付け焼き刃の覚え書き

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「わたしはスポック」 レナード・ニモイ

2010-05-10 | エッセー・人文・科学
 SFテレビドラマ『スタートレック』に宇宙人のハーフであるスポック副長として出演した役者レナード・ニモイが、自分の分身となったミスター・スポックと語り合いながら回想する半生記です。
 そもそも『スタートレック』の異常な人気に振り回され、スポック=レナード・ニモイという世間の評価にうんざりしていた時期に『私はスポックではない』などというタイトルの回想録を出版してケチがついてしまったけれど、作品そのものは愛していたんだというニモイの宣言から話が始まります。
 ゴーサインが出るかどうかのパイロット・フィルム版のエピソードから始まり、めでたくシリーズ化してスタッフとキャストが試行錯誤しながらの第1シーズン、スタッフやキャストがそれぞれの役柄とストーリーの基本を呑み込み理解することで傑作が続々と生まれた第2シーズン、そしてスタッフの交替と会社の横やりが入ったことでグダグダの駄作が続く中でもベストを尽くそうとした最後の第3シーズン。
 放映終了後、さまざまな作品に出演しながら演技者として、あるいは演出家として活躍した時期を挟み、テレビ再放送によって人気がさらに爆発的となって(さらには『スターウォーズ』のヒットが後押しをして)映画化が決定する中、契約をめぐって錯綜するハリウッドの内部事情に言及し、映画『ジェネレーションズ』への不参加を決めるまでが綴られています。
 『スタートレック』という作品の意義、そしてあれほどの人気が出た原因として、ニモイは「われわれは原子爆弾の時代を生きのびる。われわれはほかの惑星の知的生物と接触する。そして彼らは敵ではなく友人となる。そしてわれわれは共通の利益のために力を合わせて働くようになる」という作品のメッセージが、キューバ危機の60年代を生きのびた冷戦下のアメリカ人に受けたのだろうと考えます。病的恐怖へのカンフル剤として機能したというのです。
 また、やがて始まった新スタートレック『ネクストジェネレーション』においては「ミスター・スポックを救出せよ」のエピソードで出演したことにより、新旧ファンを統合することになったと語っています。新作の方がすごい、旧作こそ本物だというような居心地の悪い論争を、旧作のスポックが新作にも登場することで「どちらも同じ作品なんだ」ということにしてしまったのですね。

『イタリア人のスタッフはわたしが到着するだいぶまえに中華料理に辟易し、イタリアから偉大なるシェフを呼んだばかりか、可動キッチンまで運び込んでいた』
 映画『マルコ・ポーロ シルクロードの冒険』に出演するため飛んだ北京の撮影現場はイタリア語と中国語と英語による混沌とした空間だった。

 そういえば、映画最新作にも老スポック役で登場していましたが、アカデミー時代のカークとスポックとマッコイの姿を描くという企画は、まだ『故郷への長い道』を製作している最中にハーヴ・ベネットが思いついたんだそうです。そのときは4の完成後に脚本が突き返されて没になったようですが……。

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