第62回天童桜まつりの2日目である。前夜はホテルで、山形着の高速バスの料金を調べたりした。
最安値は4列シートで、3,000円なんていうのもあった。私の体力も衰えたもので、数年前の私なら、黙って3,000円のほうを選んだに違いない。
さて9年前の私は、1日目に帰京し、2日目は神奈川県横須賀市のお寺で行われていた、LPSAイベントに参加していた。藤森奈津子女流四段や中倉宏美女流二段が講師に名を連ねていたからだが、今だったら2日目も人間将棋を楽しむか、山形県近郊を観光していただろう。
9時過ぎにホテルをチェックアウト。向かいのセブンイレブンでおにぎり3コ、それにレジ前にあるみたらし団子を買った。
前夜と逆のルートで舞鶴山山頂に向かう。今日は前日と違って、同行の士が多い。私は歩きには自信があるが、若者にどんどん抜かれていった。
山頂に着くと、ものすごい観光客だった。
「きょう神木隆之介くるんだよ。ヤバくね?」
とかいう女性の声が聞こえる。今日は11時10分から、映画「3月のライオン」に出演している神木隆之介と大友啓史監督のトークショーがあるのだ。
さらに進むと、観覧席がほぼ満席になっていた。前日は通路だった大盤の前も、今日は観覧席に開放しているが、こちらも通路1人分を残して満席だ。
私は観覧席最上に上がったものの、あまりにも人が多くて、再び大盤前に戻る。
櫓裏の芝生席を解放するとの放送があった。こちらからも神木クンを見てよいという意味だが、そちらも人でいっぱいだ。
その一隅では、島井咲緒里女流二段がフーリオ君を伴って「ネコSHOGIバトル」のチラシを配っていた。今日はそちらのスタッフに専念するようだ。
島井女流二段が私を確認した。
「けやきカップの時はごあいさつに行こうと思ったんですけど…」
と島井女流二段。私なぞに挨拶に来なくていいが、そう思ってくれただけでもありがたい。
芝生席にはどんどん人が集まって、こちらもパンク寸前だ。まったくどうなっているのだ。神木隆之介はそんなに人気があるのか??



10時30分、人間将棋盤の上では天童花駒おどりが始まった。しかし観客が多すぎて、私は建物の隙間から様子を窺うのみだ。昨日のゆとりある見物から一転、今日は何を見るにも一苦労だ。

将棋コーナーではもちろん将棋が指されている。コーヤン流三間飛車VS居飛車穴熊と、本格的な戦いもある。さすがに駒所天童、指し将棋の手練れも多いのだ。
45分からは神輿渡御。天童のハッピを着た男女が神輿を担いでいて、これだけを見ればここが人間将棋会場とは思われない。
観覧席は立錐の余地もない満席で、人があふれだしている。今日は女性の警備員さんが整理しているが、彼女は熊倉(当時)紫野女流初段にちょっと似ていた。
11時10分になり、神木隆之介と大友監督のトークショーになった。2人は大手門向こうの櫓に登る。彼らの姿を確認し、ギャラリーは物凄い歓声である。
早速トークショー開始。といっても建物に遮られて、私は彼らを確認できない。それでも女性ファンらは身を屈めるなどして、少しでも彼らを目に焼き付けようとする。しかしそんなに神木隆之介はスターだろうか?
そもそも神木隆之介といえば、私には「SPEC」の一十一(ニノマエ・ジュウイチ)のイメージしかなく、3月のライオンと言われてもピンと来ないのだ。
ところで今日は温かい蕎麦が無料で1,500人分ふるまわれる。11時50分配給開始なのに、店の前には早くも列が作られていた。
神木隆之介が反対側を向いた。芝生席への配慮で、今度はそちら側から歓声が上がる。二人のほかにももう一人いる感じだが、誰なのかは分からない。
私は困惑したまま、30分のトークショーが終了した。時刻は12時になり、昨日の人間将棋を振り返るコーナーとなる。大盤に室谷由紀女流二段、中村桃子女流初段が登場し、藤井猛九段が聞き手を務める豪華版だ。
3人が登場した。相変わらず観光客は多いが、大盤の脇は空いているので、とりあえずそこに陣取る。
藤井九段「皆さんこんにちは。ラブミー・テンドー」
藤井先生、早速ブチかましてくれた。このフランクさが、藤井九段の人気の秘密であろう。
女流棋士の二人は、「きのう殿様言葉を使ったので、その口グセが抜けなくて困りました」と笑う。今日は天童市のハッピを着て、これがまたよく似合う。
幸い観光客が少しひけたので、私は移動通路の一角に座った。結果的に、前日より大盤に近づけたことになる。大盤左に藤井九段、右に室谷女流二段、中村女流初段。あらためて女流棋士二人は、女優とみまがうばかりの美しさだ。
藤井九段はポソポソながらも弁舌なめらかで、女流棋士はキャッキャッ言いながら進行する。それを間近で観覧する私はこの時、間違いなく幸せだったのだろう。

途中で室谷女流二段が大盤から降りた。壇上にふたり並ぶのは厳しいようだ。
藤井九段はニコ生で中継を見たり見なかったりだったらしい。

「ここで▲5八金と打ったんでしょ?」
と藤井九段。
「公式戦ならそう指すんですけど、時間がないから▲4五桂と攻め合ったんです」
と中村女流初段。その気持ちはよく分かる。
そこから数手進んで第2図。

この局面、先手玉には詰みはなく、後手玉には▲1一角など怖い手がある。
藤井九段「ここで由紀殿の裏切りが出たのね」
実戦は△3一金打!! 中村女流初段は金を入れず攻め合い、室谷女流二段は金を入れて自陣の憂いをなくした。最後は室谷女流二段が華麗に詰ませたというわけだった。
ハイスピードで飛ばしたため、予定時間が3~4分余ってしまった。そこでミニトークショーとなる。

藤井九段が
「棋士のトークショーはおもしろいんですかね」
と自虐的なことを言う。
藤井九段がふたりに前日の行動を聞くと、室谷女流二段は
「水車そばに行ってました」
と言う。昨日は中村女流初段とほぼ同じ行動だったが、唯一の違いがこの蕎麦屋で、室谷女流二段はここの蕎麦を食べてきたらしい。
それは昼だったのか夜だったのか。もし夜だったら、私は遭遇するチャンスがあったかもしれない。結局、私と室谷女流二段は、すれ違う運命なのだ。
(10日につづく)
最安値は4列シートで、3,000円なんていうのもあった。私の体力も衰えたもので、数年前の私なら、黙って3,000円のほうを選んだに違いない。
さて9年前の私は、1日目に帰京し、2日目は神奈川県横須賀市のお寺で行われていた、LPSAイベントに参加していた。藤森奈津子女流四段や中倉宏美女流二段が講師に名を連ねていたからだが、今だったら2日目も人間将棋を楽しむか、山形県近郊を観光していただろう。
9時過ぎにホテルをチェックアウト。向かいのセブンイレブンでおにぎり3コ、それにレジ前にあるみたらし団子を買った。
前夜と逆のルートで舞鶴山山頂に向かう。今日は前日と違って、同行の士が多い。私は歩きには自信があるが、若者にどんどん抜かれていった。
山頂に着くと、ものすごい観光客だった。
「きょう神木隆之介くるんだよ。ヤバくね?」
とかいう女性の声が聞こえる。今日は11時10分から、映画「3月のライオン」に出演している神木隆之介と大友啓史監督のトークショーがあるのだ。
さらに進むと、観覧席がほぼ満席になっていた。前日は通路だった大盤の前も、今日は観覧席に開放しているが、こちらも通路1人分を残して満席だ。
私は観覧席最上に上がったものの、あまりにも人が多くて、再び大盤前に戻る。
櫓裏の芝生席を解放するとの放送があった。こちらからも神木クンを見てよいという意味だが、そちらも人でいっぱいだ。
その一隅では、島井咲緒里女流二段がフーリオ君を伴って「ネコSHOGIバトル」のチラシを配っていた。今日はそちらのスタッフに専念するようだ。
島井女流二段が私を確認した。
「けやきカップの時はごあいさつに行こうと思ったんですけど…」
と島井女流二段。私なぞに挨拶に来なくていいが、そう思ってくれただけでもありがたい。
芝生席にはどんどん人が集まって、こちらもパンク寸前だ。まったくどうなっているのだ。神木隆之介はそんなに人気があるのか??



10時30分、人間将棋盤の上では天童花駒おどりが始まった。しかし観客が多すぎて、私は建物の隙間から様子を窺うのみだ。昨日のゆとりある見物から一転、今日は何を見るにも一苦労だ。

将棋コーナーではもちろん将棋が指されている。コーヤン流三間飛車VS居飛車穴熊と、本格的な戦いもある。さすがに駒所天童、指し将棋の手練れも多いのだ。
45分からは神輿渡御。天童のハッピを着た男女が神輿を担いでいて、これだけを見ればここが人間将棋会場とは思われない。
観覧席は立錐の余地もない満席で、人があふれだしている。今日は女性の警備員さんが整理しているが、彼女は熊倉(当時)紫野女流初段にちょっと似ていた。
11時10分になり、神木隆之介と大友監督のトークショーになった。2人は大手門向こうの櫓に登る。彼らの姿を確認し、ギャラリーは物凄い歓声である。
早速トークショー開始。といっても建物に遮られて、私は彼らを確認できない。それでも女性ファンらは身を屈めるなどして、少しでも彼らを目に焼き付けようとする。しかしそんなに神木隆之介はスターだろうか?
そもそも神木隆之介といえば、私には「SPEC」の一十一(ニノマエ・ジュウイチ)のイメージしかなく、3月のライオンと言われてもピンと来ないのだ。
ところで今日は温かい蕎麦が無料で1,500人分ふるまわれる。11時50分配給開始なのに、店の前には早くも列が作られていた。
神木隆之介が反対側を向いた。芝生席への配慮で、今度はそちら側から歓声が上がる。二人のほかにももう一人いる感じだが、誰なのかは分からない。
私は困惑したまま、30分のトークショーが終了した。時刻は12時になり、昨日の人間将棋を振り返るコーナーとなる。大盤に室谷由紀女流二段、中村桃子女流初段が登場し、藤井猛九段が聞き手を務める豪華版だ。
3人が登場した。相変わらず観光客は多いが、大盤の脇は空いているので、とりあえずそこに陣取る。
藤井九段「皆さんこんにちは。ラブミー・テンドー」
藤井先生、早速ブチかましてくれた。このフランクさが、藤井九段の人気の秘密であろう。
女流棋士の二人は、「きのう殿様言葉を使ったので、その口グセが抜けなくて困りました」と笑う。今日は天童市のハッピを着て、これがまたよく似合う。
幸い観光客が少しひけたので、私は移動通路の一角に座った。結果的に、前日より大盤に近づけたことになる。大盤左に藤井九段、右に室谷女流二段、中村女流初段。あらためて女流棋士二人は、女優とみまがうばかりの美しさだ。
藤井九段はポソポソながらも弁舌なめらかで、女流棋士はキャッキャッ言いながら進行する。それを間近で観覧する私はこの時、間違いなく幸せだったのだろう。

途中で室谷女流二段が大盤から降りた。壇上にふたり並ぶのは厳しいようだ。
藤井九段はニコ生で中継を見たり見なかったりだったらしい。

「ここで▲5八金と打ったんでしょ?」
と藤井九段。
「公式戦ならそう指すんですけど、時間がないから▲4五桂と攻め合ったんです」
と中村女流初段。その気持ちはよく分かる。
そこから数手進んで第2図。

この局面、先手玉には詰みはなく、後手玉には▲1一角など怖い手がある。
藤井九段「ここで由紀殿の裏切りが出たのね」
実戦は△3一金打!! 中村女流初段は金を入れず攻め合い、室谷女流二段は金を入れて自陣の憂いをなくした。最後は室谷女流二段が華麗に詰ませたというわけだった。
ハイスピードで飛ばしたため、予定時間が3~4分余ってしまった。そこでミニトークショーとなる。

藤井九段が
「棋士のトークショーはおもしろいんですかね」
と自虐的なことを言う。
藤井九段がふたりに前日の行動を聞くと、室谷女流二段は
「水車そばに行ってました」
と言う。昨日は中村女流初段とほぼ同じ行動だったが、唯一の違いがこの蕎麦屋で、室谷女流二段はここの蕎麦を食べてきたらしい。
それは昼だったのか夜だったのか。もし夜だったら、私は遭遇するチャンスがあったかもしれない。結局、私と室谷女流二段は、すれ違う運命なのだ。
(10日につづく)