角田光代著『あなたを待ついくつもの部屋』(2024年7月30日文藝春秋発行)を読んだ
舞台は帝国ホテル。じんわり心が温まる、42編のショートストーリー
母に教わった「バーの味」、夫婦で訪れた憧れの上高地……。
全国3か所の帝国ホテルを舞台に織りなす、めくるめく部屋の物語。
帝国ホテル発行の会報誌「IMPERIAL」で11年間にわたって連載した、42編のショートショートを一冊にまとめました。
幻想的な夢の世界を描くものもあれば、現実の夫婦を描いたものもあり、また過去と現在を行き来して語るものも。42編すべて趣向の違う、角田光代さんの幅の広さを思い知る短編集です。
1話5ページで読める短い文章量ながら、じんわりと心が温まり、時には泣け、時には笑えるストーリーが詰まっています。
(収録作)
クロークに預けたままの、亡夫の荷物。夫の秘密がそこにあるのか――開いた鍵の先に、妻が見たものは(秘密を解く鍵)
半年に一度しか会えない小学校6年生の娘。連れだってブフェに行くも、娘はなかなかマスクを外さない(父と娘の小旅行)
窓から射しこむ朝の光、錆びた流し台にしたたる水滴の音――ホテルで眠る夜、どこかで出会った部屋たちの夢をみる(表題作・あなたを待ついくつもの部屋)
他、全42編
帝国ホテルは、もっとも歴史があるのが内幸町にある「帝国ホテル東京」で、他に「帝国ホテル大阪」、「上高地帝国ホテル」の3か所がある。したがって小説の舞台もこの3か所に限定される。
217頁で42篇だから、一遍平均5頁のショートショートだ。
「月明りの下」
結婚15年目の記念で上高地帝国ホテルに予約したのに喧嘩して一人だけで来てしまった芳恵は……。
「父の秘密」
退職した父が週三日必ず高級ホテルへ出かける。母に頼まれて娘が尾行すると、……。
「だれかのために」
結婚式を控えた結子はプランナーの本城さんから聞かされた。「祖母が昭和の初めにこのホテルで結婚式を挙げたというのが自慢だったが、……」
「家族の元旦」
始めて娘なしの年越しを迎える夫婦は、ホテルの新春プランに参加するが、つい娘がいればと思ってしまう。レジで出会った白髪の婦人が唐突に「娘がね、はじめて呼んでくれたんです」と、……。
「光り輝くその場所」
楓子は姉の結婚式でそのホテルに初めて入った。その時、文学賞の贈呈式を垣間見て、小説家になることは、夢ではなく目標になった。そしてそこに今、楓子は立っている。(角田さんの話?)
初出:「IMPERIAL」80号~122号
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
さすが角田さん、一応面白く読まされてしまう。
平均5頁の掌編で、舞台は帝国ホテルに限定され、42篇も続くのに、最後まで読んでしまった。毎回、異なる人物、場面紹介に字数を取られたうえで、各話に一つだけポイントを作り上げるのは大変だ。
どうしても話しになりやすい上高地ホテルの話が多い。
作中で紹介される老舗ホテル自慢(真偽を私は保証しません)
・柿ピーを最初に出したバーがある
・北欧にテーブルに色々な料理を並べるスモーガスボードをヒントにして日本で最初にバンキングを始めた。
・関東大震災で多くの神社が焼けた。ホテル内に神社を作って結婚式を始めた先駆け。