函館に来れば函館山からの夜景が定番だが、2018年に訪れたときは、外国からの観光客がすごく、ものすごい長蛇の列だった。ロープウェイに乗るだけで2時間以上もかかってしまった。
あの夜景がそんなにすごいか、と毒づいたが、自分もそのひとりだから文句は言えない。あれから6年、さらに外国人観光客はさらに増えているだろうし、もう夜景はごめんだ。
結局、私は高台の洋館群を愛でるくらいしかなかった。
私は観光案内所で函館市電の1日乗車券を買い、ぶらぶら歩いていった。
と、道端のコンクリート棒に説明板が掲げられていた。読むと、これは1923年に立てられた、日本最古のコンクリート電柱らしかった。しかも現役というから素晴らしい。
私も函館は何回も訪れているが、この電柱は初めて知った。
そのまま、高台の洋館群に行く。きょうは3連休の初日だが、観光客が少ない。
実は函館という観光地、意外に見るべきところがない。夜景も含めて、一度見ればいいかな、というところが多い。
「カトリック元町協会」「函館聖ヨハネ教会」「函館ハリストス正教会」……。どれも何度も訪れた場所だが、観光なしで函館を去るわけにもいかないので、時間つぶしをしている感じだ。
ここから坂道が見渡せ、その先に電車の軌道と、海岸が広がっている。神奈川県の江ノ電に風景が似ていて、ここは絶好のフォトスポットだ。ただ、ここも観光客は少ない。
「旧函館区公会堂」の前に来た。これは重要文化財で、入場料が要る。でも遠い昔に入ったことがあるから、もう入らない。ちなみにカップルで入ったら、彼女を2階のバルコニーに立たせ、外から撮るのがよい。私は観光地のフォトスポットをいくつも知っているが、ほとんど活用できていない。
「旧北海道庁函館支庁庁舎」を見て、そのまま坂を下りた。時刻は午後2時20分。東京を立ってから、何も食べていない。ふと見ると、時代に取り残されたような、町中華があった。雨よけの側面に「塩ラーメン」と記載があるので、それがウリなのだろう。屋号を「西園」といった。
私は店の外観に惹かれて入ることはないほうだが、とにかく腹が減ったので、入った。中はほぼ満席だったが、カウンターが1席空いていたので座り、塩ラーメンを頼んだ。すると、麺類はこれで終わりのようだった。私にしては珍しく、運がよかったようだ。
厨房は、70代と思しき男性が大将のようだった。この道50年という雰囲気で、これは期待が持てそうだ。
待望の「塩ラーメンは、上にもやしが載っていた。麺はちぢれ麺で、すすると美味い。ラーメンスープもさっぱりしていて、毎日食べても飽きない味である。
右の男性は、塩ラーメンに、チャーハンを折詰にしてもらった。その会計で大将が、ラーメンとチャーハンのセット料金にしたので、男性はいたく感激していた。
この件を男性はSNSに載せるだろう。そして西園の好感度が上がる。損して得とれ、とはこういうことをいう。私の塩ラーメン660円もこのご時世、良心的な値段だった。
さて、体はあったまったので、今度は外から温めようと思う。私は末広町電停から、湯の川行きの市電に乗った。
ガタゴト揺られ、タイム30分で五稜郭公園前着。ここで降りて五稜郭に挨拶し、そののちに湯の川温泉に行ってもいいのだが、それだと五稜郭から函館駅に戻りたくなってしまう。
観光地を多く巡るコツは、面倒なところ、あるいは遠いところを先に済ますことである。
私はそのまま電車に乗り続け、終点のひとつ手前の、湯の川温泉で降りた。むかし湯の川温泉の銭湯に入ったことがあるのだが、そのときは沿道にあった。今回は妙に道路が広くなっていて、どっちへ行っていいのか分からない。終点まで乗るべきだったか、と舌打ちしたが、「湯の川温泉」電停で降りて温泉に入れないのではどうしようもない。
ホテル街をしばらく歩くと、「天然温泉ホテル カモメ館」の看板の下に、「日帰り温泉650円」と記されていた。こうして「見積もり」が書かれてあると、安心する。
受付でおカネを払い、湯船につかる。湯船はそれほど大きくないが、泉質はよさそうだ。
実にいい湯で、表へ出てもぽかぽかだった。電停の近くにコンビニがあり、ソフトクリームを買った。ここはコンビニと呼ぶにはあまりにも土産物が多く、金森赤レンガ倉庫にあった羊羹もここに置いてあった。
レジのお姉さんもかわいらしく、再訪したいものだが、さすがに湯の川温泉はもう来ないと思う。歳を取ると、「ここを訪れるのも最後」という場所が実に多い。
湯の川温泉から再び市電に乗り、五稜郭公園前で降りる。この電停名がなかなか曲者で、ここから公園に行くまでに、結構歩く。いまさら五稜郭もないわけだが、早く札幌に着いても、やることがない。
あっちこっち迷いながら、五稜郭に着いた。この近辺にむかし、うまい蕎麦を食べさせてくれる蕎麦屋があった。蕎麦にそば殻が練りこんであり、生卵がまるまる1ヶついてきた。しかしいつの間にかその店はなくなってしまった。
五稜郭タワーには多くの観光客がいたが、タワーに昇るのは有料なので、やめておく。公園内をぶらぶらした。
といっても、先ほどから雪が舞っており、あたりも暗い。その一隅に、アイスキャンドルをハート型にした撮影スポットがあるが、ひとり旅ではただ鑑賞するのみである。
やることもないので、電停に戻る。その途中、中華料理屋があったが、なんとなく入りそびえる。電停に戻り、近くの「一膳屋」に入る。ここは丼物専門で、値段もリーズナブル。前回函館を訪れたときもここを利用したが、入れ替わりの激しい飲食店業界で、まだ営業を続けているのが素晴らしい。
私は520円の親子丼を食した。
函館駅に戻り、18時48分発の特急北斗21号に乗った。ちなみに、特急料金の半額を狙って新函館北斗から北斗21号に乗ろうとすると、18時06分の「はこだてライナー」に乗らねばならなかった。
自由席6号車はガラガラで、ほかに乗客はいなかった。北海道の玄関口が新千歳空港に移り、函館—札幌の移動は少なくなっているのだろう。
夜の車窓は見るべきものがない。ひたすら体を休め、電車は22時41分、札幌駅に着いた。
(つづく)
あの夜景がそんなにすごいか、と毒づいたが、自分もそのひとりだから文句は言えない。あれから6年、さらに外国人観光客はさらに増えているだろうし、もう夜景はごめんだ。
結局、私は高台の洋館群を愛でるくらいしかなかった。
私は観光案内所で函館市電の1日乗車券を買い、ぶらぶら歩いていった。
と、道端のコンクリート棒に説明板が掲げられていた。読むと、これは1923年に立てられた、日本最古のコンクリート電柱らしかった。しかも現役というから素晴らしい。
私も函館は何回も訪れているが、この電柱は初めて知った。
そのまま、高台の洋館群に行く。きょうは3連休の初日だが、観光客が少ない。
実は函館という観光地、意外に見るべきところがない。夜景も含めて、一度見ればいいかな、というところが多い。
「カトリック元町協会」「函館聖ヨハネ教会」「函館ハリストス正教会」……。どれも何度も訪れた場所だが、観光なしで函館を去るわけにもいかないので、時間つぶしをしている感じだ。
ここから坂道が見渡せ、その先に電車の軌道と、海岸が広がっている。神奈川県の江ノ電に風景が似ていて、ここは絶好のフォトスポットだ。ただ、ここも観光客は少ない。
「旧函館区公会堂」の前に来た。これは重要文化財で、入場料が要る。でも遠い昔に入ったことがあるから、もう入らない。ちなみにカップルで入ったら、彼女を2階のバルコニーに立たせ、外から撮るのがよい。私は観光地のフォトスポットをいくつも知っているが、ほとんど活用できていない。
「旧北海道庁函館支庁庁舎」を見て、そのまま坂を下りた。時刻は午後2時20分。東京を立ってから、何も食べていない。ふと見ると、時代に取り残されたような、町中華があった。雨よけの側面に「塩ラーメン」と記載があるので、それがウリなのだろう。屋号を「西園」といった。
私は店の外観に惹かれて入ることはないほうだが、とにかく腹が減ったので、入った。中はほぼ満席だったが、カウンターが1席空いていたので座り、塩ラーメンを頼んだ。すると、麺類はこれで終わりのようだった。私にしては珍しく、運がよかったようだ。
厨房は、70代と思しき男性が大将のようだった。この道50年という雰囲気で、これは期待が持てそうだ。
待望の「塩ラーメンは、上にもやしが載っていた。麺はちぢれ麺で、すすると美味い。ラーメンスープもさっぱりしていて、毎日食べても飽きない味である。
右の男性は、塩ラーメンに、チャーハンを折詰にしてもらった。その会計で大将が、ラーメンとチャーハンのセット料金にしたので、男性はいたく感激していた。
この件を男性はSNSに載せるだろう。そして西園の好感度が上がる。損して得とれ、とはこういうことをいう。私の塩ラーメン660円もこのご時世、良心的な値段だった。
さて、体はあったまったので、今度は外から温めようと思う。私は末広町電停から、湯の川行きの市電に乗った。
ガタゴト揺られ、タイム30分で五稜郭公園前着。ここで降りて五稜郭に挨拶し、そののちに湯の川温泉に行ってもいいのだが、それだと五稜郭から函館駅に戻りたくなってしまう。
観光地を多く巡るコツは、面倒なところ、あるいは遠いところを先に済ますことである。
私はそのまま電車に乗り続け、終点のひとつ手前の、湯の川温泉で降りた。むかし湯の川温泉の銭湯に入ったことがあるのだが、そのときは沿道にあった。今回は妙に道路が広くなっていて、どっちへ行っていいのか分からない。終点まで乗るべきだったか、と舌打ちしたが、「湯の川温泉」電停で降りて温泉に入れないのではどうしようもない。
ホテル街をしばらく歩くと、「天然温泉ホテル カモメ館」の看板の下に、「日帰り温泉650円」と記されていた。こうして「見積もり」が書かれてあると、安心する。
受付でおカネを払い、湯船につかる。湯船はそれほど大きくないが、泉質はよさそうだ。
実にいい湯で、表へ出てもぽかぽかだった。電停の近くにコンビニがあり、ソフトクリームを買った。ここはコンビニと呼ぶにはあまりにも土産物が多く、金森赤レンガ倉庫にあった羊羹もここに置いてあった。
レジのお姉さんもかわいらしく、再訪したいものだが、さすがに湯の川温泉はもう来ないと思う。歳を取ると、「ここを訪れるのも最後」という場所が実に多い。
湯の川温泉から再び市電に乗り、五稜郭公園前で降りる。この電停名がなかなか曲者で、ここから公園に行くまでに、結構歩く。いまさら五稜郭もないわけだが、早く札幌に着いても、やることがない。
あっちこっち迷いながら、五稜郭に着いた。この近辺にむかし、うまい蕎麦を食べさせてくれる蕎麦屋があった。蕎麦にそば殻が練りこんであり、生卵がまるまる1ヶついてきた。しかしいつの間にかその店はなくなってしまった。
五稜郭タワーには多くの観光客がいたが、タワーに昇るのは有料なので、やめておく。公園内をぶらぶらした。
といっても、先ほどから雪が舞っており、あたりも暗い。その一隅に、アイスキャンドルをハート型にした撮影スポットがあるが、ひとり旅ではただ鑑賞するのみである。
やることもないので、電停に戻る。その途中、中華料理屋があったが、なんとなく入りそびえる。電停に戻り、近くの「一膳屋」に入る。ここは丼物専門で、値段もリーズナブル。前回函館を訪れたときもここを利用したが、入れ替わりの激しい飲食店業界で、まだ営業を続けているのが素晴らしい。
私は520円の親子丼を食した。
函館駅に戻り、18時48分発の特急北斗21号に乗った。ちなみに、特急料金の半額を狙って新函館北斗から北斗21号に乗ろうとすると、18時06分の「はこだてライナー」に乗らねばならなかった。
自由席6号車はガラガラで、ほかに乗客はいなかった。北海道の玄関口が新千歳空港に移り、函館—札幌の移動は少なくなっているのだろう。
夜の車窓は見るべきものがない。ひたすら体を休め、電車は22時41分、札幌駅に着いた。
(つづく)