲を最後までしっかりと弾き切っていたのではないかと思います。室内楽の枠を超えたかのような多面性を持つこの音楽では、どうしてもそれを適切に示す幅広い表現が求められますが、そうした意味でもやはり今挙げた2名の奏者が際立っていました。またその他、イザイのメンバーをはじめ、小刻みに音を気分良く奏でるコントラバスの池松や、1985年生まれという若いホルンの岸上も、細かいパッセージにはやや難があったものの、息長いピアニッシモなどを器用に表現していたと感じます。もう一歩、各々のパートが対等にぶつかり合う演奏であれば良かったかもしれませんが、この難曲をそつなくまとめていたのは事実です。

このコンビにて、ベートーヴェンの7重奏曲などを演奏してみるのも面白いのではないでしょうか。聴いてみたいです。
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