伊坂幸太郎著『首折り男のための協奏曲』(新潮文庫い-69-11、2016年12月1日発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
被害者は一瞬で首を捻られ、殺された。殺し屋の名は、首折り男。テレビ番組の報道を見て、隣人の“彼”が犯人ではないか、と疑う老夫婦。いじめに遭う中学生は“彼”に助けられ、幹事が欠席した合コンの席では首折り殺人が話題に上る。一方で、泥棒・黒澤は恋路の調査に盗みの依頼と大忙し。二人の男を軸に物語は絡み、繋がり、やがて驚きへと至る! 伊坂幸太郎の神髄、ここにあり。
色々な人が首を折られて殺されるという事件が起こり、「隣のアパートに住む人物を犯人ではないかと疑う夫婦」、「よく人違いされる男」、「学校でいじめられている少年」というという7編の短編集。
「首折り男の周辺」
若林絵美がテレビのニュースで首折り事件での犯人像を見て、夫の順一に言う。
「ねえ、あなた、これ、隣のお兄さんじゃないかしら」
あまり首を突っ込まない方が良いと言う順一に対し、絵美の方は興味津々で、・・・。
髪が短く体格が良いが気が弱い小笠原稔は、「大藪!」と呼びかけられ、間違いとわかっても、結局代役を頼まれる。バーで会った瓜顔の男は恰幅の良い初老の男の写真を見せて、予定通りの実行を確認して去る。
中学2年の中島翔は同級生の山崎久嗣にいじめられていて、彼の先輩から金を持ってくるように脅されていた。そこへ、大男が応援するから闘えと現れる。ところが、現場に来たのはよく似た別の大男だった。
この3人の視点で話が進み、やがて、それぞれの人物の話が少しずつ絡み合っていって最後に・・・
「濡れ衣の話」
3年前に息子を車で撥ねた女の住所を丸岡直樹は知っていた。平然と暮らしている女を彼は刺殺した。その彼が二人組に襲われようとするとき、刑事を名乗る男が現れて彼を救う。男は刃物の処理とアリバイを考えておくことを忠告する。そして男は女性の首を折った。15年前、小学4年のとき男はキャッチボールの相手をしてくれると言った近所の大人を待っていたが、来なかった。
以下、ネタバレのため白字。その大人は丸岡で、この殺人のために約束を守れなかったのだ。そこで、男は、死体を引き受けて、丸岡が約束を果たせるようにすると提案する。
「僕の舟」
末期がんで意識のない夫・順一のベッドの脇で看護する若林絵美に、調査を依頼された黒澤は言った。「・・・(当時勤めていた菓子メーカーで、絵美は)お茶を入れながらよく口ずさんでいたらしいな。水兵リーベ僕の舟」。その会社は倒産したが、二代目社長は絵美を覚えていて、好きだったと言った。
また、絵美の初恋は、7歳の頃、遊園地で迷子になり、同じ迷子で、頼りになる少年がいたのだと言う。そして、黒澤に依頼にしたのは、20年前に銀座で4日だけ会った男の行方だった。当時、二人とも、スパイと翻訳家と身分を偽っていた。絵美は70歳を前にして、その、もう一つの人生を知りたくなったのだと言う。
「黒澤さん、馬鹿にしているんでしょ」若林絵美が笑う。「たった八時間の思い出を、五十年経っても大事にしているなんて」
いや。黒澤はすぐにかぶりを振った。「昔見た、陸上のカール・ルイスの百メートル走は、ほとんど十秒くらいだったが、今でもよく記憶している。思い出は別に、時間とは関係がない」
以下、ネタバレのため白字。結局、銀座の男は夫・順一だったし、60年前に壁に書かれていた相合傘の名は、「えみ」と「じゅんいち」だった。絵美は言った。「嬉しいような、がっかりしたような、何ともいえない気分ね。わたしの大事な思い出が、夫に崩されたような」
「人間らしく」
釣り堀での黒澤の仲間の女性が、義理の弟に不倫の証拠を調べて欲しいと依頼する。結婚した妹は認知症の義父の介護を押し付けられ、夫は不倫し、あげく結局離婚を切り出された。
中学生が通う塾でのいじめの話と、作家の窪田の「飼っているクワガタに対して自分は天罰を与える神の立場だ」との話が続く。
「月曜日から逃げろ」
月曜日:釣り堀は空(す)いていたが、鯉の腹は空いていなかった。テレビプロダクションで羽振りの良い久喜山は、黒澤を裏の顔を知っていると脅しながら、ドキュメンタリー番組「空き巣テクニック」への出演を依頼して来た。同時に依頼してきたのは、久しぶりに帰った東京の久喜山の自宅に、覚えのない肖像画が飾ってあり、それが美術蒐集家のコレクションからの盗品なのだと言う。そこで、久喜山の出張中にその絵を盗んで、持ち主の所蔵部屋に返して欲しいと黒澤は依頼される。
久喜山は黒澤が空き巣に入ったときの監視カメラ映像を持っていて、警察に提出すると脅しながらの依頼だった。
火曜日:黒澤は、東京の美術コレクターの邸宅に忍び込む。あの肖像画を壁に戻すところをビデオカメラで録画した。久喜山に証拠として見せるためだ。ついでに、金庫を見つけて、監視カメラがないだろうなと警戒しながら、ダイヤルを回す。
水曜日:仙台駅西口の喫茶店で、「実はあの家、防犯カメラを設置してあったんですよ」「実はあの家、私の親しい老夫婦の家だったんですよ」久喜山は嬉しそうに黒澤に言う。
木曜日:黒澤が釣堀に行くと、以前、久喜山というテレビ屋がおまえのことをかぎまわっていたぞと教えてくれた中村がいた。黒澤は「あの男はやはり、食えないな」「俺が空き巣をやる場面を録画していた」と告げる。
そして、久喜山というヤツは、蕎麦屋に転職した元タレントの店主に、蕎麦打ちなどのドキュメンタリー制作と言いながら、店にエロ雑誌を置き忘れたかのように装って、店主がそれをめくる姿を盗み撮りして放送するような陰湿なヤツだと、中村が教える。
(蕎麦屋の息子が言っていたのは、このことか。)
金曜日:宅配業者に化けた黒澤は、マンションの久喜山宅の金庫から現金を盗んで、さらに元の金庫に戻しておく。防犯カメラを見つけて電源を切り、一連の行動を撮った録画データカードを引き抜く。パソコンとカードを接続して、編集ソフトで編集して、カードに上書きし、防犯カメラに戻す。
土曜日:仙台駅東口のホテルラウンジで、黒澤は仲間の大西若葉と会って、パソコンの編集ソフトを使って、映像を逆回転再生することを教わった。
黒澤は、大西若葉に計画と打ち明ける。それは、逆回転ソフトを使ったので、お金を盗んだんじゃない、金庫に入れただけだと主張する。そして、来週にでも、東京の美術コレクターの邸宅から盗んだ絵画を、久喜山の家にこっそり飾っておき、警察に調べられたら彼に頼まれてやったと言う。
日曜日:蕎麦屋で、黒澤は初対面の久喜山と会うと、番組で空き巣テクニックを見せてほしいという依頼だったため警戒する。久喜山が電話対応で店の外に出ている間、蕎麦湯を運んで来た小学生の息子が、久喜山が制作した蕎麦屋のドキュメンタリー番組のせいで、大迷惑を受けていると言う。
以下、ネタバレのため、白字。さらに、クイズを出す。
『月曜日にケーキを食べました。でも、火曜日にはケーキがまだあります、なぜでしょう』
・・・
火曜日は火曜日でも先週の火曜日だったからでした。
「なるほど」黒澤は答え、曜日だけを並べられても先に進んでいるのは、遡っているのか分からぬものだな、と思う。・・・カレンダーでいえば、一つ上の行に行けば、そこにも火曜日はある。なるほど、月曜日、火曜日、水曜日と六日ずつ遡っていくこともできる、と眺めた。
この話は、時間を逆転して書かれていたのだった。
「まあ、そこはほら、私、風来坊なところがあるから、家にはめったに帰らず」「普段は、若くて綺麗な女のところにか」「調べたんですか」久喜山は警戒心に満ちた苦々しい表情を浮かべる。「ウィキペディアに載っていた」。(251ページ)
「親密で何よりだ」「昵懇(じっこん)ロールです」「ロックンロールと掛け合わせた駄洒落だったんですが、面白くないですか」「悪くはない」
「テレビの制作会社で、撮影を生業とする男を、映像で攻めるわけですか」「そういう諺(ことわざ)があつても良さそうだな」「驕(おご)れるもの得意分野に隙(すき)あり、とか」「この言い方、流行らせたいですね」「予備校の壁に貼ってありそうだ」。
「相談役の話」
学生時代に同じクラスだったというだけの父親の会社に入った男と、文筆業の私はホテルのラウンジで会っていた。彼は山家(やんべ)清兵衛のことを聞いてきた。以下略。
「それ以降ね、僕の書く小説が面白くないんだ」「はあ」「書いても書いてもつまらない作品しか生まれてこないんだから、これはもう、何か恐ろしい、人知を超えた力によると思うんだ。悩ましいよ。悩ましいし、恐ろしい」
「合コンの話」
尾花は友人の井上が企画した3対3の合コンに参加した。ただし、井上は当日ドタキャン。
合コンの近くで俳優の佐久間覚が首を折られて殺された。
尾花:27歳。彼女が別の男とコンサートに。
臼田:体格がよく、爽やかな二枚目。唐突に変な言動をする。
佐藤:27歳だが老けている。おとなしくて、合コンは初めて。実はピアノ・・・
加藤:清楚な美人。ホステスで資金を稼ぎ、今は雑貨店をやっている。
木嶋:溌剌とした美人。美容師だが、演劇のオーデションの結果を待っている。
江川美鈴:尾花の大喧嘩して別れた元カノ。不倫で苦しんでいる。
「解説/福永信」
本作品は2014年1月新潮社より刊行。
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
面白いのだが、話が分かりにっくい。「月曜日から逃げろ」などは話を逆の時間順で書いている。付箋をつけながらざっと読んで、さいどあらすじを書きながら再読してようやく訳が分かった。伊坂さん! 年寄りをからかわないでください。