「宮島達男|Art in You」 水戸芸術館現代美術ギャラリー

水戸芸術館現代美術ギャラリー水戸市五軒町1-6-8
「宮島達男|Art in You」
2/16-5/11



今回茨城へ行ったのも全てはこの展覧会のためでした。首都圏では約8年ぶりになるという、宮島達男の「大型個展」(ちらしより。)です。



もう間もなく会期を終えるので今更ではありますが、あえて初めに触れておきたいのは、今個展におけるLED作品は全部で3つしかないということです。もちろん宮島のインスタレーションは、例えばMOT常設でも異彩を放つ作品同様、一点でも空間を変える力を持っていますが、「8年ぶりの大型個展」と聞けばどうしても数の面でも期待を抱いてしまいます。ちなみにLEDの他にあるのは、宮島がワークショップ等で手がけた参加型の作品やドローイングなどでした。よって、実際に私がそうでしたが、カウンターによる光のシャワーを浴びたいなどと期待して出かけると、どこか拍子抜けする感は拭えません。率直に申し上げて、量の面では不満が残りました。



とは言え、今展覧会のためにつくられた超大作「HOTO」は、一見の価値のある見事な作品です。縦5メートル50センチ、周回は2メートルほどあるという、宮島によれば仏塔をイメージした全面ガラス張りの巨大オブジェが、埋め込まれた大小様々の3827個にも及ぶLEDを瞬かせて静かに起立しています。そもそもこの作品は、水戸芸の最大の展示スペースに合わせて造られていますが、塔というよりもまるで須弥山石を見るかのような重厚感と、暗室を照らすLEDの眩いばかりの煌めきは、これまでの宮島のミニマル的な作品には見出しにくい、例えば祭祀のために使われるシンボルのようなオブジェとしての存在感が際立っていました。また上部の蛍光灯は万物を見渡す後光のように強く光り、反面でのカウンターは個々の命を照らす炎のように小さく点滅しています。そうした意味でも、確かに「人間の命の大きさと輝き」(キャプションより。)という、どこか宗教的なイメージを連想させる作品です。

また、「HOTO」ともう一点のLED作品、「C.T.C.S.with You」でも使われた素材の『鏡』も、この展覧会で見る特徴の一つかもしれません。当然ながら両者とも作品へ自分自身がうつり込みますが、作品を見ている自分を意識しながら、それ相互の関係を揺さぶるような感覚は、かつての旧作、例えば今出品作の「Death of Time」などではあまり見られない要素のように思えます。「Death of Time」では、LEDの灯火もそれを見やる自分も全てが闇に溶け合って一つになるのに対し、「HOTO」では逆に闇を遮るものとしてのLEDや自分の存在を強く確認することになるわけです。闇という全体に包まれていく一種の連帯感と、またうつり込むことで作品の中へ入るそれとが、全く正反対の表現にて実現している、と言えるような気もしました。



LEDの他には、宮島のライフワークでもあり、またこの展示のコンセプトの一つでもある『平和』を意識した作品が目立っています。入口正面の壁面に直接描かれたドローイング、「peace in You」の意味するところは不明ですが、広島や沖縄の平和記念公園などを舞台にしたワークショップに由来する写真「Counter Skin」などは、そのメッセージ性が前面に押し出ている作品と捉えて間違いありません。しかしながら冒頭の旧作「Death of Time」自体も、そもそもはヒロシマに捧げられた経緯を持つ作品です。とすると、今展覧会は、あくまでも元来より訴えていた宮島の思想が、より形となって顕在化したということなのかもしれません。

「宮島達男 Art in You/エスクアイア マガジン ジャパン」

ミニマルな美感を放つデジタルカウンターの宮島しか知らない私にとっては、今回の展示の強いメッセージ性はある意味でとても新鮮に感じられました。それに共鳴するかはさて置くとしても、最近は殊にパブリックアート的な仕事の目立つ宮島の、創作の根源的な意味を改めて提示した展覧会だったのではないでしょうか。

5月11日までの開催です。(「HOTO」写真は、宮島達男展公式ブログより転載。)

*関連エントリ
笠間、水戸、アートミニ紀行 2008/4
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