付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「ローレライ」 監督:樋口真嗣

2008-01-20 | 架空戦記・仮想戦史
 映画『ローレライ』の話はしません。同じく福井晴敏の小説『終戦のローレライ』の話もしません。ごめんなさい。

 ただ、映画『地球の危機』がテレビドラマ化され『原子力潜水艦シービュー号』が誕生し、映画のシーンを転用したように『ローレライ』もテレビシリーズになればいいのにと思っただけです。
 映画の方は太平洋戦争末期の帝国海軍が3発目の原爆投下を阻止すべく送り出した、スーパー潜水艦<伊-507>の物語。映画の方の大筋を一部無視して、終戦後国連機関に徴用され、混乱する戦後の海洋の平和を維持し、海洋資源調査を進めるために活躍することになった伊-507とN式特殊潜航艇の活躍!ってのが観たいなあ。『マイティジャック』とか『シークエスト』みたいに。
 問題は、今では日本人が「国連」という名前に抱いていた幻想が消えつつあるってことなんだよね。

【潜水艦】【美少女】【第二次世界大戦】
コメント (2)
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「チャリオンの影」 ロイス・マクマスター・ビジョルド

2008-01-19 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「人には常に選択肢が与えられます。たとえ耐えられるかどうかを選ぶ余地がなくとも、いかにして耐えるかは本人の選択に委ねられるのです」
 特使ルーペ・ディ・カザリル荘候の言葉。

 父神、母神、御子神、姫神、庶子神の五柱の神々を崇める異世界を舞台にした五神教シリーズの1作目。

 怪しげな放浪者同然の姿で城下町にたどり着いた男こそ、かつての騎士隊長ルーペ・ディ・カザリル荘候だった。隣国ロクナルとの戦争の際、不可解な停戦と身代金の未払によってガレー船奴隷として売られ、艱難辛苦を乗りこえて必死の思いで祖国チャリオンへと辿り着いたのだ。
 街についても脱走兵ではないかと疑われて宿を落ち着けることすらできないカザリルだったが、彼が少年時代に小姓として仕えていたバオシア藩妃は思いの外彼を暖かく出迎え、孫娘イセーレの教育係兼家令の役を任せた。やっとのことで安住の地を得たカザリルは、鼻息の荒いイセーレの教育係の務めを周囲の期待以上にこなしていく。
 だが、やがてイセーレと弟テイデスは腹違いの兄、チャリオン国主オリコに招かれ宮廷に出仕することになるが、宮廷はカザリルを陥れた宰相一派が支配していた……。

 最初は老人呼ばわりされる放浪者だかといった風体の主人公が実は35歳と知ってびっくり。苦労したんだなあ……。何度も死んでしまうし……。
 ビジョルドお得意の、家柄も能力も劣っているわけじゃないんだけれど自他共に認めるドン底状態の主人公が、運に助けられて本来の力をふるうチャンスを手に入れ、それを活かして一気に復活、成功への階段を進むというパターン。これで主人公が自信満々なタイプだとイヤミになりそうなものだけれど、なんというか自分を粗野で不器用で卑俗でおぞましい雄でしかないのだと過大評価しない控えめな人物なので、「うんうん、よかったね」と応援できます。
 もう1人の主人公、じゃじゃ馬イセーレもなかなか良い感じな少女です。先が楽しみ。

【神】【宮廷劇】【内乱】
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「影の棲む城」 ロイス・マクマスター・ビジョルド

2008-01-18 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「神々の賜る贈り物には必ず罠がしかけられている」
 チャリオン国太妃イスタ・ディ・チャリオンの自戒。

 王家を覆う呪いから解放され狂気を演じる必要が無くなっても、なかば軟禁状態のイスタの身の上は変わらなかった。「狂った女」から「行動に不安のある国王の母」になっただけだ。そしてまた彼女は過去の亡霊、自らの犯した罪から逃れることもできなかった。
 この閉塞感から逃れるためイスタはわずかな供を連れ贖罪の巡礼に出るが、魔に憑かれた巨熊の出現、国境から遙か奥深くでの敵兵の襲撃と予想外の難事に遭遇。助けに現れた郡侯アリーズの居城へ難を逃れるが、彼こそ彼女がその死に責任のある男の息子だった……。

 前作ではちらりと登場する、出番は少ししかないけれど味のある人物たちがメインキャラクター。ヒロインは40歳未亡人、それに元気な騎馬少女のダブルヒロインで話は進みますが、前半ではまだイスタは積極的に動こうとしません。ビジョルドは運と実力でどん底から這い上がっていくキャラクターが好きなんですが、イスタも流れに逆らうのでも流されるままでもなく、自分の意志で動き出してからが見所です。
 後半の攻城戦は壮絶だけれど、魔が猛威をふるうので攻城戦マニアには物足りないかな。留守居の女性陣の活躍にもう1ページでも費やしてくれれば満点。

【セクハラ神】【聖女】【魔】【国境紛争】【レディホーク】
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「シュレディンガーのチョコパフェ」 山本弘

2008-01-17 | その他SF(スコシフシギとかも)
 昨今はトンデモ本の紹介やRPGの方で名を売っているけれど、あいかわらず良質のSF作品を書き続けている山本弘の短編集。
 表題作「シュレディンガーのチョコパフェ」も面白かったけれど、殺戮機械とサイボーグ戦士のボーダーラインを問いかける「奥歯のスイッチを入れろ」、どう考えてもモンティパイソンが元ネタだろうという「メデューサの呪文」、ムーアとカットナーとハガードをこんな風に扱って良いんですか!?という「闇からの衝動」あたりも絶品。バラエティに富んで質の良い作品群でした。

【平行世界】【言語】【サイボーグ】【混沌】【知能】
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「幻獣辞典」 ホルヘ・ルイス・ボルヘス

2008-01-16 | エッセー・人文・科学
 高校の頃はモンスター図鑑みたいなのは世の中に存在せず、それっぽい本の名前を聞き込んだらそれこそ必死で探し回ったなあ。今ならアマゾンかヤフオクか紫式部か……良い世の中になったなあ。ビバ!21世紀。
 そんな不自由な時代に小遣いはたいて手に入れたのが、アルゼンチンの偉大なる(そして知られざる)作家ボルヘスが編纂した『幻獣辞典』。古今東西の文献や伝説から拾い集めた幻想の存在を紹介しているもので、後の新紀元社のシリーズなどと比べると収録数では物足りなくはあるものの文学的にはかなり広くて深いので、入門書としては最適だったのかな(この表現はおかしい?)。
 クラーケンとかスフィンクスとかチェシャ猫とかベヒーモスとか有名どころも載ってますが、なにせ、項目の1番目が「ア・バオ・ア・クゥー」
 なんというか素人には検証反証が難しい本ですわ。
 最近のこういう事典系の本には、原典をあたらず先行の類似書の二次引用とか孫引きみたいな書き写しで作っているような本も見受けられ、間違った記述までも継承されるということがあったりするそうなのだけれど、これについては意図的にデタラメを載せている痕跡がなきにしもあらず。それこそ、ア・バオア・クーなんて他の本で見たことありませんってば。
 あるいは、ペリュトーンについても「ペリュトン(Peryton)」として載ってますが、本当にボルヘスの創作は混ざってないかと疑念を抱いても、出典が「記録はアレクサンドリアの大火で焼失した」「論文は第二次大戦の前まではドレスデン大学に保存されていた」では調べられませんって。どちらも街ごと消えてるではないですか!?
 なにせ独裁政権下で生き延びた作家だけに、作品も一筋縄ではいきません。

【幻獣辞典】【ホルヘ・ルイス・ボルヘス】【幻獣】【文学】
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「複葉の馭者~バーンストーマー」 笹本祐一

2008-01-16 | 冒険小説・旅行記・秘境探検

 1920年欧州。世界大戦が終わって余剰となった複葉機が民間に払い下げられ、それが輸送業務や曲芸飛行などで社会にとけ込み始めた複葉機全盛の時代。
 退役したジョナサン・ウォーカーはソッピース・キャメル戦闘機を利用して空の運び屋をしているが、「何でも、どこからでも、どこへでも」というキャッチフレーズが効いたのか、アフリカから象を運べだとか本当にどこからでも何でも運ばされる日々。
 そんなある日舞い込んだ依頼は、大西洋上空に出没する「鍵十字のついた飛行船」を探せというものだった……。

 ソノラマ文庫で『バーンストーマー~大西洋の亡霊』というタイトルで刊行されたのが、『複葉の馭者~バーンストーマー』と改題してソノラマノベルスから新書で復刊されたもの。イラストがまったく変わっている上に本文も大幅加筆となったら買い直すしかないでしょ……。
 他のシリーズと比べると売れ行きが悪かったらしいのだけれど、まあ、発表舞台が違っていたらもっと人気が出てた気はしますねえ。面白いけど、ソノラマとしてはキャラが普通すぎて弱いかな。

【複葉機】【大戦間期】【ナチスの亡霊】
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「お・り・が・み」 林トモアキ

2008-01-15 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
 中学生の長男が「おりがみを買ってくれ」と言い出しました。
 なんのことかと思ったら、林トモアキの『お・り・が・み』という本を友人が欲しがっているのだけれどこのあたりでは本屋でも古本屋でも1冊も置いてないので、インターネットで注文して欲しいんだとか。
 以前読んで面白いと思っていた『戦闘城塞マスラヲ』が、この『お・り・が・み』の続編ということだったから、巧い作家なんだろうね。魔人・神・現代兵器に日本刀。全世界注目のフルバトルメイドアクション!!というのが本のあおり文句だったから、そんな話。

 アマゾンで検索してみたら、確かに新刊ではそろいません。在庫有り表示のくせにオーダーしたら1ヶ月後の発送になったりするくらい。仕方がないので数カ所に分けて7冊3000円くらいで確保(送料込み)。そしたらどうも長男と2人でワリカンらしい。
 なんだ、おまえも読むのか。全巻一括購入って、どこで知ったんだと問い詰めたら、同級生で持ってるやつがいたらしい。ふうん。ちなみに本が届いた翌日に名古屋へ出かけたらテルミナ地下の三省堂書店に全巻そろってたよ☆ そのときに探していたのは『戦闘城塞マスラヲ』の新刊3巻だけれど、1月頭の発売なのに、1月第1週にライトノベルに強い大型店舗を5軒ほど回って全滅。他の巻はだいたい1冊ずつくらい棚にあるのに3巻だけがない。
 長男に言わせると2巻が出たときもそうだったらしい。書店が山積みするほど発注はしないけれど、入った分は確実に売れるという感じかな。地道に人気だね。
 でも最近のライトノベル全般の傾向だけれど、続き物の作品には通し番号を振ってくれないかねえ。『マリア様がみてる』も『まぶらほ』も『フルメタルパニック!』も。「天の門」「龍の火」「外の姫」「獄の弓」「正の闇」「光の徒」「澱の神」と並べられても順番が覚えられません。

【バトルメイド】【使いっ走り】【魔王覚醒】
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「クリスマス・キャロル」 チャールズ・ディケンズ

2008-01-14 | その他フィクション
 守銭奴スクルージ老人が幽霊や精霊たちに遭遇したクリスマスの奇跡。

「多少とも人間らしい心があるなら、何が余分か、余分でないか、知りもしないで思い上がったことを言うな。誰が生きて、誰が死ぬか、選別できる立場か?」
 現在のクリスマスの霊の叱責。

 何度でも読めるクリスマスの本。ファンタジーと読めないこともないけれど、訳者あとがきにしたがってみたいと思います。つまりそれは意識の底に押し込められた記憶の開放と認識の拡大の物語ということ。
 新潮文庫の村岡花子版は2冊版違いで持っていたけれど、今回、光文社の古典新訳文庫から刊行されたので迷わず購入。活字が少し大きくなり、文章も読みやすくなりました。わかりにくかった表現も脚注ではなく訳文にさりげなく盛り込んでますしね(ジョー・ミラーとか)。
 人間、たとえキリスト教徒でなくても、少なくとも年1回はこの本を読まなきゃいけませんて。読めばたとえ正月だろうと盆だろうと、窓を開けて「メリー・クリスマス!」と叫びたくなります。

【クリスマス・キャロル】
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「灼熱の巨竜」 内田弘樹 

2008-01-13 | 架空戦記・仮想戦史
 「最強戦艦決戦 ラバウル強襲1943」の副題がついているとおり。

 反攻作戦のためにラバウルに進出した第二艦隊は、アメリカ機動部隊の奇襲によって打撃を受けてしまう。しかし南東方面艦隊指揮官の草鹿中将は、逆に雷撃を受けて動けなくなった大和を守る形で武蔵と長門を貼り付けることを決意した。帝国海軍の誇る3隻の巨艦をラバウル軍港を守る盾にして、残りの艦隊を温存しようというのだ……。

 与えられた条件を敵味方が徹底的に分析し、論理的に最適の解を出そうと競い合う、知的パズルの要素が強い作品は面白い。短期的な視野狭窄、感情的な趣味嗜好のはいる余地など無い。そしてここまで冷静に判断したつもりでも、最後の最後は人間の選択に任されるというところも。人間が常に合理的に判断できるとは限らないし、合理的な判断が正しいとは限らないのだ。
 まあ、趣味に走った登場人物たちの物語も好きだけれど、こういう人の生死がかかった話ではおことわり。自分の趣味に自分の命を賭けるのは自由だけれど、他人の命を賭けられちゃかなわない。
 そういう意味で、冷徹に帝国海軍の象徴たる巨竜3艦を切り捨てられる草鹿中将って良いよねえ。

【大和】【ラバウル】【太平洋戦争】【あしたのジョー】
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「人類は衰退しました(2)」 田中ロミオ

2008-01-13 | 破滅SF・侵略・新世界
あまりに格差のある知性同士は、互いに互いを認識できない。

 人間の世界が終わりを告げ、妖精の世界になっている遠い未来。
 人間と妖精の間に発生するトラブルを解決する調整官になった“わたし”が、トラブルに巻き込まれる話。

 今回は逆『アルジャーノンに花束を』に『ミクロの決死圏』というより『ルーマニア潜入作戦』をかけて『ガンバの冒険』をまぶしたような話だったり、欽ちゃんファミリーだったり、『時をかける少女』だったり。とんでもない状況を「まあ、そんなものかなー」で流してしまうお話なので、『食卓にビールを』が好きな人ならお勧めかなー。あー。あれを遠い未来の話にして宇宙人の代わりにこびとさんを出すのー。
 しかしもう本当に人類が衰退しているって思うのは、確かに妖精さんは数も多いし、すごいことができるけれど、別に人間を排斥しようとか自分たちで何かしようっていう気も無さそうでそれこそ日がな一日ドンジャラホイ。なのに、人間の方が「自分たちは国家や文明を維持できないくらい人口も少なくなったし、まあ、自分たちの時代じゃなくなったんだなあ……」と自らリングを降りてるんですよね。こりゃダメだ。
 ソフトなタッチでのんびり物語が紡がれているけれど、羊の皮をかぶったオオカミ。中身はしっかり田中ロミオでした。

【スプーン】【バナナ】【人類は衰退しました】【ループ】【知性】
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「「爆風」ガ島攻防戦!~紅蓮の翼」 内田弘樹

2008-01-12 | 戦記・戦史・軍事
 架空の戦闘攻撃機「爆風」がいかに開発され、戦線に投入され、いかに使われていったかを連作形式に語り続ける仮想戦記の第2弾。こういう表記だけれど、まあ『紅蓮の翼(2)』だよね。
 今回はガダルカナル島の攻防を巡る4話が収録されているけれど、プロローグもそれなりのボリュームと起承転結があるので5話と考えたいし、いやそれなら枚数も少なく内容も次の戦いのための風景をスケッチしているだけの4話はエピローグとするべきなんじゃないかとか、あれこれ余計なことを思ったり。まあ、それぞれが独立した1話ではなく、連続した「第×回」の感覚かな。そう考えるとプロローグは他の話に直接関連していないから、プロローグとしか置けないか……。
 内容的には初陣で地獄を見た新米士官を描いた「プロローグ」、爆風夜襲隊を独自に編成した美濃部中尉が噴進弾を手に入れる「切り札は己のみ」、爆風夜襲隊がサヴォ島沖の乱戦に突入する「巨竜は闇に消ゆ」、ニューカレドニア沖の奇妙なECM戦の顛末を描いた「遠すぎた楽園」、新たな戦いの準備が進む中でおこなわれる模擬空戦の「眼下の敵」。連続した話なので、特にどの話が良いということもなく、ただあちこちでそれぞれの思惑で進む改良や編成がどういう形で結実するか、徒花と散るかを見守る面白さがあります。もう少し爆風視点で話が進んでもいいかなとは思います。なんというか戦艦群の叩き合いの方が面白くないですか。
 しかしまったく本編とは関係ない、おかしな宗教が流行っているらしいボナペ島……って、どんなネタを仕込んでるんですかっ!? 考えすぎ?

【架空戦記】【爆風】【ポナペ島経典】
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「人類は衰退しました」 田中ロミオ

2008-01-12 | 破滅SF・侵略・新世界
 高度に発達した科学は魔法と見分けがつかないそうですが、冗談とも区別できないことに気付きましたよ。

 作者が田中ロミオで、タイトルが人類の衰退ってことで、なんとなく敬遠してました。ごめんなさい。なんとなく陰鬱で難解ってイメージがあったんです。
 でも周囲の評判の良さに読んでみてびっくり。なんかフルーツジュースみたいにごくごく喉を通っていくではありませんか。もちろん、よく考えてみればすごく怖い世界なのですが、きれいにオブラートで包んでごまかしてます。

 人類の黄昏……というか、人口が減少して国家も崩壊し、人間が種としても文明としても回復のつかないところまで衰退してしまって数世紀。人間はほそぼそともっぱら自給自足と物々交換で暮らすようになっていました。もはや「人類」は「人間」を意味しなくなっていたのです。
 地球最後の教育機関の最期の卒業生となった“わたし”は故郷へ帰ってきました。祖父の跡を継いで国連調停官となるためです。人見知りが激しくて一見「深窓の令嬢」だけれど、根は図太い“わたし”は、楽で知的な要職に就きたかったのです。
 そして調停官とは、今や「人類」となった妖精さんたちと「旧人類」である人間との間におけるさまざまな問題を解決するのが仕事なのです。しかし、既に人間の方が数も少なく老境の域に達している上に、妖精さんたちは昨日のこともよく覚えていないくらい時間の感覚が違うので、ここ数十年は事件らしい事件は起こっていないというのですが、それでは要職になりません……。

 図太くて脳天気で人見知りでお菓子作りが巧い主人公が、正体不明で、最盛期の人類すら遙かに凌駕する力を持っているはずの妖精さんたちと繰り広げる日々の記録です。妖精さんは「妖精」ではなく「妖精さん」という言葉のイメージままですが、そこにこういうタイプの主人公を据えた勝利ですかねえ。タイプは違うけれど、なんとなく「食卓にビールを」を思い出しましたよ。

【人類は衰退しました】【田中ロミオ】【ガガガ文庫】【人類の黄昏】【妖精さん】【ペーパークラフト】【地球文化大好き宇宙人】
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「マーカム家の海の物語」 ウォルター・ジョン・ウイリアムズ

2008-01-10 | 時代・歴史・武侠小説
 数日がかりで本棚の整理。長男もちょこちょこ荷物整理でお手伝い。
 至誠堂の海洋冒険小説の1つに「マーカム家の海の物語」という年代記風のシリーズがあり、その4・5巻が『サムは軍艦に乗って行ってしまった』。これを見てひとこと。

「船に乗って行っちゃったのはフロドの旦那の方だよねえ」

 わかってると思うけど、違うからな。

 ジョン・ウイリアムズで、もしかして『ハード・ワイヤード』とか『必殺の冥路』を書いたサイバーパンクSFアクションの旗手だよね? なかなか手広いなあ。

【プライベーター】【ヤンキー】
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「うたかたの空夢~ウルトラマンダイナ」 監督:川崎郷太

2008-01-09 | ミリタリーSF・未来戦記
「死んじゃうとね、好きな人と会えなくなるんだよ……」
 そんな予告編のセンチな言葉など本編にはカケラも出てこない『ウルトラマンダイナ』第42話は、無意味な空想特撮戦記の快作にしてウルトラシリーズの鬼っ子。ウルトラ世界における人類の総力戦を描く血湧き肉躍る、個人的に好きなベストエピソードではあるけれど……ウルトラマンじゃないわなあ……。

 レギュラン星のヅォーカー将軍指揮する宇宙船団が地球へ攻撃を仕掛けてきたのは、火星基地で完成したスペシウム砲試作器を受領するためのシャトルが発進しようとする、まさにそのときであった。
 対空砲群が迎撃を開始。洋上の航空司令部から発進したウィング2号がテキサス砲による長距離支援射撃を行っている間に、地下基地グランドームから4機のガンマ号が緊急発進、シャトルの血路を切り開いた。一方、大気圏外ではクリムゾンドラゴンの戦隊が敵を掃討。シャトルは火星へと飛び立った。
 しかし、この襲撃は陽動に過ぎなかった。
 密かに小惑星帯に向けて発射されていた彗星爆弾は、火星方面艦隊の巡洋艦2隻の砲撃を突破して炸裂。無数の小惑星群が地球や火星へと降り注ぎ始めた。このままでは巨大隕石が火星基地に激突してしまう!
 ここにいたり火星マリネリス基地のナハラ司令とホリイ博士は、巨大人型兵器マウンテンガリバー5号(MG-0005-RX)を出撃させることを決意した。そしてその手にはスペシウム砲が装備されていたのだが……

 ウルトラマンティガからダイナに至るまで登場したすべての航空・宇宙兵器が総出演するというミリタリー巨編。ティガでは主役メカだったガッツウィング1号もキティ小隊機として登場し、華やかな深紅の女性パイロットたちの翼となって活躍しました。
 こういうの、見たかったよね!?
 ほら、ダイコン4のOPアニメでウルトラホーク1号の編隊による曲技飛行にみんなが拍手したように、ウルトラシリーズのスーパーメカが複数登場してフォーメーションを組んで戦うシーンは夢のシーンの1つなんです。戦いは数だよ!アニキっ。
 地球軌道のステーションも、月基地も総力を挙げての戦い。そして登場する巨大な守護神! そこでやっと物語が半ば。さらにはトランペットの音とともに髑髏のエンブレムもまぶしい大型戦艦が登場し、物語は佳境を迎えることになります。
 たとえ、爆発光のCGがしょぼかろうと、MG5に設計ミスによる重大な欠陥があろうと、主人公アスカがうろうろおろおろするだけだろうと、関係ないですよ。軍人墓地を前景に飛翔するシャトルのシーンだけでも買わなくちゃ!
 ということでLDを発売直後に買いましたよ。もう1つの川崎監督の宇宙譚「ぼくたちの地球が見たい」、実相寺監督は相変わらず好き勝手やってますね!の「怪獣戯曲」などが収録されたベストエピソードばかりの巻。8話収録で9800円! お得!!
 ところが世はDVD時代に。買い直すかどうか迷っているうちにDVDすら先行きが危ぶまれる時代に。うーん……。

 ついでに言うと冒頭の「死んじゃうとね……」はウルトラマンティガ『うたかたの・・・』のセリフ。軍備拡張だけでは問題は解決しない、戦って怪獣を倒すだけでは世界は変わらないという問いかけの回の名台詞を出し、タイトルも借りてきていることで、ティガから見ている視聴者に対して「ちょっと次は仕掛けますからね」と予告しているわけですね……。

【ウルトラマンダイナ】【コメディ】【ミリタリー】【曙丸】
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「風に吹かれて豆腐屋ジョニー 男前豆腐店ストーリー」 伊藤伸吾

2008-01-09 | 食・料理
 この1~2年で近所のスーパーでも購入できるようになった「豆腐屋ジョニー」を製造販売しているお店の社長が書いた企画開始から執筆時点までの物語。
 「豆腐屋ジョニー」というのは、ガロ系コミックみたいなインパクトのある濃厚なパッケージデザインと名前の豆腐なんだけれど、形を変えるなら中身も変えなくてはダメ、見た目だけ奇をてらってもお客はついてこないという方針らしく、けっこう濃厚な味の豆腐。値段は高めだけれど確かに美味しい。うちの宴会のときなども、以前は老舗のざる豆腐などをわざわざ買ってきていたけれど、最近はジョニーとその仲間たちで済ませてしまっているくらい。いろいろ種類があって、黒かったり甘かったり。ただ甘いといっても砂糖の甘さではなく豆の甘さね。
 そういう豆腐をどうして思いつき、どういう苦労があってという話なんだけれど、単なるサクセスストーリーになっていないのは「まだまだこんなものを作りたい」という思いがひしひしと伝わってくるから。まだ過程なのですね。
 それに愉しく書き飛ばしてあるから見過ごしがちだけれど、普通だったらそのまま豆腐屋を継ぐはずの人間が、豆の旨味を活かした豆腐を作りたいと思っただけなのに、社内の反発が強くて孤立無援も同然の状態になるという顛末(結局、もとの会社とは袂を分ったらしい)に、既存の流れを変えるのは難しいことだよねえと嘆息。

【風に吹かれて豆腐屋ジョニー】【男前豆腐店ストーリー】【伊藤伸吾】【ハイリスク・ハイリターン】【後追い】【こだわり】
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