付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

★ライトノベルではないもの

2024-07-21 | 雑談・覚え書き
 先日は「マンガの絵が表紙になった小説はラノベなんですよ」とばかりに「ライトノベル-1.0」をぶち上げたパッケージ論者なのですが、一方で「本文中にモノクロ挿絵があるのがラノベ」とか「少年少女が主人公で、冒険の結果、大人になる/子供のままでいる」とか中身で判断しようという学派もあります。ただ、こう細かくガイドラインを作品内容にまで掘り下げると判断が難しくなります。

■本文中にイラストがない小説はラノベじゃない
『ミミズクと夜の王』 紅玉いづき(2007)
 自ら不自由を選ぶ自由もあるのだという、ミミズと呼ばれていた死にたい少女と夜の王の物語。
 これはラノベの中核ともいうべき電撃文庫ですが、本文にイラストが無いどころかこんな地味な表紙なので、一般的なラノベの定義からは外れます。

『はじめてのゾンビ生活』 不破有紀 (2004)
 人間とゾンビの宇宙興亡千年史。ゾンビというのは差別なので新人類と呼びます。
 『ミミズクと夜の王』と同じく電撃文庫で本文イラスト無し。口絵はゾンビになった人のためのリーフレットです。

『ダイブ・イントゥ・ゲームズ』 佐嘉二一(2020)
 VRゲームにのめりこむ大学生とその仲間たちのゲームプレイの日々。
 レジェンドノベルスは本文イラストを廃止して、その分を表紙イラストに傾注したレーベルです。


■少年少女が主人公じゃない作品はラノベじゃない
『転生したらスライムだった件』 伏瀬(2014)
 ゼネコンに勤務する37歳サラリーマンの三上悟は、通り魔に刺殺されて異世界で最弱のモンスター、スライムに転生する。
 一般文芸に交じって年間売上上位に食い込む、「小説家になろう」発の異世界転生ファンタジー。

『ナイツ&マジック』 天酒之瓢(2013)
 28歳で事故死したメカオタクが異世界転生。思うがままに幻晶騎士こと巨大ロボットの開発に邁進する。
 異世界で巨大ロボット。一歩間違えたらショット・ウェポンになっていたかもしれない男の物語。

『無職転生~異世界行ったら本気だす』 理不尽な孫の手(2014)
 引きこもりの34歳無職はダメ男として死に、剣と魔法の異世界に転生した。彼は決意する。今度こそ本気で生きていこうと……。
 器用貧乏な主人公がなりふり構わず、見栄も何もかなぐり捨てて家族のために戦い働く姿が描かれます。

『幼女戦記』 カルロ・ゼン(2013)
 サラリーマンが異世界転生。変化する環境に適応し、ルールの範囲で仕事を効率的におこなうことでエリート街道に乗った男である。自分がいずこともしれない世界に幼女として転生し、魔法使いとなり、戦場に立つことになろうと、なんら戸惑うものではなかった。
 第一次大戦+第二次大戦のような異世界の戦場で大暴れする少女の物語。

『Re:Monster』 金斬児狐(2012)
 油断してストーカーに刺殺されたESP能力者が異世界でゴブリンに転生。同族相手の殺し合いを生き抜き、ゴブリンをまとめあげ、コボルドや捕虜にしたエルフや人間も組み込んで傭兵団を旗揚げするのだが、その野望はとどまるところを知らない……。
 ゴブリンとして生を受けた転生者が、怪物だらけの異世界で壮絶なサバイバル世界を息抜き、成り上がっていくピカレスク・ファンタジー。主人公を成り上がらせる力となったスキル強奪が、実は転生特典では無く前世からの引継ぎというのが特色。

 このあたりまでが、大人だった主人公が転生して異世界でやり直す話。

『とあるおっさんのVRMMO活動記』 椎名ほわほわ(2017)
 38歳のサラリーマンが新型VRMMOに参加。効率とか攻略とか考えず、異世界での生活を楽しもう……。
 デスゲームでも異世界転移でもないVRゲームで、NPCを同じ人間として扱い愉しくプレイしていく活動記録。

『ゲート:自衛隊彼の地にて、斯く戦えり』 柳内たくみ(2010)
 異世界との門が東京銀座にが現れ、異世界から侵攻してきたファンタジー世界の軍勢によって街は阿鼻叫喚。警察と陸上自衛隊によって事態を収拾した日本政府は、治安維持のために自衛隊をゲートの向こうへと送り出すが、その中に33歳オタク男の自衛官、伊丹の姿があった。
 オタク自衛官の大活躍する話。補給も滞りなく、現代軍隊ほぼ無双。なによりの障害は日本国内外の政治勢力なのです。

『All you need is Kill』 桜坂洋(2004)
 謎の敵ギタイとの戦いに負けつつある人類。新兵だったキリヤは、戦死したはずが30時間前に戻っていた。何度も繰り返される戦闘の中、キリヤは経験のみを過去に引き継ぐことで、新兵なのにいつしか歴戦の勇士と化していた……。
 スーパーダッシュ文庫から刊行され、10年後にはトム・クルーズ主演で映画化されていた。

 このあたりは、大人が大人として働く話。
『29とJK』 裕時悠示(2018)
 コールセンター勤務の槍羽鋭二は、目つきは怖いが会社では一目置かれている29歳。ある日、ネカフェで知り合った女子高生・南里花恋から告白されてしまうのだが……。
 29歳とJK、“禁断の”年の差ラブコメにしてビジネス小説。

『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』 しめさば(2018)
 5年間片思いしていた女上司にフラれ、やけ酒を飲んだ帰り道に吉田は家出少女を拾ってしまう。抱く気は無いけれど、寒空の深夜に道端で蹲る少女を放っておけなかったらしい。らしいというのは、酔っ払いだから記憶が無いのだ。ただ、「泊める代わりに味噌汁を作れ」と言ってしまったらしい……。
 ひとことでいうと「NOといえるサラリーマン」。

『クール美女系先輩が家に泊まっていけとお泊まりを要求してきました……』 識原佳乃(2019)
 新入社員の弓削明弘の新人教育を担当するのは、さまざまな契約をまとめ、社内システムを刷新した才女、瀬能芹葉だ。クール過ぎ、完璧すぎて、むしろ周囲から引かれがちな彼女だが、弓削が見たものは、可愛くて甘えん坊な先輩の姿だった……。
 おまえら、もうつきあっちゃえよ!……ではなく、おまえらまだつきあってないの?な社会人ラブコメ。


『月50万もらっても生き甲斐のない隣のお姉さんに30万で雇われて「おかえり」って言うお仕事が楽しい』 黄波戸井ショウリ(2020)
 松友裕二がいくら働いても無能な上司には認められない。そんな社畜の日々が突然終わりを告げた。偶然知り合った、隣に住むOLの早乙女ミオに雇われたのだ。仕事は有能だが生活力ゼロで極度の人間不信だったミオの彼女の身の回りの世話をして、帰宅した彼女に「おかえり」という仕事だ……。
 仕事は有能でも私事になると「あばばばば」と簡単に幼児退行してしまうお姉さんを、ビジネスもプライベートもきっちりこなせる青年が面倒みているホームコメディ。

社畜男はB人お姉さんに助けられて――』 櫻井春輝(2020)
 終電間際の駅で階段を踏み外し落下してきた美人お姉さんを受け止め助けた大樹だったが、そのほんのすぐ後にまた彼女と再会することになる。高級マンションの前でブラック企業務めからの過労で倒れてしまったのだ。目が覚めると、そこは年上の若き美人社長である如月玲華が住む高級マンションの一室であった……。
 料理が得意な苦労人が、ビジネスでは有能だけれど私生活はポンコツな美女の世話をしながら、後輩の部下たちの面倒をみることになる話。

ぽんこつかわいい間宮さん~社内の美人広報がとなりの席に居座る件~』 小狐ミナト(2022)
 社内エンジニアの藤城悠介は陰キャな24歳。そんな藤城の席に美人で有名な広報部の間宮ユリカがやって来た……。
 一見美人で有能、実はぽんこつかわいい先輩と過ごすオフィスの日々。


 こうしたアラサーリーマン・OLが主役の話は、2010年以降に急増しますので、ライトノベルをジュブナイルとかその亜流として捉える場合は、また再定義が必要となります。これ、完全に文庫とソフトカバー、レーベル毎に傾向がきっぱり別れていれば簡単ですが、あいにく混在しているものですから「ラノベでないものはキャラ小説・ライト文芸」とか切り分けることも困難なのです。そこからライトノベル・キャラクター小説・ライト文芸ひっくるめて再定義ですからね。へたに区切ると「あの有名作品もこの作品もラノベに含まれないというのに、そのライトノベル論に意味はあるの?」となりかねません(自分は言う)。
 魯山人の「日本料理と言っても、一概にこれが日本料理だと簡単に言い切れるものではない。言い切った後から、とやかくと問題が起こり、水掛け論が長びき、焦点がぼけてしまうのが常だからだ」という言葉がまさにあてはまる混沌!
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