
さすがに面白く、700ページ超の大長編を一気に読まされてしまいますが、忍者小説としては、普通……です。
デビュー作の『鴨川ホルモー』では現代の京都の街で大学対抗で式神戦をやり、『鹿男あをによし』で女子高生と教師相手に鹿がしゃべり、『プリンセス・トヨトミ』は大阪の地下に建国されていた大阪国と会計検査院の攻防を描いていたわけですが、戦国時代にひょうたんが話しかけてきても、なんか普通……なんですよね。
山田風太郎の読み過ぎかな。
これで本当に1:10000の戦いが繰り広げられていたなら別ですが、忍者モノなら何があってもあたりまえ……という感覚で読むと、いつもの万城目学に期待してしまう意外な組み合わせではないのです。
形が似ているからいいんじゃない?と、ラッキョウのはずのところにニンニクを使ったのが間違いのもと。柘植屋敷の生き残りである忍者の風太郎はお役御免となってしまった。
そんな風太郎に、世間知らずの貴族の若殿に祇園祭を案内するという仕事が与えられたのだが……。
表向きには死んだことにされての放逐。そして、必要な時には呼び出され、無理矢理に仕事を押しつけられるという、なんかコストダウンのために無理矢理外注化されたブラック企業の下請けみたいな話です。
豊臣と徳川の勢力争いがベースにありながら、最後まで下請け目線で話が進むので、偉い人が登場することはほとんどなく、せいぜい“ひさご様”と“高台院様”くらいで、“大御所様”も“将軍様”も名前だけで、大きな戦いもいつの間にか始まり、いつの間にか終わってしまいます。さまざまな戦のかけひきも、下っ端には関係ないことで、言われたままに言われた場所に行って戦うだけです。
しかも誰が敵で味方かわからないのが忍者の世界。江戸と大坂の思惑が交錯する中、今、誰が誰のために働いているのか、それを本当に指示しているのは誰なのか……五里霧中のまま働いて、見事にやり遂げたとしても簡単に使い捨てにされてしまうのが忍びの世界なのです。
そんな世界で自由気ままにやっているつもりが、最後まで誰かの思惑のままに動かされていた男が、最後の最後に自分で選択する話。本当に、冒険アクション小説の王道的展開でした。
「六百十八じゃ」
とっぴんぱらりのぷう。
【とっぴんぱらりの風太郎】【万城目学】【文藝春秋】【大坂冬の陣】【大坂夏の陣】【果心居士】
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます