穴山伊豆守信良の備えには、本庄越前守繁長、山吉玄蕃允の軍勢が鉄砲を撃ちかけ、矢を飛ばして攻め込む
穴山伊豆の勢も鬨を作って越後勢を迎え撃つ
互いに一足も引くまいと砂煙を踏み立てて馬を八方に馳巡らせ、切れども突けども気にもせず、命を惜しむ武者は一人たりともなく、義を盤石の重きにおいて
両軍の勇将、猛将しのぎを削って戦う
穴山の組には、保坂常陸介、芦沢伊賀守、佐野平右衛門、宇山無辺助など十指を越える週に優れたる勇士有りて敵を崩さんと喚き叫んで戦えば
山吉勢は、これに切り立てられて少し勢い落ちれば、山吉玄蕃は采配を振り立てて、鞍嵩に伸びあがって
「言い甲斐なき者どもかな、脇備えは早粉の如く打ち崩したるを、ただ平突きに突き崩せ、進め、進め」と罵る
これに励まされて、萬貫寺庄太郎、山吉備前守、北條秀之進、飯森摂津守がどっと叫んで短兵急に揉み立てる
北條秀之進は八方に目を配り、敵の大将穴山に組まんとここかしこを馳せ巡り、近寄る敵を斬って捨ていよいよ敵中に入るところ、宇山無辺助が北條の働きを見て、「無辺之助ここにあり、快く戦いて雌雄を決すなり」と喚いて槍を構えて突きかかる
北條はこれを尻目に見て、開き合わせ、槍を搦めて戦えども、双方たがいに譲らぬ勇士ゆえに勝敗はつかず
ここに木部新介走り来りて「相打ちぞ」と名乗って、北條が乗る馬の前足を撫で切れば、馬はたまらず後ろ足を跳ね上げてどっと前のめりに倒れる
北條は真っ逆さまに馬から落ちれば、新介走り寄って北條の首を獲る
、秀之進の子、北條内匠、十六歳「父の敵、逃さじ」と新介を一槍で突き殺して首を奪い返す
さらに無辺之助に突きかからんとしたところに、宇山の郎従に遮られ、むなしく無辺之助に逃げられて、内匠は大いに怒り、瞬く間に郎従ども七人を突き伏せて退く
そのほかにも、あちらこちらで武者の戦い火花を散らす
されども越後勢、萬貫寺庄太郎、飯森摂津守らの鬼神の如き当たるを幸いの働きによって穴山勢は次第に追い詰められて浮足立つ
大将、穴山伊豆守は一歩も引かず乗り回して兵を励まし続ければ、保坂常陸、佐野平右衛門、塩津治部ら獅子奮迅の勢いで迫りくる敵勢を追い戻す
この表にては穴山伊豆守、飫冨三郎兵衛の二備えは未だ一足も去らず、こらえる。
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