付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「略奪都市の黄金」 フィリップ・リーブ

2008-01-08 | 破滅SF・侵略・新世界
「希望を持って旅する方が旅路の果てを見てしまうよりもましだから」
 大機関師セーレン・スカビオウスの言葉。

 荒涼とした大地を移動都市が放浪し、大きな都市が小さな都市を呑み込んでいく未来。移動都市ロンドンの崩壊から脱出したトムとヘスターは、飛行商人として飛行船<ジェニー・ハニヴァー>を飛ばして暮らしていた。
 しかし怪しげなペニーロイヤル教授なる人物を船客に迎えたことから状況は悪化。戦闘飛行船の群に追い回されたあげく氷原に不時着し、移動都市アンカレジに回収されることになる。そこで都市を支配するアンカレジ辺境伯と対面しトムが気に入られてしまうが、そのアンカレジ辺境伯というのが都市を相続したばかりの16歳の美少女フレイアだったことからヘスターは……。

 「主人公とヒロイン以外の登場人物ほぼ壊滅な宮崎駿アニメ」みたいな話だった『移動都市』の続編で4部作の2番目。前作から2年後。次作は16年後の話らしい。
 突然現れた美少女に、ヒロインが疑心暗鬼になって暴走して……というのはパターンなのだけれど、本作の場合、ヒロインのヘスターが、刀傷で片目と鼻を失って唇もひきつれているという面相なので、読者が「そんなことないよ。キミはカワイイよ」と言ってやれないところが面白さ。がんばれ!ヘスター。汚れ仕事はキミにしかできない!!

【移動都市】【飛行船】【残され島】【憎まれっ子世にはばかる】
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「ルナティカン」 神林長平

2008-01-07 | 超能力・超人・サイボーグ
「人間なら、時代が変わろうと、どこで生きようと、変わらない感情というのがあると思うの」
 リビー・ホワイトの言葉。

 月面都市の大企業LAP社は、自社製アンドロイドの両親に人間の少年を養育させる実験を行なっていた。地球のノンフィクション作家リビーは、このポール少年に対する非人道的行為を告発するため月面を訪れた。とある事情からポールの成長を見守る自由探偵のリックと出会った彼女は、少年の哀しい出自を知る。それは、入植初期の地下都市跡で生活し、地上の人間からは蔑視される一族“ルナティカン”の物語でもあった…。


 神林長平をぼくらの世代は文系SFの旗手として支持した。『敵は海賊』『七胴落とし』『戦闘妖精雪風』『狐と踊れ』……コミカルなスペースオペラから不気味な未来図まで表現は様々だけれど、根底にあるのは「自分とは何か」「人間とは何か」という思考実験による問いかけなんだと思う。

【ルナティカン】【神林長平】【月】【地下遺跡】
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「ベル・エポック」 逢坂みえこ

2008-01-06 | その他フィクション
「30歳という年齢は、自分も歳をとるのだということを忘れてしまえるほど子供でもなく、自分も子供だったということを忘れてしまえるほど大人でもない」
 インタビュアー、鈴木綺麗のモノローグ。

 アイドル雑誌などの製作に携わっている、編集者、カメラマン、イラストレイターなどクリエイターたちの物語。


【雑誌編集】【アイドル】【写真】
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「オイレン・シュピーゲル 弐~壊れもの注意!!」 冲方丁

2008-01-05 | 超能力・超人・サイボーグ
 『スプライト・シュピーゲル』と『オイレン・シュピーゲル』の2シリーズで、1つの世界(国連管理都市ミリオポリスとなった旧ウィーン)の1つの時代(西暦2016年)を舞台にした事件の数々を描いているのだけれど、馴染みにくい文体を一気に読み込んでいるため、なかなか頭に入りにくい。よく混乱してわからない。

 この時代、極度の少子高齢化と犯罪・テロの増加を背景に、「身体障害児に対するサイボーグ化」が認められる一方、「児童労働」の権利が与えられていた。つまり身体が不自由なら国が予算を出してサイボーグ化してあげるよ、でも代わりにしっかり働いてね……という世界。
 かくして『スプライトシュピーゲル』では公安警察MSSに所属する3人の少女が電子の翼で街を翔び回り、『オイレン・シュピーゲル』では警察組織MPBに所属する3人の少女が機械の手足を得て街を駆け回る話……。


 そういうわけで、よく迷う。しかもそれぞれ大きな事件に別々の角度で挑むことが多いので、さらに判らなくなる。まあ、しっかり読み込んでいる長男に識別はできているらしいので問題はなかろう。どちらもイラストが好みでないので執着心が湧かないのだ。
 今回は、チーム3人ばらばらになりながら、1つの陰謀の解決に挑む物語。仲間の絆を確認するエピソードっていうことかな。定番だから面白い。

【オイレン・シュピーゲル】【壊れもの注意!!】【冲方丁】【単分子ワイヤー】【狙撃】
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「團十郎切腹事件~中村雅楽探偵全集1」 戸板康二

2008-01-04 | ミステリー・推理小説
 昭和の中頃。ラジオからテレビに世の中が移り変わりつつあった時代。
 文化部で演劇担当している竹野記者は、舞台上の殺人、役者の誘拐、仏像の盗難と芸能界や歌舞伎界にかかわる難事件や怪事件にたびたび遭遇することになる。そんなとき事件の謎解きをしてしまうのは、いつしか知り合うようになっていた警視庁の江川刑事ではなく、老歌舞伎役者である中村雅楽だった。
 わずかな手がかりから真相に到達する老優雅楽の名推理と歌舞伎にかかわるエピソードを存分に楽しめる短編集の第一弾。

 中には殺人事件どころか事件にすらならない物語が幾つか収まっているのもご愛敬。面白かったのはコマーシャル・タレントが死んだ「死んでもCM」、毎夜居酒屋に訪ねてくる正体不明の「ほくろの男」の話、そしてジョセフィン・ティの『時の娘』や高木彬光の『成吉思汗の秘密』などを彷彿とさせるベッド・ディテクティヴものの「團十郎切腹事件」といったところかな。
 かなり分厚い文庫なのだけれど、するすると読めてしまいます。さらに通常の後書きの他にも江戸川乱歩や作者自身による作品へのコメントも収録されていて2度おいしい全集になっていました。

【歌舞伎】【ラジオ】【テレビ】【日下三蔵】
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「水妖日にご用心~薬師寺涼子の怪奇事件簿」 田中芳樹

2008-01-03 | ホラー・伝奇・妖怪小説
 才色兼備で大金持ちかつ性格が悪い、薬師寺涼子警視が遭遇する怪奇事件の顛末を、横暴な上司に泣かされる部下の視点から描くシリーズの……第何弾か。全部買っているはずなのだけれど、講談社とか光文社とか祥伝社とかあちこちからたらい回しで刊行されるのでよくわからない。Wikiによれば第8弾。
 怪奇モノのミステリーには大別して2種類あって、怪物や怪奇が出現してもそれが実はトリックで人間の仕掛けがあるもの(江戸川乱歩の少年探偵シリーズ)と、本当に怪物や怪奇現象が現れるものがあるのだけれど、これは後者。なんやかんやと行く手に立ちふさがる怪物による犯罪を、真っ正面から粉砕していくお話。
 田中芳樹の作品には現実の政治経済への批判が色濃く反映されていて、それが遙か未来宇宙を舞台にした『銀河英雄伝説』では適度なフレーバーになっていたのに、現代日本を舞台にした『創竜伝』では少々鼻についていて、この『薬師寺涼子の怪奇事件簿』はまあ中間かな。ちょっと世の中のアレコレへの当てこすりが気になるけれど、魔女王vs怪物の騒動の中では「おまえがそれをいうのかい!?」と読み飛ばせるくらい。

【桜田門】【キャリア官僚】【戦闘メイド】
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「ユミナ戦記」 吉岡平

2008-01-02 | 異世界転移・召喚
 この『ユミナ戦記』はドラゴンマガジン初期の代表作だと思いますね。これと『雷の娘シェクティ』が双璧。

 日本の神話世界に酷似した世界・由弥那(ユミナ)。普通の高校生に過ぎない成宮晟は、異世界へ放逐されていた乱暴者の戦士・武智彦として、その世界へ召還されてしまう。それは悪しき蛇比古の勢力が台頭し始めていたためだ。
 頼られ、しかし畏れられる武智彦の代役として晟は戦い続け、その中で小さきケヌブンの盗賊姉妹・魚栖と娃鳥、土蜘蛛の生き残り呪術師・魔拿飢、武勇で知られた熊襲の最期の1人となった丈流老人らと知り合い、仲間となっていく。これまでばらばらだった、人間、熊襲、土蜘蛛、ケヌブンが再び1つになり、蛇比古ら闇の勢力と戦うために巨人兵器・崑崙の復活を目指す。
 だが真なる敵は密かに機会をうかがっていた……。

 すごくサクサクと話が進んで小気味よい。逆に、細かな戦いの推移とか感情の機微などの描写を期待する人には少し物足りないかもしれません。大戦争、始まった途端に回想で振り返りつつクライマックス!って風なので。
 でも、それでも「勇者にされた少年」の王道的な物語は存分に楽しめると思います。

【ユミナ戦記】【吉岡平】【春巻秋水】【富士見ファンタジア文庫】【藤島康介】【平行世界】【八岐大蛇】【勇者復活】
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「ガンバレード・マーチ~もうひとつの撤退戦」 榊涼介

2008-01-01 | 異世界結合・ゲート・ゾーン
 『ガンバレード・マーチ~もうひとつの撤退戦』を読了。メインのストーリーは前回の『九州撤退戦』で完結しているので、サイドストーリーの短編集。でも時期的にあれ、ほら、もう負け始め、崩れはじめの時期だから、「2週間で促成栽培され、突撃砲3輌で前線に投入される女子ソフトボール部員」の顛末とか、「2週間とか突撃砲どころか、教育期間も終わらないのに小銃だけで前線に送られることになった戦車学校の生徒と教師たち」とか、「全滅した試作小隊の穴埋めに前線投入されることになった教育隊」とか。
 憲兵に捕まったら懲罰隊に再編されて最前線送りというナイスの短編集。

【ガンバレード】【撤退戦】【懲罰大隊】
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