付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

私的年間ベスト2023

2023-12-31 | ランキング・カテゴリー
 今年も「小説家になろう」等、ウェブ小説が初出の作品を中心に豊作。
 ただ、勘違いしちゃいけないのは、いわゆる「なろう小説」というのは、「現代ダンジョンで配信している凄腕冒険者だが、なぜか人気がまったくなかったのだが、人気の美人配信者を助けたことから再評価されて人気爆発する」現代ファンタジーとか、「マイクの切り忘れから隠していたプライベートが露見して人気爆発」する配信者ものとか、「なんか誰かに酷いことをされたらしい主人公が、その相手を延々と追い詰めて復讐するシーンが続く」悪役令嬢ものとか、そういう人気の定番パターンに沿って書かれた小説……という意味ではないのです。誰でも、自由に書きたいものを書けるプラットフォームに投稿された作品群というだけなので、そこには前期のお約束パターンものも多いけれど、そうでないものもいくらでもあって、探す気があればいろいろ掘り出し物はあるのです。


ゆるコワ!』 谷尾銀
 暇を持て余した女子高生2人がオカルト研究会を立ち上げたものの、部室を手にいれ維持するには活動報告をしないといけない。そこであちこちの心霊スポットを探索し、調査結果を会報にまとめることにしたのだが……。
 連作短編形式のJKオカルトハントものですが、特にスゴい霊能力があるわけでなし、深淵を覗いたオカルト知識があるわけでもないので、なんかあそこに行くと祟られるらしいよ>行ったら普通に祟られたという身も蓋もない顛末を、あまり深く考えない無敵の女子高生モードで突っ走るだけなので、雰囲気的には小野不由美の『ゴーストハント』というより諸星大二郎の『栞と紙魚子』の方が近いかも。

凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ』 しば犬部隊
 南海の孤島に突如出現したバベルの大穴というダンジョンに挑む世界各国のトップ探索者たち。その中でトップレベルの異能持ちの中のさらにトップ、アメリカを代表する指定探索者アレタ・アシュフィールドのチームには、平凡な日本人アジヤマ・タダヒトが補助として加わっていた。彼を“アメリカ52番目の星”にまとわりつくクズと罵倒する外野の者たちは知らない。アジヤマがアレタに寄生しているのではない。アジヤマを監視し保護するために世界トップクラスの探索者たちがパーティを組んでいるのだ……。
 凡人探索者が現代ダンジョンに挑んでいくうちに、その奥底に潜む大いなる存在をぶちかましていくことになる、血しぶき舞い散るバトル小説。どいつもこいつも裏の顔が2枚か3枚あり、良い人も悪い人もガンガン不条理に死んでいくことになります。

太っちょ貴族は迷宮でワルツを踊る』 風見鶏
 食う寝るだけの貴族の三男、ミトロフ・ド・バンサンカイは冒険者にでもなれと実家を追い出されてしまうが、食費稼ぎでミトロフが足を踏み入れた迷宮は、常に死と隣り合わせの世界。そこで偶然に出会ったエルフ族の少女グラシエとミトロフは共闘することにしたのだが……。
 褒められるべきところで褒められず、叱られて育った少年の再生譚です。太っちょ悪役が転生によって改心して痩せる話はそこそこありますが、転生ものじゃないし、なかなかすぐには痩せもしません。少年がこんな風に育ってしまった過程とそこからの立ち直りをきちんと、過不足なく面白く読ませちゃうテンポの良さ。あと、風呂。サービスシーンの場所ではなく、これがないと冒険稼業は出来ないという冒険者再生の場としての風呂なのです。

私の心はおじさんである』嶋野夕陽
 友人も恋人もいない孤独な毎日を過ごしていた43歳のサラリーマン、山岸遥は気がつけば異世界にいた。死んだ覚えも何もないのだが、その身体は見事なプロポーションのダークエルフの美女になっていたのだ。
 その能力はまさにチートな、肉弾戦も強い、魔力無尽蔵の魔法使い。けれども、臆病でお人好しで対人関係が苦手なおじさんの心が足枷になって、異世界の片隅で冒険者になって日雇い暮らしで生きていこう……くらいのつもりになっていたのだが……。

 鋼の肉体に圧倒的な魔法力を持ちながらもウジウジしていた最強美少女ダークエルフ(心はおじさん)が、同期で冒険者登録した少年少女たちに誘われるままパーティを組み、自分の世界を広げていく物語です。

バスタード・ソードマン』 ジェームズ・リッチマン
 地方都市レゴールでギルドマンをしているモングレルは、仲が悪いハルペリア人とサングレール人のハーフで、生まれた村は幼い頃の戦争で滅んで両親も死んでいる。そんなモングレルは実はスゴいギフトも持っている転生者だが、目立ってもろくなことはないとほどほどに戦って、ほどほどに遊び、上げられるランクも上げずに生きている。へたに名が売れて、敵対国家とのハーフが貴族の目に留まっても良いことはないのだ……。
 基本的にスタンピードや魔王の出現みたいな大事件は起きず、国家間の陰謀とか貴族の面倒ごとには巻き込まれないようスローライフしている、珍武器マニアなおっさんギルドマン日記です。

魔女と傭兵』 超法規的かえる
 その大陸には、もはや生き残っている魔女は多くない。超常の力を振るう魔女は人々から恐怖の象徴として恐れられており、普段はアンタッチャブルだが、ときおり威信を高めようとか名声を得ようとか魔女討伐を言い出す王や領主が出現してしまう。魔女シアーシャは、魔女討伐軍唯一の生き残りである傭兵のジグに誰にも追われない場所まで連れて行って欲しいと依頼したのだが……。
 それで別の大陸に渡ったら、そこはモンスターが跋扈していて、とても人間同士争っている暇などない世界だったというバディもののヒロイック・ファンタジーです。

冒険者ギルドが十二歳からしか入れなかったので、サバよみました。』 KAME
 知り合いの行商人に頼んで辺境の農村から町へ単身で稼ぎに出た9歳の少年キリだが、文字が読めたのが幸い。行商人に働き口を紹介してもらうどころか奴隷商に売り飛ばされそうだと気がついて、キリは逃げ出し、冒険者で食っていこうと覚悟を決めたのだが、冒険者ギルドは12歳からしか加入できなかった……。
 いきなりスキルに覚醒して無双するとか、意思を持つアイテムやモンスターに助けられちゃうとか、前世記憶で一攫千金とかとかならない、田舎から出てきた普通の少年の成長譚。薬草採取を続け、ゴブリン1匹に出くわしても命の危機という地味な成長譚だけれど、だからこそ語り口が面白くて最後まで楽しめます。

帝国第11前線基地魔導図書館、ただいま開館中』 佐伯庸介
 最前線こそ娯楽は必要。さもなくば兵の士気は下がりっぱなしだ。そして、読書こそもっともコストパフォーマンスに優れた娯楽なのだとの皇女の肝いりで、最前線基地の1つに蔵書3万冊という図書館が設けられたのだが、そこに司書として赴任したカリアにはもう1つ極秘の仕事が与えられていた……。……。
 眼鏡で八重歯で巨乳にソバカスで口が悪い魔導司書が、戦争という現実に立ち向かう英雄譚。書架の整理、貸し出し業務、延滞図書の回収、傷んだ本の修復、リクエストに応えての本の取り寄せ、レファレンスまで、図書館の仕事がそのまま最前線で起きるさまざまなエピソードと絡み合います。

貧乏騎士に嫁入りしたはずが!』 宮前葵
 侯爵令嬢といっても11番目ともなると教育に金もかけられなくなってくる。そこでそれならいっそと田舎で奔放に育てられたラルフシーヌは、成人のお披露目の際に見初められた貧乏騎士セルミアーネと結婚。ところが王太子の病死や戦死やらで王位継承権が繰り上がり、気がつけばセルミアーネが王太子に繰り上げられていた……。
 後に「規格外皇妃」と呼ばれることになるラルフシーヌの半生記。スラップスティックかと思いきや、野人令嬢が何万もの人々の生命財産に責任を持つ怖さを自覚するあたり、きちんと公私にメリハリついてます。

サムライ転移』 四辻いそら
 戦国時代も末期。武者修行の旅に出ていた黒須三兄弟の末っ子、元親は気がつけば見知らぬ森に迷い込んでいた。そこで彼が出会ったのは土気色の肌をした小男たち。そいつらはこちらの話も聞かず、棍棒を振りかざして襲ってきたのだが……。
 戦国末期に武者修行の旅を続けていた武芸者が、気がついたら異世界に紛れ込んでいたという、異世界転移ソードキルみたいな物語。一度刀を抜いたら殺すか殺されるかの世界に生きていた彼には、もっぱらモンスターくらいしか相手にしていない冒険者はぬるすぎますが、かといって人間を相手にする傭兵でも武芸十八般を身につけ、戦国の世で殺し合い続け腕を磨いていた元親の相手になる者はさほど多くないのです。恐るべし、戦国日本!!


 あと望むなら、もっと作品内容に合わせた挿絵を描けるイラストレイターを起用してもらえると、嬉しいな。スペースオペラなら主人公たちの活躍の場となる宇宙船の姿を一度は見たいし、ヒロイックファンタジーならモンスターなど敵と戦う活劇シーンとか。そういうイラストもない本なら最初からなしでも良いよ。あと、本文の描写とイラストは整合させようね。胸が小さいのを気にしているヒロインのイラストがスイカみたいな胸になっているのを見た時は、憤死するかと思いました……。
 だいたい、イラストが良い話は本文も面白いのですけど、本文が面白いのにイラストがダメだとションボリです。売る気があるのかと。
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★ファンタジー今昔

2023-12-31 | 雑談・覚え書き
 今でこそ剣と魔法のファンタジーはあたりまえですが、70年代あたりまでは『桃太郎』とか『かぐや姫』みたいなファンタジーとメルヘンとおとぎ話でひとくくりにされていて、それにせいぜいギリシア神話とか児童文学系作品あたりがくっついていた程度でしたが、今ではいつの間にかファンタジーと言えば剣と魔法の冒険と認識されるようになっていたのでした。

太陽の王子・ホルスの大冒険』 東映動画(1968)
 アイヌ伝承をモチーフに、少年ホルスが旅の途中で出会った岩の巨人や村人たちと力を合わせて悪魔グルンワルドと戦う冒険マンガ映画。朝ドラ『なつぞら』のモチーフにもなってます。
 和田慎二がグルンワルドの妹ヒルダの大ファンだというのは有名。美少女キャラの代名詞で、(ファンジンや雑誌の投稿を見る限り)クラリス登場までそのトップ独走状態でした。ヒルダの声を担当したのが市原悦子だけれど、『家政婦は見た!』でしか市原悦子を知らない世代はびっくり。

『王家の紋章』細川智栄子あんど芙〜みん (1976)
 財閥令嬢キャロル・リードは王家の呪いによって太古のエジプトへとタイムスリップしてしまう。その金髪碧眼の美貌から少年王メンフィスに見初められるのだが、彼女の真価は何よりも現代科学と歴史の知識にあった……。
 現代人が過去にタイムスリップして現代知識で成り上がる現在のウェブ系ファンタジーの原典ともいうべき少女マンガ。実は未だ連載中で新刊が出る最長不倒作品。これを読んでいると、水のろ過技術とか鉄剣の製法は義務教育と思い込むようになります。

『ヤーケウッソ物語』 中山星香(1977)
 『指輪物語』に傾倒し、ハイファンタジーを描きたくてたまらないけれど、そんなものは世に受け入れられない時代だったので、スラップスティック・コメディにファンタジー要素をちりばめながらの下準備を続けた作者のデビュー作。その経緯が分かるのは、あれこれ描き続けたロマンチック・コメディのコミックにエッセイマンガの形で「三剣物語という構想がある」などと毎回書き綴っていたから。

『ピグマリオ』 和田慎二(1978)
 妖女メデューサによって母ガラティアを石に変えられてしまっていた東方の小国ルーンの王子クルトは、メデューサを倒して母を救うべく遙か西への旅に出たのだが……。
 少女マンガ誌で始まった少年が主役のファンタジー。まだヒロイックファンタジーというジャンルに馴染みがなく第一部で打ち切られたものの、82年に再開されて長期人気作品に。

『クリスタル★ドラゴン』 あしべゆうほ(1981)
 緑の原の一族の少女・アリアンロッドは皆殺しにされた一族の仇を取るために、族長の娘ヘンルーダとともに旅に出た。やがて、強大な力を得る「竜の杖」を手に入れるが、そのまま水晶竜の夢の中に入り込んでしまう……。
 『悪魔(デイモス)の花嫁』で一世風靡していた作者によるケルト神話系をモチーフに、黒髪の美少女の探索の旅を描く大河ロマン。友人のおだったさんが揃えていて読ませてもらっていました。これも息は長く、最新刊は2020年。

『妖精国の騎士』 中山星香(1986)
 ハイファンタジーが描きたい作者も80年頃からロマンスやロマンチック・コメディの体裁で舞台設定がファンタジー世界の物語を送り出し始め、『エルブラントの青い瞳』や『花冠の竜の国』などを発表。86年にはついに本格的ファンタジー『妖精国の騎士』が始まります。

ロードス島戦記(1986)
 パソコン雑誌でのテーブルトークRPG『Dungeons & Dragons』の誌上リプレイから始まった、呪われた島ロードスを舞台に、田舎の若者パーンがエルフやドワーフなどを仲間にしながら続ける旅で繰り広げられる冒険譚。エルフの耳が細長く、女性は胸が薄いという概念はここで固定されました。
 TRPGから誌上リプレイ、書籍化、パソコンゲーム化、アニメ化と、その展開がそのままファンタジー普及の歴史みたいなものですが、一般にまで広まるには小説『ハリー・ポッター』や映画『ロード・オブ・ザ・リング』の大ヒットを待つしかありません。

ハリー・ポッターと賢者の石(1999)
 現代にも魔法使いは存在していて、一般人の知らないところで勢力を保っているのだという、1990年代のイギリスを舞台にした物語で、海外でのヒット後の99年に日本語版が刊行。魔法使いの少年ハリー・ポッターの学校生活にさまざまな不思議な事件や危険な陰謀が舞い込んでくるが、それはいずれもハリーの両親を殺害した強大な闇の魔法使いヴォルデモート復活のための布石であった……という話。

ロード・オブ・ザ・リング(2001)
 人間、ホビット、エルフ、ドワーフなどが住む中つ国(Middle-earth)を舞台に、世界に混沌をもたらし支配しようとする冥王サウロンを滅ぼすために必要な、全てを統べる「一つの指輪」を破壊するための冒険の物語。もはや現代ファンタジーの原点というべき『指輪物語』をピーター・ジャクソンが映画化したもの。
 この大ヒットで、ファンタジーの基本フォーマットが一般大衆に定着したような気がします。


 このあたりから、ウェブ小説が次第に活発になり、ゲームやコミックから逆流するような感じで転生ものやらダンジョン攻略ものなどが増え始めるのですが……。
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