○塙 直子 「信長の庶子」壬生一郎（ヒストリアノベルズ）実は、戦国時代に逆行転生してしまった未来人はそこそこいるらしい。しかし、その多くは貧しい庶民の家に生まれ、その知識を活かすこともできないまま、絶望のままに自死したり、狂い死にしたり、貧困のうちに誰にも知られないまま死んでいっているらしい。
さて、この物語の主人公である織田帯刀（帯刀）は、信長の庶子にあたります。その母の名は直。自ら「子」をつけて直子と名乗るようになりますが、幼い頃から周りに人を寄せつけず、湊にひとり出かけて書を読みあさっていたそうです。直子の父をして「不可思議で掴み所のない、狐のような女」と評しています。その知識は豊富で発想は突飛。また好奇心旺盛。
帯刀が生まれたとき、母子二人で生きていけるだけの生活費を信長に要求し、その代わり帯刀は誰とも知らぬならず者から種を仕込まれたということにしました。家督権のない庶子にしてトラブルを避けるためであり、そして、生活費の大半を使って書物を買いあさって読みふける一方で帯刀に英才教育を施しています。
帯刀もその教育の甲斐あって幼少時より文武に優れ、貨幣鋳造や度量衡の統一などを信長に進言しますが、直子はそれ以上の知識を持ち、女ゆえ表舞台に出られないだけで好き放題に動き回ります。それで文句を言われても、「わらわ、馬鹿な小娘だから分からないわ。キャハッ」と聞き流す腹の据わりよう。
周辺の街道を整備し、自ら書を出すために竹簡をを作り、熱田神宮で即売会を催し、甘い物が食べたくて養蜂を始め、出汁が要ると椎茸栽培に挑み、食肉の確保のために猪や牛、鶏を集めて牧場を作ってはピザを焼き、ブラジャーなる下着を発明しては武将たちに布教します。
すべて「書で読んだ知識から」と言いつつ、どんな書なのか他の誰も知りません。さて、彼女の正体や如何に？
