昼にソーメンを食べながらの夫婦の会話。
「ソーメンもたまに食べるとうまいね。子供の頃は味もボリュームもないので嫌いだったな」
「そうね。夏の昼というといつもソーメンが出てきていやだったわね」
「なにしろデンプンそのもののソーメンがドーンとあって、あとはつゆとキュウリを細く切ったのがあるだけ。若い者の食べ物じゃないよな」
「うちは卵の薄切りが付いていたわね。ミョウガが付くこともあったわ」
「ミョウガは禁止だ」
「え! 何で?」
「我が家のトイレの汲み取り口の傍にミョウガが生えていたんだよ。いまだに思い出して食欲がなくなるんだ」
「買ったものはちゃんと畑で作ってるんでしょうに変な人ね。だけど、ソーメンも今はけっこうおいしいわ。歳のせいかしらね」
「好みも変わったし、ソーメン自体も美味しくなったんじゃないかな」
学生時代、家で過ごした夏休みは、ただただだるくいつまでも続くようでした。ゴロゴロと過ごし、起き上がっては食べるソーメンは、あのまったりした夏休みの象徴だったような気がします。
しかし思えば、夏休みになるとおふくろは近所のバイト先を抜けだして私の昼飯を作りに家に帰って来て、食べ終わり、片付けをするとまたバタバタと働きに戻るのでした。ソーメンくらいなら自分でも作れるはずなのに、「またソーメンか」と露骨にいやな顔をした自分を許せないと思い、半世紀を経た今頃、切なくなってしまうのでした。