一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

美しき矢内理絵子女流四段に、いろいろ教えていただく(その5)

2013-04-25 01:11:01 | 女流棋士
美しき矢内理絵子女流四段は、指導対局時と同じ席。木村晋介将棋ペンクラブ会長は、矢内女流四段の並び。中年氏のふたりは緊張しているのか、テーブルの端に移動してしまった。M氏は先ほどの席と変わらず。いったんテーブルの端に出ていた私も迷ったが、けっきょく隅の位置に戻った。
というわけで、席の配置を記しておこう。

        壁
     晋介 理絵子
 中年1  □  □  仕切り
   中年2 M 一公

まずは飲み物だが、矢内女流四段はこのあとクルマの運転があるとかで、ウーロン茶。私たちは生ビールで、乾杯となった。
乾杯したはいいが、何を話していいのか分からない。木村会長は押し黙ったまま。中年氏はモジモジして、まったく戦力にならない。M氏は元から無口である。私が話してもいいのだが、矢内女流四段相手だと、ボロを出しそうで怖い。矢内女流四段とは初対面。NHK杯の司会でケラケラ笑う矢内女流四段をゲラゲラ笑わせるのが私の夢だが、きょうはまだ早い。せいぜいいいオジサンを演じなければならない。
緊張の空気が漂ったとき、助け舟を出してくれたのがまたまた桂扇生師匠で、打ち上げ中にもかかわらず、M氏と中年2氏の間にすわり、進行役のごとくしゃべり始めてくれた。扇生師匠は、女流棋士が好きなのだ。
とはいえ、進行役なら矢内女流四段がお手の物である。
「(師匠は)声がよく通りますけど、訓練とかなさるんですか?」
「いえ、してません!」
「ああ、そうなんですか」
「自然にこうなりました」
「師匠の持ちネタはいくつあるんですか?」
「150。アタシは少ない方です。……でもこの独演会は38回になりますけど、同じネタを2度やったことはありません!」
気分をよくする師匠。しかしこれでは、聞き手がアベコベである。
その後も、扇生師匠がしゃべり、矢内女流四段が聞くというスタンスが続いた。し…師匠、師匠の話はいいから、将棋の話を!
ようやく矢内女流四段が話し手に回る。いまは女性の将棋ファンを増やすのが課題だと矢内女流四段は熱く語った。
そこから女流棋界の話になった。さすがに矢内女流四段の顔も曇る。女流棋界はいま、LPSAの対局拒否問題などがあり、のっぴきならない状況なのだ。
「そんなの、簡単なことじゃねえか。(女流棋士会とLPSAが)くっつけばいじゃねえか! 仲良くすればいいじゃねえか!」
桂扇生師匠はのたまうが、そう簡単にいかないのが世の常だ。事実扇生師匠だって、1984年に落語芸術協会から落語協会に移籍しているのだ。
後方では、打ち上げのメンバーの面々が、「(将棋の先生)綺麗ねぇ…」とつぶやいている。何だか、自分が褒められているようで、うれしい。
ところで矢内女流四段はこのたび、女流棋士会会長に就任した。矢内女流四段にかかる期待は大きいが、矢内女流四段ならそれに応えるだろう。
桂扇生師匠はここで退席。「としちゃん」での次の独演会は6月9日(日)だそう。本人のライフワークでもあり、次も弁舌滑らかな噺を聞かせてくれることだろう。
おつまみは刺し身の舟盛り、煮物、鶏の唐揚げが出ている。どれも美味しそうだが、皆さん口が綺麗で、ほとんど箸をつけない。
頃はよしと、私も矢内女流四段に話しかける。
「マイナビは来期もやるんでしょうか?」
「…はい」
いまはごちゃごちゃしているが、開催することは開催するらしい。
「今度女流棋士会長になられましたよね」
「はい、選任されました」
矢内女流四段は私に向き直り、まっすぐに私を見つめていう。私と話すのだから当然といえば当然だが、なかなかできないことである。その澄んだ瞳は、私の薄汚い心を浄化してくれるかのようだ。
会長職に任期はないという。つまり活動次第で、長期政権になる可能性もあるわけだ。矢内女流四段は「後継者」も決めているらしく、それは誰かと問うたら、
「上田さんです」
と教えてくれた。なるほど、上田初美女王は将棋界全体のことを考えている。彼女は適役だ。これからの女流棋士会は、若手女流棋士がグイグイ引っ張っていくのだろう。
「――私、○○○に住んでいるんですけど、むかし○○○駅前の将棋センターで、矢内先生が将棋を指されていたのを見たことがあります」
「ああ、そうですか」
私の地元のことから話を拡げようとしたのだが、これは不発だった。
NHK杯の話題に変える。矢内女流四段は2009年4月からNHK杯将棋トーナメントの司会を務め、今期で5年目になる。当ブログと同い年だ。
永井英明氏からバトンタッチして、女流棋士の司会は20年以上になるだろうか。そのほとんどが3年交代だったから、私は矢内女流四段も3年契約だと思っていた。
しかし矢内女流四段の答えは「ノー」。1年契約の積み重ねで、毎年年明けに新規契約の打診が来るらしい。
とすれば、5年目に入る矢内女流四段の司会は、視聴者からの反響がいいという証左だろう。
ひとつ気になっていたことがある。対局者がたまたま関西棋士で、解説も関西棋士だった場合、矢内女流四段が大阪に出向くのだろうか。
それを問うと、これも「ノー」だった。
プロデューサーの関係上、収録も東京になる。それと、NHK杯用の照明機材が東京にしかないから、というのも理由のひとつだった。
…と、またまた正面に向き直って説明され、私はボーッとしてしまう。
――そのときだった。…あれっ!? …スーちゃん!? 矢内女流四段のこちらを見る顔と、キャンディーズのスーちゃんの顔が、一瞬重なった。矢内理絵子女流四段とキャンディーズのスーちゃんは似ている…!! な、なんて綺麗なんだ矢内先生!!
午後7時になった。ここで木村会長が促し、矢内女流四段も退席となる。あまり引き留めるのも味が悪い。
「(居酒屋での指導対局は)にぎやかで楽しかったです」
と矢内女流四段。最後はみなが立ち、拍手でお見送りとなった。将棋ペンクラブのプロデュースらしい、飾らないイベントだった。

主役がいなくなり、緊張が弛緩した。中年氏のひとりは紅潮した表情で、
「矢内さんのファンになって15年、やっと指導対局の夢が叶いました。きょうは矢内さんの顔をまともに見られませんでした」
とつぶやいた。女流棋士との指導対局。程度の差はあれ、誰もが同じ感慨を持ったと思う。むろん私もそうだ。今回の席を設けてくれた中年氏には、心より感謝したい。
M氏が私に、
「これで矢内さんは『女流棋士ファンランキング』にランクインしますか?」
と訊いてきた。
私は答えた。

「もちろんです」

(おわり)
コメント
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