「魔弾の王と戦姫６」 川口士

　ジスタート王の要請を受けたティグルは、霧と森の国アスヴァールへ使者として旅立つ。
　彼に与えられた使命は内乱状態のアスヴァールへの同盟打診であったが、そこにジスタート王の計算を見るティグル。だが、さらにその背後から画策する何者かの存在も意識していた……。

　隣国ジスタートの客将となったブリューヌ王国の弓主ティグルの冒険を描く第２部の開幕です。誰よりもティグルと密接な関係となる放浪の戦姫オルガ＝タムも登場し、先行きが楽しみな導入部となりました。
　すべてにおいて王の器を持つタラード将軍も、有能かつ善い人ではあるようですが、王として有能かつ善い人というのは、善人とイコールではありません。タイトル的からして、魔弾の王が誕生する触媒になるのかなと期待しています。

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★男女逆転

　「男女逆転」といっても『おれがあいつであいつがおれで』のような男女の人格交換の話ではないし、19世紀末あたりからのユートピア文学には、男女の役割が逆転した話とか、性差のない世界を扱ったものがあったらしいけれど未読。このあたりは突き詰めるとシャーロット・ギルマンあたりからのフェミニズム思想も絡んで大きなテーマとなるので、ここでは割愛。単に人口における男性比率が極端に少なくなった世界の話がどれだけあるか気になっただけなんです。ごめんなさい。
　ジェイムズ・ティプトリーJr.の中編『ヒューストン、ヒューストン、聞こえるか？』は事故で遥か未来に飛ばされた宇宙飛行士たちが、細菌戦で男性が死滅した地球から来た宇宙船と遭遇する話ですが、こういう話がどれくらいあるか拾いたかっただけなんです。アマゾネス伝説のバリエーションかもしれませんが。

「ようこそ女たちの王国へ」　ウェン・スペンサー
　男女比が１：20の女権社会で、１人の美しくて勇気のある少年が幸せな結婚をするまでの、波瀾万丈の物語。

「大奥」　よしながふみ
　疫病で男女比が１：４となり、男の代わりを女性が務めるようになった日本での将軍家の年代記。

「スカーレット・ストーム～第二海軍物語」　中岡潤一郎
　ツングースでの大爆発以来、男女比が１：４となり（男子出生率21.75％）、女性の社会進出が進んだ世界での太平洋戦争史。


　こういうタイプの話はけっこうありそうなのに、まだあまりみつかっていません。
　志真元の「大和撫子紫電改」は女性の社会進出が進んでいる日本ですが、そもそも大震災や疫病により人口が激減したことが原因であり、人口比が極端に変わったせいではありません。
　春日みかげの「織田信奈の野望」も“姫武将”といった女性が誕生したのも長子相続という制度ゆえであって人口比は関係ありません。
　ＳＦだといろいろありそうで、『スタートレック』シリーズだと、『まんが宇宙大作戦』に「女だけの星」、『ヴォイジャー』に「女たちの星」というエピソードがありますね。ＧＡ文庫で鯨晴久の『魔法世界は女ばかりで、俺がパパ!?』も魔女が存在していて男性がほとんどいない世界の話だそうですが、これは未読。
　さがせばありそうなので、気がついたときに追加していきたいと思います。

「彼女がフラグをおられたら（５）」 竹井10日

　夏休み前にあった体育祭は１週間ぶっ続けだったけれど、夏休み明けに行われる文化祭も１週間続く。丸々１ヶ月続く準備期間は勘定に入れないで。
　そんな中、颯太たちの１年Ｆ組はなし崩しに「焼きそばお化けメイド喫茶」に決まり、クエスト寮でも演劇「ロミジュリと白雪姫、または三銃士と７人の侍は如何にして猟奇殺人鬼戦隊と戦ったか」で参加することとなったのだが……。

　パッとしない凡庸な主人公の周りに、才色兼備の少女たちが集まってくるハーレムもの。
　作品として凡庸なハーレムものだと「主人公のどこがいいのかわからない」とか「こんな都合の良すぎる設定は中二病そのものだよ」とか揶揄したくなるのだけれど、この作品までくると、もはや「がんばれよ～っ」と応援するしかありません。それこそ、この巻のミスコンの観客席のように。
　この話を愉しむポイントは、恋愛フラグを立てるのがチョロすぎるツンデレ系ヒロインとか、フラグを折ってもすぐに何倍も生えてくる“へこたれなさすぎる”ヒロインとか、すぐ目が死んでしまう少年とか、極端にシンプルな分かりやすいキャラ立ちが１つ。
　それからこの手の話では定番のヒロイン同士の競り合いがなく、譲り合いが激しすぎ、主人公に皆が皆ダダ甘な点。言ってしまえば、互いが恋敵ではあるけれど、「強敵」と書いて「とも」と読むタイプ。男女を逆転して『遙かなる時空の中』みたいなファンタジー作品とかに脳内変換して考えてみれば、よくわかります。
　主人公のお姫様の周りに、彼女を慕う屈強な戦士たちが集まっていて、それぞれ腕に覚えがあってライバルではあるけれど、姫のために戦うという点では仲間なのだ……と思うとよくある面白い話っぽいし、それを男女逆転してるだけなんですよ。また、ヒロイン同士の会話の間抜けな仲良しっぷりが微笑ましいを通り越して失笑レベルですが、マヌケでありながらもテンポの良い会話のやりとりと、さらにひとりでボケツッコミしている地の文が相乗効果を出してます。
　今回はとりあえず、オオアリクイのせいで未亡人になったみたいというあたりが分かりづらくて良い。

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「オーバーロード３～鮮血の戦乙女」 丸山くがね

　ナザリック大墳墓の支配者であるアインズは、魔物の軍勢を率いる傍ら、情報収集目的で優秀な冒険者として人間社会へ潜入することに成功した。
　しかし、ここでまさかの反逆が起きた。
　実験材料の人間収集に派遣した墳墓の最強守護者シャルティアに、まさかの反逆表示がついたのだ。どうやら何者かによる精神支配のようだが、死霊系統魔法が一切無効化されるシャルティアは、アインズにとって最悪の相性だった……。

　魔物の総領と優秀な冒険者の顔を使い分ける、アインズ・ウール・ゴウンこと鈴木悟のピカレスク・ファンタジーは今回も好調。
　人間同士の戦いでは最高レベルであり、並の魔物なら一撃粉砕してしまう戦士すら赤子以下に扱ってしまうアインズやシャルティアによる最強決戦。最強の盾と最強の矛を持った者同士が激突する死闘は、冒険アクションの醍醐味です。
　この作品に限らず、超人的な戦闘力や国家レベルの財力やオーパーツ並の超技術を持っている主人公がただ格下の敵を蹂躙するだけなら、単なる無敵モードの願望充足。それが通用しない相手、あるいは同じ力を持っている者が敵となったときに、いかに乗り切るかで主人公の格が決まるのです。
　知恵と勇気と経験ですね。

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「コロロギ岳から木星トロヤへ」 小川一水

　敗戦によってヴェスタ人の統治下になった、2231年の木星トロヤの小惑星アキレスで、廃艦となり今は観光施設となっている宇宙戦艦に忍び込んだ２人の少年。
　2014年の北アルプス・コロロギ岳の観測所で、太陽観測に従事している２人の天文学者たち。
　本来なら接点の無いはずの彼らだったが……。

　21世紀と23世紀をつなぐ時間ＳＦ。

「私としては、腕白年下無邪気攻め、の想定です」
　岳樺百葉が才谷煌海に告げた言葉。

　200有余年の時と空間を超えた救出作戦に、『復活の地』のようなスペクタキュラーなプロジェクトかと期待していたのに、なぜかプロジェクトが進めば進むほど漂う腐臭はいったいなんなのでしょうか……？
　でも、さすがは小川一水。時間ＳＦと地球外知性とのファーストコンタクトをきれいにまとめてくれました。

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「宇宙軍士官学校３」 鷹見一幸

「銀河規模の戦乱があり、人類がそこで戦うためにリフトアップさせられた、というのは比較的穏当なモデルです」
　そのあたりまでは想定内、真相がクトゥルフ神話みたいな話ではなくて良かったと地球代表の言葉。
　人類は技術では銀河文明に劣るとしても、それを補うフィクションという想像力があるのだ。

　ケイイチたちの訓練航海が後半戦を迎えている頃、地球ではあらたな候補生の選抜が行われていた。
　彼らこそ本来の士官候補生。
　銀河文明の戦線に加わり、母星系を守ることになる15歳の少年少女たちである……。

　宇宙戦闘機の戦いから宇宙艦戦闘、そして艦隊戦へとシミュレーションも進んでいきますが、その一方で新入生を受け入れる際のドタバタな一幕も。その後には再び凄惨な戦いが待っていて、実に緩急のついたストーリーで飽きません。タオルを巻いた姿もいいなあ……。

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