この3日、4日は、東京・立川市で第2回達人戦の本戦7局が行われる。出場棋士は豪華で、谷川浩司十七世名人、羽生善治九段、佐藤康光九段、丸山忠久九段、森内俊之九段、行方尚史九段、木村一基九段。そして増田裕司七段である。
竜王・名人経験者ら猛者ぞろいの中で、増田七段の名だけが異質だ。しかし増田七段は風貌が私そっくり。しかもフリークラス10年目で、今年度の成績に棋士生命が懸かっている。となれば、増田七段を応援する一手である。けれど、今回の8名のなかで、増田七段を応援する将棋ファンは1%もいまい。上等じゃねぇか。こっちはこっちで静かに応援してやるぜ。
ところで3日は、シフトの関係で1日時間ができた。問題は現地に応援に行くかどうかである。行きたいのはヤマヤマなれど、休みの日は録りだめしたビデオを見ないと、HDDの空きができない。
とはいえ、増田七段の公開対局を見るなど最初で最後のチャンスだ。だけど立川までわざわざ行って、入場料を払ってなあ……。今回はABEMAでの中継があるし、そこで応援でもいいんじゃないか……などと考えたが、どちらが後悔するかといえば「行かなかった」ほうで、それならとチケットを取ることにした。2日深夜のことである。
だがこの類は、チケットを取るにも面倒臭い。まずはチケットぴあにアクセスし、会員にならねばいけない。
ごちゃごちゃ必要事項を書き、メールを開いて登録を済ませ、これでチケットが買える、とサイトを開いたら、「サーバーメンテナンスのお知らせ」と出た。火曜日の02時30分から05時30分まで、かくのごとくでサイトが休止してしまったのだ。このとき、PCの時刻は「2:31」を示していた。
いやぁ、なんたる間の悪さか……。これは神様が「行くな」と告げているのか。とりあえず9時にアラームを合わせ、そのまま寝てしまった。
翌3日、8時30分に小便に起きたが、体もだるいので、私はアラームを解除し、二度寝に入った。
10時30分ごろ起き、ゆるゆると朝食を摂る。スマホからABEMA を見ると、前夜祭の模様が映しだされていた。木村九段の次に増田七段が出て、昨年の予選は準決勝で負けたこと、相手は福崎文吾九段だったが、その福崎九段が午後の決勝戦を前に勘違いして帰ってしまったことなどを、面白おかしく話す。
その合間に、「私はフリークラスなので、参加は今年が最後になると思います……」と現実的なことを述べた。
しかし今年度の成績を見れば、まだ復帰の線はある。これはやっぱり応援に行かなきゃ、と思った。
すぐにでも家を出て、電車内でチケットを購入してもいい。だが一応、PCから取得しようと試みる。
ところがサイトを見ると、3日分のチケットは販売終了となっていた。
あいや……これは2日中に購入せねばならなかったのか?
思わぬ形で立川に行かなくてもいいことになった?のに、こうなったらこうなったで後悔するのである。角館の美女しかり、南足柄市の美女しかり、私はいつも後手を引いている。
仕方ないから、ABEMAでの観戦に入る。いつもながら、ABEMAには感謝あるのみだ。第1局の羽生九段―行方九段戦は、行方九段がうまく指し、制勝。4日の準決勝に駒を進めた。
そして午後1時30分からは、丸山九段―増田七段戦である。丸山九段の先手で、丸山九段は飛車先の歩を突く。これに△8四歩だと、以下角換わりになる。先日も述べたが、角換わりのスペシャリストに正攻法で臨むのは割りに合わない。何か変化球が必要である。
増田七段は9筋の歩を突き越したあと、なんと三間飛車を採った。増田七段は居飛車党のイメージがあったが、飛車も振るのか。ただ丸山九段は対振り飛車が巧みで、なかでも居飛車穴熊は絶品だ。果たして本譜もそのように進んだ。
解説は高見泰地七段、聞き手は竹部さゆり女流四段である。高見七段の解説は的確で、解説場所からはABEMA AIの形勢バーは見えないらしいが、「ここは先手期待勝率52%です」と言った局面が「増田48:丸山52」となってたりして、プロの見立ての凄さにあ然とした。
増田七段は巧みに指す。丸山九段は飛角交換に出たが、これはやや短兵急だった。増田七段は自然に応接し、有利から優勢になった。
高見七段は対局者を達人とリスペクトしつつ、なおも的確な解説を続ける。そのほとんどがAI推奨手と同じで、しかも話術が絶品だ。竹部女流四段の聞き手も毒があってよく、このコンビは最強だ。とにかく私は、高見七段に対する評価を上げた。
さて局面、双方の棋歴を考えれば、本局は丸山九段が勝つだろう。だから増田七段には、少しでも丸山九段に食いついてくれれば、私はそれで満足だった。
だが増田七段は以降も優勢を持続する。ここからは高見七段推奨の俗手が分かりやすい勝ちだが、増田七段はやや迂回手順を指す。細かいがこのあたりが、タイトル経験棋士とフリークラス棋士の差の気がした。
だが増田七段は崩れず、気が付けば、増田七段の形勢バーが90%を越えていた。これ、増田七段が勝つのか? 殊勲の金星か?
増田七段、6筋の歩を竜でむしり取る。これを▲同金なら金打ちで先手玉は詰みだ。
だから丸山九段は8九の地点を香で埋めた。さあここだ。高見七段は△同馬と踏み込む手を指摘したが、これはのるかそるかの手に見えて、優勢なほうは指しにくい。すでに30秒将棋の増田七段は、ここで竜を逃げた。
しかしああ、ここで形勢バーが「増田44:56丸山」になってしまった! 勝勢にも見えた局面が、たった一手の疑問手で逆転する。ここが将棋の恐ろしいところだ。そしてこの形勢はもう、逆転しない。
果たして、以下は形勢が開くばかり。まさに急転直下で、増田七段が投了した。
局後、丸山九段は「だいぶ悪かった」と、負けたかのようだった。丸山九段も、増田七段の置かれている状況は知っていただろう。それだけに、敗勢からの逆転勝ちは、却って立つ瀬がなかったのではないか。
対して増田七段は、「勝ちがあると思ったんだが……」と、悔しさを滲ませた。
増田七段の、夢の時間が終わった。これで今年度は「11勝7敗」となった。順位戦復帰の19勝12敗まで、残り「8勝5敗」。この2連敗でだいぶ厳しくなった。
増田七段はくさらず諦めず、頑張ってもらいたい。
竜王・名人経験者ら猛者ぞろいの中で、増田七段の名だけが異質だ。しかし増田七段は風貌が私そっくり。しかもフリークラス10年目で、今年度の成績に棋士生命が懸かっている。となれば、増田七段を応援する一手である。けれど、今回の8名のなかで、増田七段を応援する将棋ファンは1%もいまい。上等じゃねぇか。こっちはこっちで静かに応援してやるぜ。
ところで3日は、シフトの関係で1日時間ができた。問題は現地に応援に行くかどうかである。行きたいのはヤマヤマなれど、休みの日は録りだめしたビデオを見ないと、HDDの空きができない。
とはいえ、増田七段の公開対局を見るなど最初で最後のチャンスだ。だけど立川までわざわざ行って、入場料を払ってなあ……。今回はABEMAでの中継があるし、そこで応援でもいいんじゃないか……などと考えたが、どちらが後悔するかといえば「行かなかった」ほうで、それならとチケットを取ることにした。2日深夜のことである。
だがこの類は、チケットを取るにも面倒臭い。まずはチケットぴあにアクセスし、会員にならねばいけない。
ごちゃごちゃ必要事項を書き、メールを開いて登録を済ませ、これでチケットが買える、とサイトを開いたら、「サーバーメンテナンスのお知らせ」と出た。火曜日の02時30分から05時30分まで、かくのごとくでサイトが休止してしまったのだ。このとき、PCの時刻は「2:31」を示していた。
いやぁ、なんたる間の悪さか……。これは神様が「行くな」と告げているのか。とりあえず9時にアラームを合わせ、そのまま寝てしまった。
翌3日、8時30分に小便に起きたが、体もだるいので、私はアラームを解除し、二度寝に入った。
10時30分ごろ起き、ゆるゆると朝食を摂る。スマホからABEMA を見ると、前夜祭の模様が映しだされていた。木村九段の次に増田七段が出て、昨年の予選は準決勝で負けたこと、相手は福崎文吾九段だったが、その福崎九段が午後の決勝戦を前に勘違いして帰ってしまったことなどを、面白おかしく話す。
その合間に、「私はフリークラスなので、参加は今年が最後になると思います……」と現実的なことを述べた。
しかし今年度の成績を見れば、まだ復帰の線はある。これはやっぱり応援に行かなきゃ、と思った。
すぐにでも家を出て、電車内でチケットを購入してもいい。だが一応、PCから取得しようと試みる。
ところがサイトを見ると、3日分のチケットは販売終了となっていた。
あいや……これは2日中に購入せねばならなかったのか?
思わぬ形で立川に行かなくてもいいことになった?のに、こうなったらこうなったで後悔するのである。角館の美女しかり、南足柄市の美女しかり、私はいつも後手を引いている。
仕方ないから、ABEMAでの観戦に入る。いつもながら、ABEMAには感謝あるのみだ。第1局の羽生九段―行方九段戦は、行方九段がうまく指し、制勝。4日の準決勝に駒を進めた。
そして午後1時30分からは、丸山九段―増田七段戦である。丸山九段の先手で、丸山九段は飛車先の歩を突く。これに△8四歩だと、以下角換わりになる。先日も述べたが、角換わりのスペシャリストに正攻法で臨むのは割りに合わない。何か変化球が必要である。
増田七段は9筋の歩を突き越したあと、なんと三間飛車を採った。増田七段は居飛車党のイメージがあったが、飛車も振るのか。ただ丸山九段は対振り飛車が巧みで、なかでも居飛車穴熊は絶品だ。果たして本譜もそのように進んだ。
解説は高見泰地七段、聞き手は竹部さゆり女流四段である。高見七段の解説は的確で、解説場所からはABEMA AIの形勢バーは見えないらしいが、「ここは先手期待勝率52%です」と言った局面が「増田48:丸山52」となってたりして、プロの見立ての凄さにあ然とした。
増田七段は巧みに指す。丸山九段は飛角交換に出たが、これはやや短兵急だった。増田七段は自然に応接し、有利から優勢になった。
高見七段は対局者を達人とリスペクトしつつ、なおも的確な解説を続ける。そのほとんどがAI推奨手と同じで、しかも話術が絶品だ。竹部女流四段の聞き手も毒があってよく、このコンビは最強だ。とにかく私は、高見七段に対する評価を上げた。
さて局面、双方の棋歴を考えれば、本局は丸山九段が勝つだろう。だから増田七段には、少しでも丸山九段に食いついてくれれば、私はそれで満足だった。
だが増田七段は以降も優勢を持続する。ここからは高見七段推奨の俗手が分かりやすい勝ちだが、増田七段はやや迂回手順を指す。細かいがこのあたりが、タイトル経験棋士とフリークラス棋士の差の気がした。
だが増田七段は崩れず、気が付けば、増田七段の形勢バーが90%を越えていた。これ、増田七段が勝つのか? 殊勲の金星か?
増田七段、6筋の歩を竜でむしり取る。これを▲同金なら金打ちで先手玉は詰みだ。
だから丸山九段は8九の地点を香で埋めた。さあここだ。高見七段は△同馬と踏み込む手を指摘したが、これはのるかそるかの手に見えて、優勢なほうは指しにくい。すでに30秒将棋の増田七段は、ここで竜を逃げた。
しかしああ、ここで形勢バーが「増田44:56丸山」になってしまった! 勝勢にも見えた局面が、たった一手の疑問手で逆転する。ここが将棋の恐ろしいところだ。そしてこの形勢はもう、逆転しない。
果たして、以下は形勢が開くばかり。まさに急転直下で、増田七段が投了した。
局後、丸山九段は「だいぶ悪かった」と、負けたかのようだった。丸山九段も、増田七段の置かれている状況は知っていただろう。それだけに、敗勢からの逆転勝ちは、却って立つ瀬がなかったのではないか。
対して増田七段は、「勝ちがあると思ったんだが……」と、悔しさを滲ませた。
増田七段の、夢の時間が終わった。これで今年度は「11勝7敗」となった。順位戦復帰の19勝12敗まで、残り「8勝5敗」。この2連敗でだいぶ厳しくなった。
増田七段はくさらず諦めず、頑張ってもらいたい。