12日(金)は、「大野金曜教室」に行った。
教室は午後6時から10時まで。川口駅に着いた時点で6時は過ぎていたが、駅構内で立ち食いそばを食べた。今ではこれがひとつのスタイルになっている。
教室に6時半ごろ入ると、何人かいた。うちひとりは研修会員のKさんで、今日も真摯に盤に向かっていた。
「おお大沢さん、いいところに来た。あとでホームページを見てもらえば分かるけど、熊倉さんの指導対局を7月に入れましたよ。申し込むんでしょ?」
と大野八一雄七段。
「熊倉さん? 熊倉さんって誰ですか。熊倉紫野さんは4月30日で消滅しましたよ。ミヤソウなんて人と指す意味がありません」
「まあそう言わないで」
まったく、あの結婚の報はショッキングだった。女流棋士の結婚はめでたいことだが、いつも虚を衝かれるので、女流棋士ファンはそのたびに狼狽する。
申し込みはとりあえず保留して、大野七段に角落ちで教えていただく。
私の作戦は▲2五飛戦法だ。これ、初見の上手にはけっこう通用するのだが、大野七段にはすっかり手の内を見透かされていて、最近はうまくいっていない。
右のKさんは飛車落ちの手合い。どう見ても角の手合いに思うのだが、研修会での対棋士だと、飛車や飛車香落ちになる。プロが本気を出すとそういうことになるわけだ。
さらにその右の見慣れぬ青年には、大野七段が二枚落ちの定跡を教えていた。
「自由に指していいんですけど、とにかく▲4五の位だけは取るように」。
Kさんは飛車を切ってしまったが、馬と銀で食いついて、意外に勝負になっている。研修会員といえどもプロの卵で、さすがに手の作り方がうまい。
そこにKaz氏が来た。多忙のKaz氏が平日に来るとは珍しいが、仕事は大丈夫なのだろうか。彼は私の左で対局を始めた。
私は▲3五歩と伸ばす。△3四歩と突かせないためだが、その後▲7五歩と伸ばしたのは疑問で、やや作戦が分裂した。大野七段が△7四歩と反発して第1図。

第1図以下の指し手。▲8六飛△8五歩▲7六飛△7五歩▲同飛△7四歩▲7六飛△3五銀(第2図)
▲8六飛で△8五歩と謝らせて▲7六飛。ここで△7二飛なら▲7四歩△同金▲4四角△同歩▲6三銀で下手必勝と考えていたが、もちろんそうはならず△7五歩。
以下▲同飛に△7四歩と収めてから△3五銀とされ、焦った私は悪手を指す。

第2図以下の指し手。▲7五歩△7二飛▲7四歩△同金▲5六飛△6五金(投了図)
まで、大野七段の勝ち。
私は▲7五歩と合わせた。△同歩なら▲同飛で銀取りと飛車成のどちらかが実現する。
大野七段は△7二飛と寄り、▲7四歩△同金となったところで誤算に気付いた。
すなわち、ここで▲3六歩と打ち△4四銀なら▲同角~▲6三銀で良いが、▲3六歩の瞬間に△7五歩と打たれて下手いけない。
それで▲5六飛と避難したのだが、△6五金とされてシビれた。▲5四飛は△5三歩だし、▲1六飛も△1四歩で未来がない。よってここで投了した。
感想戦。やはり私の▲7五歩が動きすぎで、▲4六歩~▲4五歩からじっくり指せばよかったとのこと。
最近の大野七段との指導対局は、終盤までいかず投げるケースが多い。昔はもう少し抵抗できていたのだが、根気がなくなってきたのだろうか。

2局目は、さっきの青年と指す。私の二枚落ちである。
「△5五歩止めとかやめてよね」
とW氏が笑う。それは承知の上である。
対局開始。私はふつうに上手定跡を進める。青年の手つきはたどたどしいが、銀多伝に組み、今定跡を教わったとは思えぬ正確さで進めてきた。
私は右金を駆使し何とか嫌味をつけるが、だいぶ無理をしている。
青年は▲9九に飛車を回り、迎撃の態勢。私は△9七歩成。ここで青年に悪手が出た。
▲9七同角がそれで、ここはふつうに▲9七同香でよかった。
私はありがたく角を取ったが…。

第1図以下の指し手。△7七歩▲7九金△6六角▲6八香△7五角▲6四歩△同銀▲同香△同角▲6五歩△7五角▲6四銀
以下、青年氏の勝ち。
私は△7七歩と打ったのだが、つまらなかった。
ここは何はともあれ△3五桂(参考図)だった。これに▲3六銀なら△5六角。▲3五同銀なら△同銀。▲5六銀なら△2七角▲3九玉△3六角成で、いずれも上手が十分だった。

本譜は角を取り返されたのが痛い。以下▲5六銀の力強い援軍も出て、青年の快勝となった。
青年の勝利を讃えて、投了図を載せておこう。

Kさんは大野七段に勝ったようだ。あの局面から勝ち切ったのはすごい。Kさん、次からは角の手合いで指すのがよい。
ここで一休み。W氏が言うには、青年氏は、ネットでの対局経験はあるという。最近はそのパターンが多いようで、手つきでの強弱を判断できなくなっている。私が数年前に「将棋ペン倶楽部」に予言したものが、現実になってしまった。
大野―Kaz戦はKaz氏が珍しく飛車を振っていた。今は膠着状態で、千日手模様になっている。腰の重い者同士が指すと、往々にしてこういう展開になるのだ。
Kaz氏は▲1八香から穴熊に潜ったが、これは本意ではあるまい。
佐藤氏が見えた。佐藤氏に教えてもらう手もあるが、私はU君と指すことにした。
(つづく)
教室は午後6時から10時まで。川口駅に着いた時点で6時は過ぎていたが、駅構内で立ち食いそばを食べた。今ではこれがひとつのスタイルになっている。
教室に6時半ごろ入ると、何人かいた。うちひとりは研修会員のKさんで、今日も真摯に盤に向かっていた。
「おお大沢さん、いいところに来た。あとでホームページを見てもらえば分かるけど、熊倉さんの指導対局を7月に入れましたよ。申し込むんでしょ?」
と大野八一雄七段。
「熊倉さん? 熊倉さんって誰ですか。熊倉紫野さんは4月30日で消滅しましたよ。ミヤソウなんて人と指す意味がありません」
「まあそう言わないで」
まったく、あの結婚の報はショッキングだった。女流棋士の結婚はめでたいことだが、いつも虚を衝かれるので、女流棋士ファンはそのたびに狼狽する。
申し込みはとりあえず保留して、大野七段に角落ちで教えていただく。
私の作戦は▲2五飛戦法だ。これ、初見の上手にはけっこう通用するのだが、大野七段にはすっかり手の内を見透かされていて、最近はうまくいっていない。
右のKさんは飛車落ちの手合い。どう見ても角の手合いに思うのだが、研修会での対棋士だと、飛車や飛車香落ちになる。プロが本気を出すとそういうことになるわけだ。
さらにその右の見慣れぬ青年には、大野七段が二枚落ちの定跡を教えていた。
「自由に指していいんですけど、とにかく▲4五の位だけは取るように」。
Kさんは飛車を切ってしまったが、馬と銀で食いついて、意外に勝負になっている。研修会員といえどもプロの卵で、さすがに手の作り方がうまい。
そこにKaz氏が来た。多忙のKaz氏が平日に来るとは珍しいが、仕事は大丈夫なのだろうか。彼は私の左で対局を始めた。
私は▲3五歩と伸ばす。△3四歩と突かせないためだが、その後▲7五歩と伸ばしたのは疑問で、やや作戦が分裂した。大野七段が△7四歩と反発して第1図。

第1図以下の指し手。▲8六飛△8五歩▲7六飛△7五歩▲同飛△7四歩▲7六飛△3五銀(第2図)
▲8六飛で△8五歩と謝らせて▲7六飛。ここで△7二飛なら▲7四歩△同金▲4四角△同歩▲6三銀で下手必勝と考えていたが、もちろんそうはならず△7五歩。
以下▲同飛に△7四歩と収めてから△3五銀とされ、焦った私は悪手を指す。

第2図以下の指し手。▲7五歩△7二飛▲7四歩△同金▲5六飛△6五金(投了図)
まで、大野七段の勝ち。
私は▲7五歩と合わせた。△同歩なら▲同飛で銀取りと飛車成のどちらかが実現する。
大野七段は△7二飛と寄り、▲7四歩△同金となったところで誤算に気付いた。
すなわち、ここで▲3六歩と打ち△4四銀なら▲同角~▲6三銀で良いが、▲3六歩の瞬間に△7五歩と打たれて下手いけない。
それで▲5六飛と避難したのだが、△6五金とされてシビれた。▲5四飛は△5三歩だし、▲1六飛も△1四歩で未来がない。よってここで投了した。
感想戦。やはり私の▲7五歩が動きすぎで、▲4六歩~▲4五歩からじっくり指せばよかったとのこと。
最近の大野七段との指導対局は、終盤までいかず投げるケースが多い。昔はもう少し抵抗できていたのだが、根気がなくなってきたのだろうか。

2局目は、さっきの青年と指す。私の二枚落ちである。
「△5五歩止めとかやめてよね」
とW氏が笑う。それは承知の上である。
対局開始。私はふつうに上手定跡を進める。青年の手つきはたどたどしいが、銀多伝に組み、今定跡を教わったとは思えぬ正確さで進めてきた。
私は右金を駆使し何とか嫌味をつけるが、だいぶ無理をしている。
青年は▲9九に飛車を回り、迎撃の態勢。私は△9七歩成。ここで青年に悪手が出た。
▲9七同角がそれで、ここはふつうに▲9七同香でよかった。
私はありがたく角を取ったが…。

第1図以下の指し手。△7七歩▲7九金△6六角▲6八香△7五角▲6四歩△同銀▲同香△同角▲6五歩△7五角▲6四銀
以下、青年氏の勝ち。
私は△7七歩と打ったのだが、つまらなかった。
ここは何はともあれ△3五桂(参考図)だった。これに▲3六銀なら△5六角。▲3五同銀なら△同銀。▲5六銀なら△2七角▲3九玉△3六角成で、いずれも上手が十分だった。

本譜は角を取り返されたのが痛い。以下▲5六銀の力強い援軍も出て、青年の快勝となった。
青年の勝利を讃えて、投了図を載せておこう。

Kさんは大野七段に勝ったようだ。あの局面から勝ち切ったのはすごい。Kさん、次からは角の手合いで指すのがよい。
ここで一休み。W氏が言うには、青年氏は、ネットでの対局経験はあるという。最近はそのパターンが多いようで、手つきでの強弱を判断できなくなっている。私が数年前に「将棋ペン倶楽部」に予言したものが、現実になってしまった。
大野―Kaz戦はKaz氏が珍しく飛車を振っていた。今は膠着状態で、千日手模様になっている。腰の重い者同士が指すと、往々にしてこういう展開になるのだ。
Kaz氏は▲1八香から穴熊に潜ったが、これは本意ではあるまい。
佐藤氏が見えた。佐藤氏に教えてもらう手もあるが、私はU君と指すことにした。
(つづく)