一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第36回将棋ペンクラブ大賞贈呈式に行く(中編)

2024-11-12 20:35:22 | 将棋ペンクラブ
今年の将棋ペンクラブ大賞は、

【観戦記部門】
大賞:若島正 優秀賞:後藤元気
【文芸部門】
大賞:弦巻勝 優秀賞:松本博文
【技術部門】
大賞:藤井猛 優秀賞:金子タカシ
【特別賞】
熊澤良尊

の各氏である。大賞の常連が並び、内輪の会のようだ。しかし選考は当然ながら、公平に行われている。
なお藤井九段はこの日、東京・渋谷で行われている第37期竜王戦第1局の大盤解説およびイベント出演のため、こちらは欠席となっていた。相手が「竜王戦」では、こちらに勝ち目はない。
「この前の詰みは見えませんでした」
と、幹事のM氏が話し掛けてきた。私はすぐにピンときた。先日アップした当ブログ記事の、社団戦の打ち上げでの「湯川博士―Aku戦」のことをいっている。Akuさんが湯川玉に勝負手で迫ったのだが、実は自玉に詰みがあった、というやつだ。「だけどAkuさんの▲7一金もすごい手でしたね」
近くにAkuさんがいたので、M氏はそちらのフォローも忘れなかった。
茂山氏が来た。わざわざ大阪からの来京で、お疲れ様である。
ミス荒川放水路のMISAKOさんも来た。
「来週10月12日は荒川放水路が通水100周年になるんですけど、知ってます?」
と、とっておきの情報を伝えた。
いまMISAKOさんは落語を趣味としているが、今後も両国亭で出る意思はあるようだ。
湯川氏も来た。やはり先日の落語会の話になる。
「大沢さんこの前、二次会来なかったじゃない」
「はあ、知り合いがいなかったもので……」
「私がいたじゃない」
「……」
それはそうなんだが、ほかに誰か知己が欲しかったのだ。ま、湯川氏との将棋談義はまたの機会ということで。
18時になり、開演。司会進行は我らがKan氏である。いま将棋ペンクラブは、Kan氏抜きには活動できない。
まずは、最終選考委員・西上心太氏の総評。
「最近はAIが全盛で、私たち素人でもリアルタイムで局面の形勢が分かる。だけどそれで分かった気になっていいのかな?という気がします。その対極にあるのが、日数を置いて書かれる観戦記です」
そして、各受賞者への講評となった。
「若島さんの作品は、(新聞)観戦記は翌日も読まれるものですが、後を引く面白さに仕上がっていました。
後藤さんの作品は、昔のエピソードを盛り込んで、読み応えのある作品になっていました。
弦巻さんの作品は、この世界で何十年と生きてきた実績が光っていました。
松本さんの作品は、一般誌連載だったので、そういう方が読んでも面白い内容になっていました。
藤井さんの作品は、魂の記録といいますか、AIのない時代に『藤井システム』を創ったのはすごかったです。
金子さんの作品は、タイトル通りロジカルに分類して、将棋の上達にふさわしい本だと思います。
熊澤さんの作品は、『近代将棋』などの表紙を飾った作品ですが、独学で一流の駒師になったのは奇跡です。
以上、苦しみながらも楽しかった選考でした。受賞者の皆様、おめでとうございます」
続いて、木村晋介会長による賞状授与である。この、木村会長のミニ選評も味わい深いのだが、会長は選考委員から外れたため、コメントはなかった。
続いて受賞者のスピーチである。これは会報にも掲載されているが、当然内容は異なる。
まずは若島氏。「いつもは詰将棋作家ですが、きょうは観戦記者ということで。観戦記者は、生で将棋が観戦できる面白さにあります。おカネを払ってでも見たい。ただし、原稿料がいただければ、それはそれでありがたい。今後も見る人の代表として、観戦記を書いていきたい」
続いて後藤氏。「自分の実力を過不足なく出せたかなと思います。若島先生の文章には、若さがあると思いました。それを見習って、勢いのある観戦記を書いていきたいと思います」
続いて弦巻氏。「将棋ペンクラブのおかげで、いい思い出ができました」
続いて松本氏。「たくさんのことを聞いて、その中から何を書くか、というところを工夫しました。プライベートなことまで聞いて、ギリギリのところまでを書きました。だけどちょっと突っ込みを欠いたところもありまして、インタビューを終えたあとに結婚を発表された棋士もいました……」
続いて、藤井九段の代理で出席したマイナビ出版編集者・島田氏。「藤井先生の細部へのこだわりがすごくて、文字を漢字にするか、ひらがなにするかなど、このくらいじゃないと藤井システムは創れないんだな、と思いました。とにかく文章がすごくて、技術部門と文芸部門の両方が対象でもいいんじゃないかと思いました」
続いて金子氏。「必至問題というのは、ある意味詰将棋よりも難しくて、詰将棋は答えを見れば分かりますが。必至問題は答えを見ても、なんでこれが正解なの?と思うところがあります。そこでこの本では、そこを分かりやすく説きました」
続いて熊澤氏からのメッセージ。代読は湯川氏が行った。「今回の本は2冊目ですが、およそ半世紀、私が駒にリスペクトして生きてきた痕跡であり、駒に興味のある方には、何かの参考になればとうれしく思います。昨今は本離れが進んでいますが、それに抗う将棋ペンクラブの活躍は重く、ますますの発展を祈ります」
熊澤氏の最後の一文が、私たち将棋ペンクラブ会員の立場を端的に物語っている。
さてこれで、いよいよ乾杯である。私たちはめいめいビールを注ぐ。この行為が私はあまり得意でないのだが、まあいい。
音頭はおなじみ、所司和晴七段である。所司七段もまた講評があるが、そこは乾杯なので、大賞受賞者のみのそれとなった。賢明な判断である。
「若島さんの作品は、将棋ではAIの最善手をもとに研究しますが、若島さんの得意なチェスの世界では、5~6番目の手を研究するそうで、なるほどなと思いました。
文芸部門は、今回は小説がなく、残念でした。弦巻さんの作品は、昭和の時代が懐かしく、楽しく読ませていただきました。ぜひ続編をお願いいたします。
藤井さんの作品は、これだけ分厚い本は、力作だと感じました。藤井システムといえば居玉が有名ですが、講座では玉を囲うなど配慮がされております。一生モノとして棋力向上の助けになると思いますし、文芸部門としても優秀と感じました」
ここでようやっと乾杯となった。私は、牛丼は食べたものの水は飲まなかったので、ビールの最初の一口は美味かった。
(つづく)
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