小川洋子著『妄想気分』2011年1月集英社発行、を読んだ。
新聞、雑誌などに掲載された38のエッセイ(1991年~2005年)に、10の書き下ろしを加えたエッセイ集。
著者のつつましく、謙虚で素朴な人柄を映す思い出、日常が語られている。地方から上京し、大学の女子寮での倹約の日々、子育ての中、小説を書ける喜びに夢中な日々、見上げる先輩作家、父のように育ててくれた編集者の思い出など心に滲みる話が多い。
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
小説家でありながら、謙虚で素朴なまま小川さんの人柄が滲み出て、ほっとする温かい気持ちで楽しく読めた。題名の「妄想気分」はシュールな話という意味ではなく、のんびり、ぼんやり考えることぐらいの意味だと思う。
小川洋子は、1962年岡山県生れ。
早稲田大学第一文学部卒。1984年倉敷市の川崎医大秘書室勤務、1986年結婚、退社。
1988年『揚羽蝶が壊れる時』で海燕新人文学賞
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞
『博士の愛した数式』で読売文学賞、本屋大賞、2006年に映画化
2004年『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞
2006年『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞
その他、『カラーひよことコーヒー豆』、『原稿零枚日記』など。
海外で翻訳された作品も多く、『薬指の標本』はフランスで映画化。
2009年現在、芥川賞、太宰治賞、三島由紀夫賞選考委員。
以下、メモ
第一章 思い出の地から
「武蔵小金井女子学生寮」
木造モルタルのごく普通の一軒家に、定員五人の女子大生がお互いに話し合ってルールを決めながら暮らすというスタイルで、門限もなく、食事も自炊だった。
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五人の共通点は、生活の質素さにあった。二十二年前(1980年)とはいえ、寮費は一か月たったの千円、・・・。
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五人の共通点は、生活の質素さにあった。二十二年前(1980年)とはいえ、寮費は一か月たったの千円、・・・。
そして、いかにもつつましい料理のメニューが並ぶ。貧しくも楽しい昭和の青春がここにある。
第二章 創作の小部屋
「恐る恐る書く」
正直に告白すれば、今でもやはり、小説を書くのが怖い。・・・自分が作り上げようとしている世界がどんなものになるのか、少しも分かっていなかった。・・・ただ、一行を書き、次の一行を書き、また次の一行を書く、その繰り返しだった。
「本はいつでも寄り添ってくれる」
生まれて初めて私がお話を書いたのは、たぶん八歳か九歳の頃で、「迷子のボタンちゃん」というタイトルだった。・・・失敗しないよう用心しながら画用紙にお話を清書し、表紙の絵を描き、最後、ホチキスで留めた時の、パチンという心地よい音の響きを、今でも覚えている。
第三章 出会いの人、出会いの先に
「相手を思う気持ちを、形のない気配に変えて」
夫は今、何を考えているのだろう。そんなこと、恐ろしくてとても真剣に考える気になれない。・・・
うまくいっている夫婦は、相手が今、何を考えているのか、などと言って悩んだりしない。相手のすべてが分かっているのだ、と高をくくったりもしない。分かり得ないところがある事実を受け入れ、それでもあなたの心の内を、いつでも思いやっているという証拠を、形のない気配に変えて、日常生活の中に漂わせている。しかもほとんど無意識のうちに。
夫が何を考えているか、理想の夫婦について原稿を書いていると、夫から電話がかかってくる。ホステスさんの嬌声も聞こえる中、「おい、今日が結婚記念日だって、知ってるか?」。
うまくいっている夫婦は、相手が今、何を考えているのか、などと言って悩んだりしない。相手のすべてが分かっているのだ、と高をくくったりもしない。分かり得ないところがある事実を受け入れ、それでもあなたの心の内を、いつでも思いやっているという証拠を、形のない気配に変えて、日常生活の中に漂わせている。しかもほとんど無意識のうちに。
夫が何を考えているか、理想の夫婦について原稿を書いていると、夫から電話がかかってくる。ホステスさんの嬌声も聞こえる中、「おい、今日が結婚記念日だって、知ってるか?」。
第四章 日々のなかで
第五章 自署へのつぶやき 書かれてもの、書かれなかったもの