黒川博行著『悪逆』(2023年10月30日朝日新聞出版発行)を読んだ。
過払い金マフィア、マルチの親玉、カルトの宗務総長――社会に巣食う悪党が次々と殺害される。
警察捜査の内情を知悉する男 vs. 大阪府警捜査一課の刑事と所轄のベテラン部屋長
凶悪な知能犯による強盗殺人を追う王道の警察小説
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周到な準備と計画によって強盗殺人を遂行していく男――。大阪府警捜査一課の舘野と箕面北署のベテラン刑事・玉川が、広告代理店の元経営者殺害事件を追うなか、さらに被害者と面識のある男が殺される。二人はそれぞれ士業詐欺とマルチ商法によって莫大な金を荒稼ぎした悪党で、情報屋の標的になっていた。警察は犯行手口の違いから同一犯による可能性はないと判断するが、いずれも初動捜査で手詰まりとなる。犯人像を摑むことができないまま、さらには戦時中に麻薬密売組織に関わり、政治家とも昵懇だった新興宗教の宗務総長が殺害される。警察の動きを攪乱しながら凶行を続ける男の目的はどこにあるのか? 舘野と玉川は、凶悪な知能犯による完全犯罪を突き崩すことができるのか?
警察捜査の内幕を活写しながら、
裏社会を跋扈する男たちを圧倒的な存在感で描き切る、
ラスト5ページまで結末が読めない、
本年度最注目のクライム・サスペンス!
玉川:実質主人公。箕面北署(所轄)刑事課・部屋長。大阪弁の55歳。
館野:玉川の実質サブ。35歳、独身。府警捜査一課のエリート。上司は係長・清水、管理官・千葉
大迫:詐欺会社「ティタン」元経営者。58歳。
成尾:マルチ商法会社「エルコスメ・ジャパン」(「ティタン」がセミナーを主宰)元代表。62歳。組の企業舎弟。
田内雅姫:東亜九星信教会教祖
田内博之:東亜九星信教会総務総長・雅姫の甥
海棠:宗教法人「ライトイヤー」総長。溙孝昌
箱崎:総合探偵社WB代表
冒頭、犯人は車のナンバープレートを偽装し、各種道具一式をバックに入れ、拳銃を持ち、準備万端整えて車で箕面の大迫邸へ向かう。侵入し、大迫にスタンガンを当て、縛って金庫のナンバーを聞く。大迫の罠を見破って、2本の指を切断し、30枚の金の延べ板の在りかを告白させる。犯人は金塊を手にして、大迫を射殺して去る。
成尾が自宅へ押し入った男に殴られ、鼻を切り裂かれ、金庫の2㎏の金塊、さらに壁の中の札束2億円を盗まれた。男は成尾の頭にゴミ袋をかぶせ、首元にテープを巻いて殺して、去った。
捜査本部(帳場)がたち、捜査一課の館野は箕面北署の玉川と組むことになる。
その後、さらに2人の悪辣な手段で金を集めた男たちが殺されるが、捜査の手はまだまだ届かない。
初出:「週刊朝日」2021年11月12日号~2023年3月3日号
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
犯人の殺人強盗の準備がすごい。まず資産状況、行動ルート・時間を徹底的に調べ、持参する道具、Nシステムを欺く車のナンバー偽装、体中の毛を剃って、出動。悪人宅へ侵入し、最大の苦痛を与えて口を割らせ、隠している金を奪い、一気に殺す。
見事に警察の裏をかく冷血冷酷な犯人が、魅力的なダークヒーローで、残忍な犯罪に爽快感さえ感じてしまう。
箕面北署のたたき上げの玉川の感が冴え、関西弁でいい味を出している。一方、コンビを組むエリートであるはずの捜査一課の舘野はホームズに対するワトソンのつっこみ役の役割もせず、影が薄い。
黒川博行(くろかわ・ひろゆき)
1949年愛媛県今治市生まれ、大阪育ち。京都市立芸術大学美術学部彫刻科卒業。大阪府立高校の美術教師。
1983年『二度のお別れ』が第1回サントリーミステリー大賞佳作に入選して、翌年デビュー
1986年『キャッツアイころがった』で同賞大賞を受賞。
1987年作家専業に。
1996年「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞(短編および連作短編集部門)を受賞。
2014年『破門』で、第151回直木賞を受賞(6回目の候補で)。
主な著書、『疫病神』、『後妻業』、『桃源』、『騙る』、『熔果』、『連鎖』、『雨に殺せば』
妻は、著者の大学の同級生で、日本画家の黒川雅子(本書の装画)。
邀撃(ようげき):来襲して来る敵を待ち受けて迎え撃つ。「邀」は待ち受ける
府警本部長の役割:大阪で警備中の要人が殺害されたり、現職警官が重大事件を起こした時首を差し出すこと。
日本と犯罪人引渡し条約を結んでいる国:アメリカと韓国だけ。極端に少ないのは日本に死刑制度があるため。
おまけ。社長のもっとも大切な役割:会社で重大な不祥事が起きた時、記者の前で深々と頭を下げること。(by冷水)