川上弘美著『恋ははかない、あるいは、プールの底のステーキ』(2023年8月22日講談社発行)を読んだ。
あ、また時間に捕まえられる、と思った。
捕まえられるままに、しておいた。
小説家のわたし、離婚と手術を経たアン、そして作詞家のカズ。
カリフォルニアのアパートメンツで子ども時代を過ごした友人たちは、
半世紀ほどの後、東京で再会した。
積み重なった時間、経験、恋の思い出。
それぞれの人生が、あらたに交わり、移ろっていく。
じわり、たゆたうように心に届く大人の愛の物語。
第76回 野間文芸賞受賞作品。
恋と言うにはあまりにも淡く、あいまいで、おぼつかず、互いの距離をあくまで縮めることがない60代の恋?
著者・川上さんを思わせる主人公の八色朝見(やいろ・あさみ)は、幼少期をアメリカで過ごした60代の小説家。
冒頭の章では、幼い朝見のアメリカで知り合った子供たちとの思い出が語られる。
次章以降では、長じて小説家になった朝見は、アメリカでの近所の遊び友だち、カズ、アンと東京で再会し、ときどき飲んで語るようになる。
3姉妹の長姉のアン(杏)は日本に住むようになり、朝見とは2か月に一度くらいのペースで会い、気の置けない友となる。
少し名の知られた作詞家になっていたカズ(夏野和樹)とは40年ぶりに東京で出会い、年に2回ほど飲んでいた。そのうち、3人でも会ってお酒を飲むようになった。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
60代の様々な、個性的な男女の気軽な付き合い、楽しい会話が続く。年寄り、とくに年寄り初心者には「へー、そんなものなのか」と興味を持って読めるだろう。若い人には退屈かも。
川上弘美さんは、こんな変わった人たちと付き合っているのか、との下世話な興味でも読める。誰が??
とくに、朝見とカズの、気の置けない友人なのか、淡い恋心を持ったままの付き合いなのか、なんともいえない二人の付き合い方、会話がいろいろ考えさせられ、楽しめる。恋が始まるのだろうかと読み進めていっても、2人の距離はある一定を保ったまま。それでもそばにいると心地よく、会ってはたわいない話をし、互いに心を許していることはわかる。
大人の男女の心地よい距離感を、コロナ禍の社会の中で、ゆったりとした気の置けない会話で描き出す川上さんの文に浸ってしまう。
川上弘美の略歴と既読本リスト (明日UPします)
帰国子女:英語の単語が日本語の喋り言葉の中にあらわれると、日本式の発音ではなく、急に英語の発音に戻ってしまう。(彼はカメラをかまえ→彼はキャメラをかまえ)
因循(いんじゅん):古い方法にこだわって改めないこと。
アジャパー:伴淳三郎が流行らせた言葉。
三島由紀夫:三島で開かれた、デビュー作「花ざかりの森」が載った雑誌の編集会議で、ペンネームが「三島由紀夫」に決まった。「由紀夫」は、「編集員が東京から三島へ行ったから」という説と、「車窓から見た富士の白雪が美しかった」からという説がある。