ポール・ストラザーン著、浅見昇吾訳「90分でわかるニーチェ」青山出版社、1997年1月第一版発行を読んだ。
表紙の裏にはこうある。
“神は死んだ” 現代哲学の先駆者ニーチェは、20世紀の現実を不気味なほど見事に予測していた。読む者の人生を変える、最高に「危険な」哲学への誘い。
ニーチェのごく簡単な伝記、主な思想の解説、著作からの抜粋からなるこの本は、「誘い」とあるように、イントロに過ぎない。90分で読めることは読めるが、ニーチェ哲学の概要が90分ではわかるはずがない。
ニーチェの生涯については、きわめて簡単ではあるが、前半にまとめてあり、わかりやすい。まれに見る才能を認められ、若くして大学教授になる。一方で、虚弱な身体に悩み、見せ掛けにこだわるワグナーのいかがわしい部分にだまされ過度に傾倒する。そして、最後まで自己の哲学を体系化をすることはできなかった。
肝心の彼の思想については、この本の解説は要領を得ない。彼の哲学が体系的でなく、秩序だってもいないし、たびたび矛盾するように見えることもあろうが、人間の行動を評価する基準が「権力への意思」しかないというは、本当に彼の思想の根幹なのか、何の知識のない私にも疑問が残るし、少なくともこの本に説得力はない。また、「永劫回帰」、「超人」の説明も、私の理解力をさて置いて、言わせてもらえば要領を得ない。
ニーチェの言葉として、アフォリズム(警句)が紹介されている。
「神は死んだ」
「人生を危険にさらせ」
「最良の薬とは何か?勝利だ」
「道徳的な現象など存在しない。様々な出来事に対する道徳的な解釈が存在するだけだ」
「愛に対する治療薬を授けよう。たいていの場合、古(いにしえ)の治療法が効く。あの荒治療だ。愛し返せばよいのだ」
・・・
確かにこれらの警句は危険な魅力に満ちている。しかし、いくつか例を挙げて、我々の生活が偽りのものだと指摘するだけでは、哲学と言えないのではないだろうか。
ポール・ストラザーン Paul Strathernは、ロンドン生まれ。ダブリンのトリニティ・カレッジで物理学・化学を学んだあと、哲学に転向。作家としても数々の著作がある。本シリーズはイギリスでベストセラーになった。
浅見昇吾は、慶応義塾大学文学研究科博士課程終了。ベルリン・フンボルト大学留学を経て慶應義塾大学文学部講師から、現在、上智大学外国語学部准教授。選考は哲学。
私の評価としては、★★☆☆☆(二つ星:読めば)
私は、「何分でわかる・・・」だの、「あなたにもわかる・・・」などという本は意地でも読まなかった。しかし、私は今までニーチェの著作をまったく読んだことがないし、もはや難しそうなその本を読むことはないだろうと思い、せめてニーチェの思想の概要でも頭に入れておきたいとこの本を読んだ。ニーチェの生涯についておおよそのことはわかったが、彼の思想については、この本ではほとんど触れてないし、わからない。本当に、「権力への意思」が思想の根幹にあるのだろうか。簡単すぎるこの本からは、疑問が生じるだけだ。