原田ひ香著『母親ウエスタン』(2012年9月20日光文社発行)を読んだ。
母親を必要とする子供のいる家庭に入り込み、自然に暮らして、つかのまの母親役をつとめて、新しい母親が決まれば、潔く身を引き、どこかへ去ってゆく。さすらいの母親役をなぜかやり続ける女・広美。彼女の口癖は「おそれいりましてございます」
有り余る母性からの行動なのか? それなら何故消えるのか?
子供にとっては、辛い家庭環境から救いだされ、生活を立て直してくれた大切な人。中には、大人になっても彼女を忘れられない子供たちがいる。
大好きな祐理の謎の行動を突き止めようとする同じ大学の恋人森崎あおい。彼らの話と、さすらいの広美の話、時系列を乱して、並行して進む。広美の謎はますます深まる。
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
謎を引っ張ったまま、次々と新たな不幸な子供の家の話に入って行く。さすらいの母親ウエスタンの設定自体が気に入った。
トルストイの「アンナ・カレーニナ」の冒頭に「幸福な家庭はみな同じようだが、不幸な家庭はそれぞれ違うものだ。」というような言葉があるが、それぞれ異なる不幸な家庭の話を続けて、興味をつなぐ。
会話文が見事で場面、人物を具体的に想像させる。さすが、脚本家だ。
最後の牧瀬のプロポーズが泣かせる。本筋じゃないのに、本筋の感動をいや増してくれる。映画「幸せの黄色いハンカチ」で最後に若い二人が車の中で思わず抱き合うシーンを思いだす。さすが脚本家、お上手、お上手。
広美が係わった子供の多くを、本当に覚えていないような記述があるが、昨日の晩飯のことは忘れても、昔のことは良く覚えているのではないのか? 逃亡中に病気になったのときに保険証はどうしているのか? など年寄りは変なことが気になる。