一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

4月の将棋ペンクラブ将棋会(中編)・謎の美人の快進撃

2013-04-27 02:44:15 | 将棋ペンクラブ
彼女はNa氏と知り合いらしい。どこまで親しいのか分からぬが、もし私がNa氏と逆の立場だったら、こんな将棋バカのたまり場に、彼女を呼んだだろうか。そうはしなかった気がする。
それはともかく、彼女をテーブルの中心に据え、改めて乾杯となった。どこの世界でもそうだが、女性がひとり入ると、場がパッと明るくなる。高校生活の3分の2が「男子校」だった私は、とくにその感を強くするのだ。
「魚百」はアカシヤ書店・H氏や湯川博士幹事が常連なので、飲み会時でも将棋は可である。彼女はこのあと橋本崇載八段の将棋バーに行くなど、予定が立て込んでおり、1時間ほどでここを去るという。それは残念だが、時間もないので、さっそく彼女に将棋を指してもらうことにした。
相手はOh氏。彼女の先手で、相居飛車になった。彼女は棒銀に出て、▲1五歩△同歩▲同銀△同香▲同香と捌く。いかにも指し慣れている感じだ。
その間にも、彼女にいろいろ話を聞く。いま話題のキンタロー。を目一杯かわいらしくした感じの彼女は、ジャズを生業にしているらしい。将棋はむかし家族から手ほどきを受けて駒の動かし方は知っていたが、外国に在住していたとき日本のモノが恋しくなり、ネットで将棋を勉強し始めたという。
これは以前にも「将棋ペン倶楽部」に書いたことがあるが、世間にいろいろモノが溢れている中で、若い女性がオジサン趣味の将棋に食指を動かしてくれるとは、一将棋ファンから見ればこの上ない喜びで、彼女に感謝の念を禁じ得ないのである。
そんな彼女とOh氏との平手戦、しかしいくら何でも、Oh氏が圧勝すると思った。
しかし形勢は意外に離れていない。彼女の玉形も手厚く、とてもいい形をしている。これは棋力に関係なく、彼女の将棋感覚が優れているのだ。
いくつか料理が運ばれてくるが、相変わらず上品な味で、うまい。刺し身も新鮮で、「魚百」の看板にふさわしい。
A氏は「ボクも大沢さんが毎日ブログを更新しているのを見習って、将棋ペンクラブのブログを毎日更新していますヨ」などといい、ふたりで文章談議をしてはいるのだが、どうも隣の将棋が気になってしまう。
将棋は形勢不明のまま、終盤になだれ込む。隣の席で飲んでいたオジサンが、その様子を見に来る。居酒屋で、ファミレスで、フェリーの上で。将棋を指していれば、つい覗きたくなるのが人情なのだ。女性が男性と互角に指している姿を見て、オジサンは何を感じ取ったか。
局面。現在は▲3七桂がアタリになっているが、彼女はその桂を2五に跳ねた!! それが下の局面である。

先手・彼女:1六成香、2五桂、3六歩、4四銀、4五歩、5九飛、6六歩、6七金、7八玉、7九角、8六銀、8七歩、8九桂、9七歩、9九香 持駒:金、歩2
後手・Oh:1一香、1四歩、2二銀、2三玉、2四歩、3四歩、5二飛、5四歩、6三歩、6四角、7三桂、7六歩、9一香、9三歩 持駒:金、銀2、桂、歩4

▲2五桂のところ、厳密には▲2五歩が本手だと思う。しかし、取られそうな桂を最後のご奉公とばかり2五に跳ねる手は、ふつうの女子には気が付かない。その発想力が素晴らしいのである。
対してOh氏は△2五同歩。これも△2一桂が本手だと思うが、ここは妙手▲2五桂の顔を立てて、△同歩と取ったわけだ。
以下▲2五同成香△4六歩▲2九飛△5五桂に、彼女はノータイムで▲3四成香! 取れば▲3五金までの詰みで、これもその辺の女子には指せない手である。
やむない△3二玉に▲4三成香△3一玉。ここで彼女は自玉の不詰みを読み切り、▲5二成香。以下Oh氏の王手ラッシュに玉を3五まで逃げ越し、Oh氏が投了。彼女のうれしい勝利となった。
いやはや、この勝利は私たち全員がド肝を抜かれた。Oh氏は結構な実力者である。そのOh氏に一歩も引かず、打ち勝ってみせたからだ。一体彼女は、どこから出て来たのか!?
ちょっとこれは大将が出たほうがいいよ、ということで、Kun氏が対戦することになった。
彼女の先手で、今度は角換わりに進む。彼女、またも棒銀に出たが、Kun氏が玉を動かさないのを見て、「これじゃ効果がない」と▲3七銀と引き戻した。
うーむ、出来る!
ここで私たち一同は、またも感心したのである。
Kun氏は右玉に組む。彼女は▲4六銀と出直して、▲3五歩。△○○○に、▲2四歩△同歩▲3四歩△同銀となったが、ここで初めて彼女の悪手を見た。
▲3五歩。これは△2三銀となって、歩損だけが残ってしまった。ここは誰がどう見ても▲2四飛の一手。以下△2三金(銀)▲2八飛△2四歩でさあこれから、という将棋である。
対局中に指し手のことで話しかけるのはタブーだけれど、「▲3五歩はマズかった」と苦言を呈してしまった。
ここからはKun氏がペースを掴む。自然な指し手で優位を拡げ、圧勝形も見えて来た。
席を外していたOh氏が戻ってきた。すぐ近くの「アカシヤ書店」で、升田幸三実力世第四代名人の著書を買ってきたらしい。かなりの年代モノだが、せいぜい1,000円ぐらいとフンだら、3,500円だった。古本屋の世界は奥が深い。
そろそろ彼女の退席の時間が近付いている。ここで引き分けに持ち込めば、彼女に瑕は付かない。それが味がいいだろうと私は提案するが、彼女はまだ指したそうである。
すると彼女は、じゃあ帰る前にもう一手とばかり、えいっと▲7五歩と突き出した。
また投げやりな手を…と、私は内心苦笑する。さ、本当にこのあたりでそろそろ…。
というところで、彼女が▲7五歩の狙いをつぶやく。それを聞いて私たちは、またも唸ったのだった。
(つづく)
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