湊かなえ著『贖罪』(双葉文庫み21-03、2012年6月6日双葉社発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
15年前、静かな田舎町でひとりの女児が殺害された。直前まで一緒に遊んでいた四人の女の子は、犯人と思われる男と言葉を交わしていたものの、なぜか顔が思い出せず、事件は迷宮入りとなる。娘を喪った母親は彼女たちに言った──あなたたちを絶対に許さない。必ず犯人を見つけなさい。それができないのなら、わたしが納得できる償いをしなさい、と。十字架を背負わされたまま成長した四人に降りかかる、悲劇の連鎖の結末は !?
<特別収録> 黒沢清監督インタビュー。
「フランス人形」
田舎育ちの小学4年生4人、紗英、真紀、晶子、由佳と、東京からの転校生エミリは、各家の玄関の隣の応接間のガラスケースに入ったフランス人形巡りをする。そして、校庭でバレーをして遊んでいるところへ、「プールの更衣室の換気扇の点検に来たんだけど、脚立を忘れたので手伝って欲しい」と作業着を着た見知らぬ男が言う。エミリを連れて行った男は帰って来ず、6時のメロディーが流れ、4人は更衣室に行った。そこにはエミリが倒れていた。警察に事情を聞かれた四人は、犯人の顔を覚えてないという。
エミリ:小学4年生で、絞殺された美少女。手足が長くすらっとしている。バービー人形と同じ服を着ていたり、家が豊かだったり、4人にとって「都会のお嬢様」。
紗英:事件の時、現場で一人エミリの死体の番をしていた。小柄でおとなしい。事件後長年に渡り「なると殺される」という不安、ストレスから結婚するまで初潮がなかった。東京の女子大学を卒業、就職して、見合いする。「ヒト科のメスとして欠陥がある」と言ったにもかかわらず、孝博は結婚する。
孝博:紗英の結婚相手。エリート。紗英のことを子供の頃から知っていた。以下、*1。
「PTA臨時総会」
真紀:事件の時、先生を呼びに行くが、校舎に入れず、逃げ出してしまう。背が高く、頼られるお姉さん的存在。成人後、小学校の教師になり、校内にナイフを持って侵入した暴漢に飛びつき、プールに落とし、上がろうとする暴漢の顔面を蹴り上げた。褒められて、やがて「いい気になるな」などと非難もされた。
事件から3年後、エミリの両親は東京に戻ることになり、4人はエミリ母親・麻子から呼ばれて、家に行った。そこで、麻子から、
「わたしはあんたたちを絶対に許さない。時効までに犯人を見つけなさい。それができないなら、わたしが納得できるような償いをしなさい。そのどちらもできなかった場合、わたしはあんたたちに復讐するわ。・・・」
と言われてトラウマになる。
真紀は犯人を思い出せないので、償いとして立派な人間になろうとした。
「くまの兄妹」
晶子:事件時、足が早いからとエミリの母に知らせに行った。女の子としてはがっしり体形でスポーツも得意だが、おとなしい。衝撃を受けたエミリの母に突き飛ばされ、顔面にケガをする。以後15年経っても事件を思い出したりすると傷口がちりちりして頭が痛くなる。結局、引きこもりになってしまう。
幸司:晶子の兄。くまのような風貌だが、晶子に対しても優しい。地元の大学卒業後、町役場に就職。相談に来たシングルマザーの春花と結婚。春花の連れ子である若葉も可愛がっていたが、実は・・・。以下、*2。
「とつきとおか」
由佳:事件時、交番に知らせに行き、警官に優しくしてもらったことから警官を好むようになる。喘息の姉だけが親から大切にされていることなどから非行に走る。警官の義兄の子供を産む。以下、*3。
「償い」
麻子:エミリの母。華やかな生活、付き合いをしていた東京から移転してきて、地元の母親たちからも、社宅の女性たちからも阻害されて孤独だった。事件後は精神を病み、安定剤を飲まないと生活できないほどになってしまった。事件後も、解決するまで引越はしないつもりで町にとどまり続けていた。エミリを殺害した犯人が捕まらないのは、目撃者である4人がその顔を思い出せないせいだと思いこみ、事件から3年後に町を去ることになった際、彼女達に対し腹立ち紛れに脅迫まがいの言葉を投げつけトラウマを植えつける。*4。
秋恵:麻子の大学の同級生。麻子と違い地味で真面目な学生だった。以下、*5。
南条弘章:麻子の大学の先輩。教師だったが飲酒運転で懲戒免職。エミリ殺害事件の15年後は、フリースクールを主催。以下、*6。
2012年1月~2月、WOWOWでドラマ化して放送。この作品の脚本・監督の黒澤清との「文庫版特別インタビュー」が巻末に16ページに渡り添付されている。
本作品は2009年6月東京創元社より単行本刊行。
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
筋運びに若干強引なところはあるが、ともかく脅された4人の子供が4人共、殺人を犯してしまうという滅茶苦茶な話をしぶしぶ納得させて読ませてしまう。
最後の最後に明らかになるとんでもない事実は、ここまではなくてもよいかなと思う。このあたりが、「イヤミス」=いやな気持になるミステリー、と呼ばれる所以かなと思ったりする。
湊かなえ(みなと・かなえ)
1973年広島県生まれ。
2005年、BS‐i新人脚本賞に佳作入選し、07年には第35回創作ラジオドラマ大賞を受賞する。
2007年、短編「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞。
2009年、短編「聖職者」を第一話とした連作長編『告白』でに本屋大賞を受賞。
2012年「望郷、海の星」で日本推理作家協会賞短編部門受賞。
2016年『ユートピア』で山本周五郎賞受賞。
他の著書に『少女』本書『贖罪』『Nのために』『夜行観覧車』『往復書簡』『花の鎖』『境遇』『サファイア』『白ゆき姫殺人事件』『母性』『望郷』『高校入試』『豆の上で眠る』『山女日記』『物語のおわり』『絶唱』『リバース』『ポイズンドーター・ホーリーマザー』。
エッセイ集『山猫珈琲』など。
以下、完全ネタバレ(で白字)。
*1:彼はフランス人形フェチで、生きた人形の紗英を求めたのだった。・・・孝博は死んでいた。
*2:晶子は若葉の上のくまを殺した。
*3:由佳は思わず階段にいた義兄を突き飛ばして、殺してしまった。
*4:麻子は南条弘章の子供を妊娠していたが、子供のできない足立に請われて結婚し、エミリを生む。
*5:秋恵は南条弘章と相思相愛だったが、麻子に弘章を奪われて自殺する。
*6:秋恵の自殺の報を受けて、駆けつける途中、飲酒運転でつかまり、教師を懲戒免職となる。麻子に恨みを持ち、彼女の娘のエミリを殺すが、自分の娘でもあった。