(8日のつづき)
室谷由紀女流二段は温泉にも入ったそう。天童を満喫しているようである。
12時30分からはプロ棋士のトークショー。人間将棋盤上の左から藤井猛九段、中村桃子女流初段、三浦弘行九段、阿部健治郎七段、室谷女流二段が着座した。三浦九段と阿部七段はこのあと人間将棋を行うので、武者姿。藤井九段、室谷女流二段、中村女流初段は裃の肩衣姿で、両女流に至っては、昨日からコスプレ三昧の趣すらある。マニアにはたまらない絵であろう。
司会は藤井九段が務める。私はさっきと同じ位置から見たが、5人がやや遠い。
藤井九段が
「三浦君、久しぶりだねえ」
とジャブを飛ばす。会場から苦笑がもれたが、さすがに事情通が多い。「今年ちょっと見かけただけで会ってなかったけど」
こんな軽口が飛ばせるのも、藤井九段、三浦九段、阿部七段が同じ一門(西村一義九段)だからだ。三浦九段は苦笑するしかないが、元気そうだ。
阿部七段は人間将棋2回目。今年の5月から、出身地である山形県酒田市に活動拠点を移すという。「でも地方にいるデメリットは感じません。ネットもありますし」
室谷女流二段は、山形は5回目だが、天童桜まつりは初めてとのこと。それはそうだろう、もし以前に来童していたら、私が赴いていたはずだから。
中村女流初段も2回目の天童だそう。前回は阿部七段と一緒だったらしいが、それは阿部七段のほうが忘れていた。
三浦九段は18年ぶりだが、前回は雨。高名な棋士に「落武者のよう」と言われたらしい。
藤井九段は4回目。棋士が順番に天童に招ばれるなら、1回招ばれれば御役御免、という計算だ。それが4回も招ばれるということは、それだけ地元の評判がよかったということだ。
しかしどうも、私の居場所がわるい。ここで聞き続けてもいいのだが、私は通路を横切って、向こう側に移る。こちらのほうが室谷女流二段を近くで撮れるからだ。
話題は「3月のライオン」になる。なにしろ今回の桜まつりは、これとのコラボなのだ。
驚いたのは、参加棋士全員が同マンガを読みこんでいたこと。各自好きなキャラもいるらしい。
ちなみに私は、将棋マンガは読む気がしない。しょせんフィクションだからである。
さてこの後の人間将棋であるが、藤井九段は
「対抗形じゃないと解説しないからね」
と恐ろしいことを言う。「角換わりの将棋にしたら、オレ一言もしゃべんないよ。横歩取りもしゃべんないと思うよ」
それで、どちらかが飛車を振ることになったようだった。
13時から、人間将棋の開幕である。私は向かって左側にある大盤付近に戻ったが、観戦者が多すぎて入れない。入場制限になってしまったのだ。
解説は藤井九段、聞き手はまず室谷女流二段が務める。こうなることが分かっていたのだから、さっきは移動せずに、その場所を確保しておくべきだった。
昨日と同じ、織田信長と東西の戦武将が登場し、チャンチャンバラバラとやる。だが私の場所からはほとんど見えない。
合戦はまた決着がつかず、将棋で決着をつけようぞ、となった。松明がたかれ、織田信長の呼び出しにより、三浦九段、阿部七段が登場した。
阿部七段「三浦殿、いろいろ大変だったであろう」
三浦九段は再び苦笑するばかりである。
藤井九段「すべての駒が効率よく、イキイキと動くことを期待しております」
これは慣例どおりにすべての駒を動かせよ、という兄弟子の命令でもある。
ここで神木隆之介と大友啓史監督が再び登場し、振り駒を行う。「貴重な経験で、緊張しています」と神木隆之介。粋なサプライズで、先に帰ってしまったファンは残念なことだった。
阿部七段の先手となった。阿部七段は偶然にも「先手カラー」の青の甲冑だった。双方が櫓に乗り、対局開始。
「序盤は早く飛ばしたいぞ」と▲1六歩。以下△1四歩▲9六歩△9四歩と、前日と同じ腹の探り合いとなった。前日は振り飛車党同士の戦い、本日は居飛車党同士の戦いだが、注目は前日と同様、「どちらが得意戦法を放棄するか」だ。
数手進んで三浦九段「うーん、やりたくないけど」と△4二飛。「何とかシステムだな」。
創案者の藤井九段は満足気で、これで解説をやってくれそうだ。
私の位置からでは藤井九段の背中と室谷女流二段の正面が見える。しかしその手前の台が障害物になって、室谷女流二段が見えにくい。大盤はもっと見えない。返すがえすも、さっきの移動は大失敗だった。
阿部七段はミレニアムに組んだ。これは三浦九段得意の囲いで、これで升田幸三賞を受賞したこともある。局面だけを見れば、▲三浦九段VS△藤井九段のようだ。
神木クンらが帰ってしまったので一部の観覧者も引け、大盤手前の通路にやや余裕ができた。やや迷ったが、私はそこに潜り込む。これで室谷女流二段の全身を視野に入れることができたが、あらためて、すさまじい美しさである。
だが、邪魔なのがその手前に鎮座するニコ生のビデオカメラだ。室谷女流二段のみを鑑賞するぶんには構わないが、写真に収めるとき、カメラが邪魔になるのだ。なんで視聴者が満足して、私に不満が残るのだ。
三浦九段は左銀を△6三に引きつける。「ダイヤモンド美濃は室谷さんのように美しい。△5四歩」。
しかし言われた室谷女流二段は、ピンときていないふうだ。
美人に美人と言っても意味がないのだろう。実際私もサラリーマン時代、応募すればミス日本グランプリ確実、という同期に「美人」を連呼したが、ちっともいい顔をされなかった。よって室谷女流二段をよろこばせる言葉は、
「最近将棋が強くなりましたネ」
これだと思う。
そろそろ不動駒が少なくなってきた。先手は▲1九香・▲2八飛・▲4七歩、後手は△2一桂・△2三歩・△6一金が残っている。
そこで三浦九段は△6二金上。これに藤井九段が唸った。
「これはネ、次に△6一金と引こうということなんです。後手はこの形が最善で、もう動かしたくない。だけどこれなら金を動かしたことになりますから」
案の定、三浦九段は△6一金と引く。藤井九段、心底感心のテイであった。
(つづく)
室谷由紀女流二段は温泉にも入ったそう。天童を満喫しているようである。
12時30分からはプロ棋士のトークショー。人間将棋盤上の左から藤井猛九段、中村桃子女流初段、三浦弘行九段、阿部健治郎七段、室谷女流二段が着座した。三浦九段と阿部七段はこのあと人間将棋を行うので、武者姿。藤井九段、室谷女流二段、中村女流初段は裃の肩衣姿で、両女流に至っては、昨日からコスプレ三昧の趣すらある。マニアにはたまらない絵であろう。
司会は藤井九段が務める。私はさっきと同じ位置から見たが、5人がやや遠い。
藤井九段が
「三浦君、久しぶりだねえ」
とジャブを飛ばす。会場から苦笑がもれたが、さすがに事情通が多い。「今年ちょっと見かけただけで会ってなかったけど」
こんな軽口が飛ばせるのも、藤井九段、三浦九段、阿部七段が同じ一門(西村一義九段)だからだ。三浦九段は苦笑するしかないが、元気そうだ。
阿部七段は人間将棋2回目。今年の5月から、出身地である山形県酒田市に活動拠点を移すという。「でも地方にいるデメリットは感じません。ネットもありますし」
室谷女流二段は、山形は5回目だが、天童桜まつりは初めてとのこと。それはそうだろう、もし以前に来童していたら、私が赴いていたはずだから。
中村女流初段も2回目の天童だそう。前回は阿部七段と一緒だったらしいが、それは阿部七段のほうが忘れていた。
三浦九段は18年ぶりだが、前回は雨。高名な棋士に「落武者のよう」と言われたらしい。
藤井九段は4回目。棋士が順番に天童に招ばれるなら、1回招ばれれば御役御免、という計算だ。それが4回も招ばれるということは、それだけ地元の評判がよかったということだ。
しかしどうも、私の居場所がわるい。ここで聞き続けてもいいのだが、私は通路を横切って、向こう側に移る。こちらのほうが室谷女流二段を近くで撮れるからだ。
話題は「3月のライオン」になる。なにしろ今回の桜まつりは、これとのコラボなのだ。
驚いたのは、参加棋士全員が同マンガを読みこんでいたこと。各自好きなキャラもいるらしい。
ちなみに私は、将棋マンガは読む気がしない。しょせんフィクションだからである。
さてこの後の人間将棋であるが、藤井九段は
「対抗形じゃないと解説しないからね」
と恐ろしいことを言う。「角換わりの将棋にしたら、オレ一言もしゃべんないよ。横歩取りもしゃべんないと思うよ」
それで、どちらかが飛車を振ることになったようだった。
13時から、人間将棋の開幕である。私は向かって左側にある大盤付近に戻ったが、観戦者が多すぎて入れない。入場制限になってしまったのだ。
解説は藤井九段、聞き手はまず室谷女流二段が務める。こうなることが分かっていたのだから、さっきは移動せずに、その場所を確保しておくべきだった。
昨日と同じ、織田信長と東西の戦武将が登場し、チャンチャンバラバラとやる。だが私の場所からはほとんど見えない。
合戦はまた決着がつかず、将棋で決着をつけようぞ、となった。松明がたかれ、織田信長の呼び出しにより、三浦九段、阿部七段が登場した。
阿部七段「三浦殿、いろいろ大変だったであろう」
三浦九段は再び苦笑するばかりである。
藤井九段「すべての駒が効率よく、イキイキと動くことを期待しております」
これは慣例どおりにすべての駒を動かせよ、という兄弟子の命令でもある。
ここで神木隆之介と大友啓史監督が再び登場し、振り駒を行う。「貴重な経験で、緊張しています」と神木隆之介。粋なサプライズで、先に帰ってしまったファンは残念なことだった。
阿部七段の先手となった。阿部七段は偶然にも「先手カラー」の青の甲冑だった。双方が櫓に乗り、対局開始。
「序盤は早く飛ばしたいぞ」と▲1六歩。以下△1四歩▲9六歩△9四歩と、前日と同じ腹の探り合いとなった。前日は振り飛車党同士の戦い、本日は居飛車党同士の戦いだが、注目は前日と同様、「どちらが得意戦法を放棄するか」だ。
数手進んで三浦九段「うーん、やりたくないけど」と△4二飛。「何とかシステムだな」。
創案者の藤井九段は満足気で、これで解説をやってくれそうだ。
私の位置からでは藤井九段の背中と室谷女流二段の正面が見える。しかしその手前の台が障害物になって、室谷女流二段が見えにくい。大盤はもっと見えない。返すがえすも、さっきの移動は大失敗だった。
阿部七段はミレニアムに組んだ。これは三浦九段得意の囲いで、これで升田幸三賞を受賞したこともある。局面だけを見れば、▲三浦九段VS△藤井九段のようだ。
神木クンらが帰ってしまったので一部の観覧者も引け、大盤手前の通路にやや余裕ができた。やや迷ったが、私はそこに潜り込む。これで室谷女流二段の全身を視野に入れることができたが、あらためて、すさまじい美しさである。
だが、邪魔なのがその手前に鎮座するニコ生のビデオカメラだ。室谷女流二段のみを鑑賞するぶんには構わないが、写真に収めるとき、カメラが邪魔になるのだ。なんで視聴者が満足して、私に不満が残るのだ。
三浦九段は左銀を△6三に引きつける。「ダイヤモンド美濃は室谷さんのように美しい。△5四歩」。
しかし言われた室谷女流二段は、ピンときていないふうだ。
美人に美人と言っても意味がないのだろう。実際私もサラリーマン時代、応募すればミス日本グランプリ確実、という同期に「美人」を連呼したが、ちっともいい顔をされなかった。よって室谷女流二段をよろこばせる言葉は、
「最近将棋が強くなりましたネ」
これだと思う。
そろそろ不動駒が少なくなってきた。先手は▲1九香・▲2八飛・▲4七歩、後手は△2一桂・△2三歩・△6一金が残っている。
そこで三浦九段は△6二金上。これに藤井九段が唸った。
「これはネ、次に△6一金と引こうということなんです。後手はこの形が最善で、もう動かしたくない。だけどこれなら金を動かしたことになりますから」
案の定、三浦九段は△6一金と引く。藤井九段、心底感心のテイであった。
(つづく)