伊兼(いがね)源太郎『残響 警視庁監察ファイル』(2021年8月10日実業之日本社発行)を読んだ。
『密告はうたう』『ブラックリスト』に続く「警視庁監察ファイルシリーズ」第三弾、集大成の一冊。
私は、WOWOWで放送された(2021年8月~- 9月、全6話)「密告はうたう 警視庁監察ファイル」を見た。主演はTOKIO松岡昌宏で、ほかに仲村トオル、泉里香らが出演した。これで、警察職員の不正を暴くための部署・警視庁警務部人事一課監察係の存在を知り、警察内部からも敵視、警戒される組織に興味をもち、原作者の伊兼さんの他の作品を読んでみた。
警視庁職員の不正を取り締まる人事一課監察係に異動して2年の佐良(さら)は、悪党たちへ私刑を加えているという庁内秘密組織「互助会」を追っていた。
互助会のメンバーは、“懲らしめ”と称し、法律では罰せられない悪党や罪と刑が釣り合っていないと判断した連中に私刑を加えていたのだ。そこで佐良は、同僚の皆口菜子(さいこ、32歳)、28歳の毛利らとともに、疑わしい警官を行確(尾行して行動確認)したり、偽情報で罠をしかけたりして組織員を割り出し、その全容を暴こうとしていた。
約2年前、当時、捜査一課強行班だった佐良は、部下の斎藤と皆口とともに、武蔵野精機社長殺人事件の捜査で荒川沿いの工場内で捜査中、銃撃にまきこまれ斎藤が殉死した。その結果、佐良は監察へ、斎藤の婚約者だった皆口も運転免許試験場に左遷された。銃弾の線条痕から、互助会との関係が浮かび上がっていた。
2発の銃声。残響は今も佐良の耳の奥に残っている。
捜査を進めても末端の組織員は逮捕できても、上の者たちの正体はつかめないままだった。その矢先、監察トップの六角警務部長が狙われた。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
組織が多く、その関係も複雑で、筋を追うのが大変だ。
警察内部も一枚板どころか、各組織が激しく対立して協力は難しいことが良く分かるのだが、外部も複数組織が登場するので、話は複雑怪奇となり、理解するのが大変だ。
例えば、警察内部も、警務部、刑事部、公安部が対立し、その上、誰がメンバーか不明のリンチ集団・互助会が警察内に潜む。外部にもカルト集団・太陽鳳凰会、YK団、韓国マフィアがあって、敵味方関係が複雑すぎる。
シリーズ1作目『密告はうたう 警視庁監察ファイル』と、2作目『ブラックリスト 警視庁監察ファイル』を読んで過去の経緯を理解しないと、表面的理解に終わってしまう恐れがある。
立ち回りが多く行われるのだが、ほとんどが空手わざによる取っ組み合いで、敵味方の判定がはっきりしないこともあった、拳銃はほとんど登場せずに物足りない。
警視庁
副総監:波多野
警務部部長:六角
人事一課 課長:真崎、監察官:能面の能馬(のうま)、係長:須賀、班長:中西、佐良、皆口菜子、毛利
刑事部
捜査一課、佐良と同期の北澤、勇退後関連団体に天下った福留、皆口の婚約者で殉職した斎藤
捜査二課課長:長富(互助会?)
公安部
富樫修(潜入捜査員名は田中、互助会?)、中上(木下名で潜入捜査中に殺害された)
方面本部
早稲田警察署、夏木
弁護士:虎島、情報屋:チャン(佐良に情報提供、アメ横近くのヴェトナム料理店)
公安などの手口例
特定の人物だけに特定に内容(例えば、自分は何が好きなど)を伝えておき、自分の話がどこかに漏れた場合、漏洩先を確定させるヒントとする。
脚を引きずって歩く姿を見せておき、いざという時に普通に歩いて追っ手をごまかす。
誰何(すいか):声を掛けて、誰かと名を問いただすこと。呼びとがめること。
マルタイ:捜査対象