付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「バビロンまでは何マイル」 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ

2011-07-19 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
「ものごとはひとつひとつ、順番にこなしていくもんじゃよ。いちどきに山ほどかかえこむことはなかろう。そんなまねをすれば、足をもつれさせてしまうだけじゃて」
 元騎手のスタンリー・チャーニングの言葉。

 ルパートはマジド(魔法管理官)で、マジドの仕事はいくつもの世界にまたがっている。
 旧ユーゴと北アイルランドの平和に奔走したかと思えば、恐怖政治を敷くコリフォニック帝国に赴いて皇帝が後継者を処刑するのに立ち会い、うんざりして帰ってくるとマジドの師スタンが死んでしまい、その後継者を選ばなくてはいけなくなる。
 ところが本人も自分が魔法使いということを自覚していない後継者候補は世界中を移動していて、1人もつかまえることができない。
 そこに皇帝が爆弾テロで主だった将軍や官僚や皇妃らもろとも暗殺され、コリフォニック帝国が大混乱という知らせが入ってくるが、どうやら“上”の方は帝国を混乱したまま放置したい気配がありありで……。

 魔法管理官が帝国の後継者探しと新人マジド選びを同時に抱え込んで大わらわという話。2つの難題のどちらもが、探している人物が“自分に何かの資格があることすら知らない”というのがポイント。
 最初は登場人物がどいつもこいつもいけ好かないやつだなと思っていても、読んでいくうちに視点が変わって、好感度がぐんぐんアップ(敵役はどんどんダウン)していくのが巧いところだけれど、ルパートがいつの間に彼女に惹かれるようになったかは、今ひとつ謎。単にSF大会系ドタバタの中で、他の登場人物が最悪の上書きばかりしているので、相対的に評価が上がっただけのような気がしないでもありません。
 ラストの報告書形式の回想は今いちだと思いますが、話全体は面白かったです。さすが、ダイアナ・ウィン・ジョーンズ。

【バビロンまでは何マイル】【ダイアナ・ウィン・ジョーンズ】【平行世界】【王位継承】【SF大会】【非公開法廷】【陸上艦】【UFO】【空中庭園】【マザーグース】
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「A君(17)の戦争5~すすむべきみち」  豪屋大介

2011-07-18 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「権力は女を酔わせる。もちろん男も。しかしだ、たとえ誰であろうと、ただの権力に我が身を捧げようとはしない」
 権力にふさわしい人物によって力は光輝を放つのだと、フィラ・マレルの言葉。

 ランバルト優勢で進む戦いを良しと考えない者は、魔王領以外にもいた。コレバーン連合王国第三王女フィラ・マレルである。このままでは、たとえ魔王の軍勢との戦いが人類側の戦いに終わったとしても、それはランバルトによる支配の始まりに過ぎないではないか。
 しかし、そのフィラ王女は軍事クーデターを画策したと疑われて幽閉中の身。そこで仕方なく、離宮を爆破して魔王領へと逃げ出した。

「わたしはおまえの嫁になりにきたのだよ。しっかり子供も産んでやるぞ」

 魔王に嫁入りしてしまえばこっちのもの。王侯貴族からは煙たがられてはいるが、一般市民からの人気は高いフィラ王女の政略結婚は、かならずやコレバーンの国論を真っ二つに割るに違いない。コレバーンが親ランバルトに傾くことを阻止できればいいのだ。
 この戦いの流れの中で祖国コレバーンが生き残るには、どちらかに肩入れせずバランスをとり続けなければならない。そのためなら、第三夫人でも雌奴隷でもなってやろうではないか……。 

 フィラ王女乱入編。そして、戦いは単に二国の争いではなく、世界全体の問題であることが強調されていきます。
 やることなすこと無理無茶無鉄砲の王女ですが、基本的な考えは間違っていないし、あくまで祖国第一という姿勢はぶれていません。そう考えてみれば魔王田中さんもサンバーノ宰相もシレイラ王女も、責任ある立場にある者は誰も彼も好き勝手にやっているようでありながら、国家最優先という姿勢はフィラ王女と同じです。
 そのあたりがこの作品の面白さの一端かも知れません。

【A君(17)の戦争5】【すすむべきみち】【豪屋大介】【伊東岳彦】【モーニングスター】【玲衣(北野玲)】【補給】【流浪の姫君】【包囲網】【大演習】【オの字】【亡命者】【正義】【難民問題】
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「とわいすあっぷっ!2」 阿羅本景

2011-07-17 | 学園小説(不思議や超科学あり)
 3人目はショタでした……。

 最初は悟のことを敵か虫けらかと見ていた勇者の娘・涼子と魔王・アリスも、今では悟を争奪せんと互いに牽制し合う毎日。
 そんなとき、京都から女の子と見まごうばかりの美少年・白木久陽向がやってきた。「お兄ちゃんを守るんだ、ぼくが絶対に!」と好意を寄せる陽向と悟の仲睦まじさに、アリスと涼子は女性としての立場に危機感を覚え……というか、悟の少年愛性癖を疑い始め……。

 魔王の四天王をその身に取り込んでしまい、魔王の無い胸を触るとその四天王が活性化し、勇者の娘の生尻を見ると沈静化するという、難儀な状況に陥ってしまった少年の物語。
 ラッキーすけべが義務化してしまった状況はともかく、就寝すると夜な夜な脳内で四天王が魔族会議を始め、気がつくと夜明け……というのはいいなあ……。毎晩脳内会議。
 わざわざ人に勧めるほどではないけれど、続きが出たらつい買ってしまう感じ。あざとい設定にまんまと乗せられてます。
 澤乃の本家は悪人とはいわないけれど、尊大で融通が利かなくて責任転嫁が巧いという小悪人タイプ。いわゆる“つきあいたくない親戚”タイプなので敵としては役者不足。魔界の話も最後に振られましたが、今後、三角関係のドタバタをどう転がしていくつもりか気になります。

【とわいすあっぷっ!2】【阿羅本景】【蔓木鋼音】【魔王】【護人】【M属性】【器】【ショタ】【レズ】【男子トイレ】
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「放課後あいどる」 鴨志田一

2011-07-16 | アイドル・声優・芸能
「未来ってのは、今からはじまってんだよ」
 奄美つばさの言葉。

 学校では“氷の女王”などと呼ばれているクールな生徒会長・石垣真帆が、放課後には秋葉原でアイドルユニットの一員としてステージに立ったり、給仕したりしているなんて誰が気づくだろうか?
 その秘密を知ってしまった成田佑介は屋上に呼び出され……。

 秋葉原の実際のお店を舞台にした青春アイドルドラマ。サイト記事によれば、史上最強のライブアイドル集団が歌って、踊って、お給仕!というお店だそうです。アキバも竜が暴れ回ったり、地下空洞にジャンクショップがあったり、本当に魔窟だなあ。
 鴨志田一の作品は、いつも安心して読めます。内容的、文章的に手堅く面白い。まずは序章。取り立てて取り柄のなさそうな主人公こそが、ヒロインの魅力を最大限に引き出せる……というのは、この手の作品のお約束です。
 主人公の“ほどほどネガティブ”というあたりが、好きです。自分的にツボ。

【放課後あいどる】【僕と生徒会長の××】【鴨志田一】【TNSK】【秋葉原ディアステージ】【スクール水着】【生中継】【イベント勝負】
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「ガンパレード・マーチ2K~北海道独立(4)」 榊涼介

2011-07-15 | 異世界結合・ゲート・ゾーン
「僕らは戦争の英雄じゃないし、プロの軍人なんかでもない。何かって? 決まってるさ! 正義の味方なんだ……」
 5121部隊を評する茜大介の言葉。彼らの行動原理は“軍事的に正しいか否か”ではない。

 ラノベ・レーベルのミリタリー系作品で少年少女が主役の話というと、「敵は怪獣」という話が多くなります。そもそも交渉もできない異質の存在で、どう考えても共存共栄は無理そう……ということでないと、読者に受け入れられるような作品が作りにくいのかもしれません。あの『機動戦士ガンダム』だって、少年兵ばかりの部隊が巨大ロボットで同じ人間と殺し合うという話なので、まったく受け入れられないはずはないのだけれど劣勢です。
 相手が怪物や機械というと、『E.G.コンバット』『アルテミス・スコードロン』『ニーナとうさぎと魔法の戦車』『疾走れ、撃て』『ストラトスフィア・エデン』『マブラヴ オルタネイティヴ』……まだまだ出ますが、相手が人間というと『花咲けるエリアルフォース』が出たところで止まってしまって、次は考えないと出てきません。
 一般SFだと、今ではミリタリーSFはいろいろありますが、ここまで極端に敵が怪物にはなっていません。ただ、その双璧と言えば“正義の戦い”を謳ったハインラインの『宇宙の戦士』と“戦争の無意味さ”を突きつけたホールドマンの『終わりなき戦い』(…と仮にしておきましょう)。
 どちらも訓練は苦しいし、上官は鬼だし、仲間はどんどん死んでいくけれど、前者の敵は蜘蛛型異星人、後者はクローン人間。戦意高揚で景気よくやるには、殺した相手が自分と同じ姿をしてちゃいかんですわ。

 そういう意味で、ガンパレは両者の間をつなぐ作品。
 ガンパレも初期は正体不明の幻獣で、やがて相手にも人の姿をしたものがいることがわかり、さらに幻獣はもともと異世界の人間がこちらの世界へやってくる過程で変異してしまったものと正体が判明し、そして今は同じ人間が相手。登場人物たちも精神的におかしくなっていきます。幼い子供たちを相手に人体実験を繰り返す科学者たち、私利私欲に走る政治家、民間人を盾にする反乱軍……。

「幻獣との戦いは、先に心折れた方が負け、ですから」
 激戦のさなか、植村戦闘団の司令部にて植村中佐の言葉。

 そんなドロドロした話が、よくぞ、ここまでうまく着地したもんだと拍手。

「目的は正義、手段は選ばん」
 どんな手段で手に入れた金だって、ちゃんと使えばいいのだと加藤祭。

 この前の巻あたりから5121も復調。
 こうでなくっちゃね!と大きく頷いて読了。

【ガンパレード・マーチ2K】【北海道独立】【榊涼介】【きむらじゅんこ】【人間爆弾】【暴動】【カッター・ナイフ】【ソックスサージャント】【鬼】【カレーライス】
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「彼女はつっこまれるのが好き!4」 サイトーマサト

2011-07-14 | アイドル・声優・芸能
 ひょんなことから、ウェブラジオのDJとして人気声優の相方を務めることになった男子高校生の物語ももう4巻。タイトルでもわかるように、この話は高校生と声優のボケとツッコミの応酬が面白さの根幹なので、あれこれイベントなんか起こさずに会話メインで進む巻の方が面白いです。タコ親父ももう要らないでしょ? 作者もわかっているみたいだけれど、それはクライマックス用のアイテムとして取っておけばいいです。

「寝違えたかも。乳首が痛い」
 常村愛好の言葉。

 今回は、アニメ『ぼいる・しゃるるの法則』も放映開始間近となり、忘れていたように番宣を進めながら、特番を「生放送」でやっちゃおうという回でした。うん、無謀だ。
 でも、あの一連の出来事って、どっきりじゃなかったんだ……。

【彼女はつっこまれるのが好き!4】【サイトーマサト】【魚】【アイドル声優】【らっきースケベ】【ノーブラ】【アテレコ】【焼肉】【グラビア撮影】
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「蒼志馬博士の不可思議な犯罪」 山口芳宏

2011-07-13 | ミステリー・推理小説
 弁護士の殿村はよく怪事件に巻き込まれる。
 だが、それは彼が特別に巻き込まれやすいのではない、事件は誰の回りでも起きているが、たまたま殿村はそれに気づいてしまうだけなのだ。
 今回の事件も、たまたま事務所の隣に住む女性が姿を消したことが発端であり、彼女を追いかけろと眉目秀麗な探偵・荒城がそそのかしたことが始まりだった。
 それがまさか、米軍への復讐を謀る蒼志馬博士の怪兵器に挑むことになろうとは……。

 終戦後8年が経過した横浜を中心に繰り広げられる、2人の名探偵と助手役の弁護士が右往左往する連作短編集で大冒険シリーズ3冊目の外伝。今回も荒城咲之助は狂言回し的なポジションで、C調な義手探偵・真野原玄志郎が好き勝手に暴れているだけのような気がします。

【蒼志馬博士の不可思議な犯罪】【大冒険シリーズ】【山口芳宏】【マツオヒロミ】【殺人光線の謎】【灼熱細菌の謎】【洗脳兵器の謎】【強化人間の謎】【ソ連】【テレビ】【密室殺人】【731部隊】
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「ねじまき少女」 パオロ・バチガルピ

2011-07-12 | 超能力・超人・サイボーグ
 上下セットで一組の表紙イラストは珍しくないけれど、1冊だけでは意味不明な絵になるというのは珍しいなあ。
 けっこう売れ行きが良いらしく品薄気味で、本屋に下巻が1冊だけ追加で入ってきてもわけがわからんです。

 石油エネルギーが枯渇し、巨大な獣によってネジを巻かれたゼンマイ動力が全盛となった未来。電気もあるけれど、パソコンでもラジオでも足踏み式や手回し式はあたりまえ。汚染された海面が温暖化によって上昇し、遺伝子操作で生まれた害虫や疫病が猛威を振るっている時代。
 タイ王国は徹底的な検疫をおこなうことで疫病や害虫ばかりでなく、伝染病に耐性を持つ遺伝子操作作物を握ることで世界経済を掌握しているバイオ企業(カロリー企業)の干渉をも排除してきていた。
 しかしカロリー企業がそのような隔離政策を認めるはずもなく、さまざまな形で介入を試みていたが、そのエージェントの1人が、タイ王国が密かに隠し持っている種子バンクと遺伝子スポッターの存在に気がつき……。

 ……というストーリーラインで展開される群像劇。
 日本が遺伝子工学によって生み出した人造人間、飼い主に捨てられて秘書から場末のダンサー兼売春婦に落とされたエミコ。新型のゼンマイ工場のオーナーであり、カロリー企業の代理人でもある西洋人アンダースン・レイク。その部下であり、虐殺を逃れてマレーシアから逃走してきた「イエローカード」、没落した老華僑ホク・セン。賄賂を受けつけない鉄の男、環境省の検疫隊“白シャツ隊”の隊長ジェイディーと笑わない副官カニヤ。死んだはずの天才的技術者で、世界の災厄の幾ばくかはこいつの責任だという遺伝子スポッターのギ・ブ・セン。
 さまざまな登場人物が交錯しながら、蒸し暑く腐敗と汚濁と暴力にまみれたバンコクでの暴力的な日々が描かれています。それぞれが腹の中に欲望とか飢餓感とかを抱えていて、互いに直接関わらなくても、それぞれの行動が周囲に影響を与えて事情が二転三転。いかにも熱しやすく移ろいやすい東南アジア的な展開に、誰も彼も成功か失敗か生か死か、どちらに転ぶか最後まで分からないジェットコースター・ストーリー。
 個人的には、出番が少ないながら状況を大きく動かす、ギ・ブ・センがお気に入り。面白ければすべて良しという、はた迷惑なマッド・サイエンティストで、ねじまきこそ新人類と言い放つ鬼才。捕囚の身で、死にかけていて残り時間はわずかなはずなのに、あの精神的パワフルさはなんだっ!? ある意味、人類の未来を握っているというか天秤にかけてもてあそんでいる男。

【ねじまき少女】【パオロ・バチガルピ】【鈴木康士】【チェシャ猫】【種子バンク】【幽霊】【輪廻転生】【新人類】【カロリーマン】【僧院】【ランブータン】【光学迷彩】【セクサロイド】
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「A君(17)の戦争4~かがやけるまぼろし」  豪屋大介

2011-07-11 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
 信じていれば、信じて待っていれば、いつか続きが読めるよね。
 『ソリッドファイター』だって、完結したんだもの。『A君(17)の戦争』だって『E.G.コンバット』だって、いつかきっと完結するさ!
 そう夫婦で励まし合って待ち続けている本書も4冊目。

 小野寺剛士は高校生ジュブナイル作家であり、学祭の実行委員長。幼なじみで生徒会長の朧野ほのかと学園祭の準備に余念がないが、メイドさんコスプレ喫茶やら義理の妹喫茶やら割烹着ママ&赤ちゃんプレイ喫茶やらが乱立し……。

 いきなりの番外編というか、剛士に黒幕が介入してくるパラレル世界編で、佐藤大輔の『レッドサン・ブラッククロス』の世界を借りての学園編。
 けれど剛士は自分が願ってやまなかった理想の学園生活を過ごせる世界ではなく、血塗れで果てのない戦いが繰り広げられる世界を選択します。なぜなら、彼は約束したから。彼の名を叫んで死んでいった魔族たちに彼らの世界を救うと約束をしたから。

【A君(17)の戦争4】【かがやけるまぼろし】【豪屋大介】【伊東岳彦】【モーニングスター】【玲衣(北野玲)】【宇宙開発】【学園祭】【軍事演習】【レッドサン・ブラッククロス】
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「彩雲国物語 紫闇の玉座」 雪乃紗衣

2011-07-10 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「……さあ、僕も行こう。最悪よりもマシなだけの世界さえ、守れなくてどうする?」
 次の世代に命をつなぐため、大人はぎりぎりまで戦うものだと紅州州牧、劉志美。

 彩雲国初の女性官吏、紅秀麗の生涯を描いた『彩雲国物語』もついに完結。すてきなポリティカル・ラブコメでした。たぶん……。

 秀麗の命の蝋燭は今にも消えようとしているが、やらねばならないことは多い。その命の最後まで、秀麗は“王の官吏”として、劉輝の官吏として戦い続けることを選んだのだ。
 そして紫劉輝も毎日玉座に座る。臣下は誰も彼のことを無視し、愚王とあざ笑っていても、それが彼にできる唯一のことだった……。

 この前の巻までで秀麗の官吏としての成長過程と能力の高さは十分に伝わっていて、秀麗の恋愛観・結婚観は鉄壁で動きません。なのでこの最終2巻は、人は良いけれど為政者としては凡庸な愚王だった輝が、自らの立ち位置をはっきりさせるまでの物語。
 自分の信じるもの、護るべきもののために戦うというのは決して綺麗事だけで済むものではない。しかし、踏み越えてはならない一線はあってしかるべきだし、それが国が滅ぶか否かの国難の時であれば、自分の命を賭けてでもやらねばならないことは幾らでもある。
 それが、小松左京の『首都消失』や小川一水の『復活の地』、そしてこの『彩雲国物語』にあって、今の日本の政治に見えないもののような気がします。
 呉越同舟もあれば裏切りもあり、どんなときでも自分の支持する者、所属する集団のことを考えてはいるけれど、まずなすべきことは民を救い、国を護ることだ……とわかっている。
 この前提がしっかりしているから、面白いんです。

 信じられないことに、生きるか死ぬか、殺すか殺されるか、裏切るか裏切られるか、国を失うか否かという綱渡り的危機の中に、さりげなくなくまき散らされた笑いのツボは、ここ最近の中でもかなり多い方。1巻当時に戻ったかのようです。奇跡はもう起きない、秀麗の命脈は尽きた、政事とは何か、虫害や飢饉は食い止められるのかという、重い話題、暗いドラマの合間合間にさりげなく置かれたボケとツッコミの多いこと……。
 信じられないと言えばもう一つ。あれだけ陰謀を巡らせ、人を殺し、すべてをひっくり返そうとしていた人の最後の立ち位置があれ……というのはすごくポリティカル小説的です。ぜんぜん後悔も反省もしてないですよね。

 最終巻ということもあってか、あるいは最終巻だというのに、今まで名前だけだったような、名前も出てこなかった木端役人から高官まで官吏が続々登場し、久しぶりの人まで登場人物が一気に増えてあーだこーだやっているのに、人物紹介が上巻にちょろっとあるだけで、「この人、だれ?」という人が続出。その一方で初期のメインキャラはどんどん出番が減り、武でも文でも格上の脇役が増え、女性の尻に敷かれ、どいつもこいつも情けない限り。今まで下っ端AとかBクラスのキャラの方がよほど頑張ってます。
 ラストについては、「人はどれだけ長く生きたかではなく、どれだけ良く生きたかで評価される」と考えていますので、ハッピーエンドなんだろうと考えます。新井素子だって、ハッピーエンドとは結婚式の直後に頭上から巨大な岩が落ちてきてみんなペッチャンコになることではないかと書いているじゃないですか。

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「魔弾の王と戦姫」 川口士

2011-07-09 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
 最近、作家買いしている川口士の異世界ファンタジー。
 作家買いしていなければ、「最強☆美少女ファンタジー!!」などと帯に書かれた作品を買ったかどうか怪しいものです。

 たいした理由はなかったが、ブリューヌ王国は隣国ジスタートに戦を仕掛けた。圧倒的な戦力で相手の領地をいくばくかかすめ取れれば、若き王子の初陣を兼ねて一石二鳥という算段だった。
 しかし、遠征軍は寡兵のジスタート王国によって粉砕されてしまう。ジスタートには竜より与えられし武具をふるう7人の戦姫がおり、その1人“銀閃の風姫”エレンが指揮を執っていたのだ。
 味方が潰走する中、辺境の小貴族である少年ティグルはただ1人、殿を務めて敵将を射止めんとしたが……。

 ファンタジー戦記にお目々ぱっちりのヒロインイラストは似合わない。ひるみつつも読了。読めばもちろん面白く、レーベルの良い悪いではなく似合う似合わないの話で、幻狼ファンタジアノベルスあたりが似合いそうな物語。
 敵の捕囚となった小貴族を助けようと知人たちが身代金集めに奔走するが、なぜか弓使いの評価が低いブリューヌでは辺境の領主で弓使いなど助ける価値もなく、むしろ領主不在の間に……と考える者ばかり。むしろ敵方の方が高く評価してくれたばかりに、身代金の相場ばかりが高くなって青息吐息。
 夫婦そろって「この話、けっこう面白かったよねえ」という感想。一応、話としてはこの巻でまとまっていますが、戦姫はたった1人しか顔を見せていませんし、物語としてはまだこれから。続きが出ると良いですね。

【魔弾の王と戦姫】【川口士】【よし☆ヲ】【捕囚】【身代金】【飛竜】【弓取り】【侍女】
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「ギャルゴ!!!!!6~地上波初登場大全」 比嘉智康

2011-07-08 | 学園小説(不思議や超科学あり)
 最後までイラストのかま子がドーベルマンに見えなかったことだけが玉に瑕ではありましたが、ついに最終巻。勢いで書いているようでいて、実はしっかり伏線を張って回収しているので、このあたりで終わるのが美しいようです。というか、伏線張りすぎ、回収しすぎ。どうやったら予定通り5巻で終わったのか見当もつきません。最初は解決したはずの都市伝説をもう1回出すために妃唯を登場させたのかなと思いましたが、そうでもなさそうです。

 地伝を操る噂長をなんとか倒して呪いを解き、あとはみんなで異世界から脱出するのみとなったのだけれど、現世へ帰還するのに必要な地伝「プチ神隠し」のスクリーンを妃唯が奪って逃走!
 なんとか取り戻そうと妃唯の捜索を始めた春男たちだが、いつの間にか春男に好意を寄せる女性陣の数が増え、とんでもないことに。
「さあ、お互い春男とどこまでしたかいいあいましょ」

 裸で抱き合ったとか、キスで舌まで入れたとか。男どもも「ギャルゴ様」呼ばわりだし……って、これってもしかしたらTOPCATの『果てしなく青い、この空の下で…。』でのボーナスシナリオ状態までもうちょいかも。
 そして、この上ない大団円というか、新たな波乱の予感で幕引き。かつての敵が味方として参戦する王道パターンもあったし、やっぱり「めでたしめでたし」で終わる話はいいね。

【ギャルゴ!!!!!】【地上波初登場大全】【比嘉智康】【河原恵】【物干し竿占い師】【巨人の星】【都市伝説】
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「怪盗アマリリス」 和田慎二

2011-07-07 | 学園小説(不思議や超科学なし)
「映画ってね、映画館で見るもんよ」
 試写室の小さなスクリーンでタダ見して映画評論してみたり、テレビの画面だけで作品を観た気になっちゃいけないと。

 椎崎奈々は皆星女子高等学校に通う女子高生だが、その正体は裏世界では有名な怪盗アマリリス。かつて怪盗白水仙として活躍した母やお手伝いのスガちゃんとチームを組んで美術品窃盗に励んでいるのだが……。

 アイドルデビューしちゃったり、自主製作映画を作ってみたり、フランケンシュタインを復活させたり……と、いろいろ二転三転してますなあ。
 コミックを買ったのは2冊だけなので、全体の話はほとんど覚えてません。全部読んだはずだけれどなあ。

 映画の仕事を引き受けたフラワードリーム・ナナだが、肝心の監督が「所詮、アイドル映画」となげやり。口先だけの芸術論に怒り心頭のナナは勢いで降板。代わりにライバルの黒沢ゆかりが抜擢され、ナナは映画界・映画ファンから総スカンをくらう。
 憤懣やるかたないナナは、ついにブチ切れて「あたしの映画はあたしが撮る!」と宣言するのだが……。

 「高い金とったつまらない日本映画見せといて、そのうえ“あたたかく見守れ”たァ、なんて甘ったれた言い草だ!」という、作者の激高から始まるエピソードで、腐り果てたプロの作品を凌駕する娯楽映画をつくろうと、高校生たちが総力を結集する物語。
 それまで過去のいきさつがあっての話なので、このあたりだけ読んでも面白くなさそうだけれど、実際、この映画篇だけ買って読んでもいまだに面白い。

「ほら、みんなあんなに興奮して、楽しそうに話しながら帰っていく。映画でわくわくした気持ちで胸をいっぱいにして……。見た者だけが共有できるこの気分……これが映画だよな」

 なんというか、作者の邦画界の現状に関する怒りが爆発して、パトスがあふれまくっているからのような気がします。「素人の高校生だって、頑張ればやれるんだ!」というのは、まったく根拠がないのだけれど、映画製作の過程を1つ1つ緻密に再構成されているから説得力が生まれ、頑張ったらできたよ!というカタルシスが生まれてくるのだと思いました。

「映画はねっ、見せて泣かせて笑わせていくら……の世界よっ!」
 アイドル・黒沢ゆかりの言葉。

 ……でも、ウォーカー姉弟は、誰が演じたんでしょう?

【怪盗アマリリス】【ナナのシネマパラダイス】【和田慎二】【映画製作】【超少女明日香】【合宿】【あさぎ色の伝説】【映画にかわっておしおきだっ!!】
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「忍者飛翔」 和田慎二

2011-07-07 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
 デビュー作こそ、ほのぼの親子マンガだった和田慎二ですが、その後はサスペンスものやホラー作品が目立ちます。けっこう残酷に人が殺されたり皮をはがされたりと、グロくて敬遠することもしばしば。
 なので、和田慎二の作品は油断なりません。コメディリリーフや愛くるしい少女だって、いつなんどき残酷な最期を迎えるかもしれないのです……ということで『忍者飛翔』。
 現代に暗殺集団として忍者が暗躍する『明日香ふたたび』という作品がありましたが、こちらは忍者が主役。正体を隠してヒロインを影から護るという姿はむしろ変身ヒーローの系譜です。ラブコメっぽかったり、コメディシーンも笑えますが、油断すると後ろからばっさりです。

 ね太郎は伍堂家に仕える使用人の少年。ぼんやりした役立たずと周囲には思われているけれど、実は伍堂家の一人娘・真琴の乳母であった亡き母の遺言にしたがい、彼女を守り続ける忍者「飛翔」の正体でもあった……。

 変身前は前髪で顔半分隠れているというあたりで明日香の男バージョン。金槌で戦うね太郎には大ウケし、「物にはなんでも“目”というものがあってな」というのは当時の仲間内での流行言葉にもなりました。

【忍者飛翔】【和田慎二】【埋蔵金】【宝剣】【食道楽】【人間爆弾】【七日殺し】
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「ラムちゃんの戦争」 和田慎二 

2011-07-07 | 巨大ロボット
 小学5年生の女の子が、おじいちゃんが秘密に作った女性型巨大ロボットで戦う……というか八つ当たりする『ラムちゃんの戦争』。巨大ロボットが出てくるけれど、小5女子が戦うのは受験戦争と恋の勝負なのです。

 女性の姿形をした巨大ロボットというと永井豪の『マジンガーZ』のアフロダイAを以て嚆矢とするのだけれど、あれはまだ顔が抽象的。ゲストメカのミネルバXや1974年の『グレートマジンガー』に登場するビューナスAがやっと人間っぽくなったけれど、この作品に登場する姫(プリンセス)はかなり人間っぽい。巨大ロボットなのに、衣装替えするとか、お買い物するとか、お風呂にはいるとか、そりゃないぜセニョリータ♪ 
 エリアルとどっちが早かったかなと思ったら、笹本祐一の『エリアル』が雑誌「獅子王」で連載されたのが1986年だから、この作品の発表はその8年前。少女マンガ雑誌「プリンセス」の1978年4月号に掲載されてます。さすが和田慎二。
 その続編『さよなら林間学校999』が1981年7月号。そして1983年には初の前後編で『ラムちゃんの戦争(ワイド版)』が「花とゆめ」に掲載され、既に和田慎二は少女マンガの枠に収まらなくなっていたのです。もともとサスペンスとかサイコホラーっぽい作品が多かったですけれどね。
 そして和田慎二に限らず、この時期の少女マンガ家は、自分の好きなテレビ番組やアーチストを作品中でアピールすることが多かったのだけれど、その中でもダントツが和田慎二。『バニラエッセンスの午後』でもペットの猫の名前が歴代の仮面ライダーだったりしますが、この作品でもムーミン型モビルスーツとか、美少女型バトロイド・バルキリーとかキングダークな親父が好き勝手に暴れ回っています。
 ローリング・コンバットロイド、かっこよかったなー。

【ラムちゃんの戦争】【和田慎二傑作集】【和田慎二】【埋蔵金】【スメルシュ】【ショッカー】【ブラックゴースト】【組合活動】【受験戦争】【ローリング・コンバットロイド】
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