マンガやアニメの絵柄の表紙でジュニア向きに売り出していた本が、地味な装丁にしてアダルト向けに売り出したり、逆に地味目の表紙で出していたものを映像化の際に表紙変更したりすることはままあります。内容そのままで講談社文庫から青い鳥文庫まで通用してしまう宮部みゆきのように、内容よりはパッケージで対象年齢が変わる/広がる一面もあるのかな。つまり、「ライトノベル」とはジャンルではなくパッケージスタイルなのだ。
そういうわけで、定期的な虫干しです。
『塩の街』有川浩
有川浩のデビュー作で、ハードカバーは純文学っぽい装丁でありながら、実は自衛隊が怪獣と戦う「自衛隊三部作」の1作目。ただ最初の『塩の街』はいかにもな少女マンガテイストのイラストで文庫が刊行され、その後ハードカバーになりましたが、続く『空の中』『海の底』ではハードカバーが先行して、数年してから文庫化してます。また、作中の恋愛要素を抜き出した外伝的な短編も、さりげなく恋愛小説枠で刊行されてます。
『ステップファザー・ステップ』宮部みゆき
プロの泥棒が育児放棄された中学生の双子の兄弟の親代わりをさせられる疑似家族ミステリは、最初は地味な表紙の一般文芸で刊行されたのが、いつの間にか荒川弘のイラストの新装丁が登場。さらには難しい漢字にルビを振るなどしただけで青い鳥文庫に登場と、読者層を広げていました。
『若き人々への言葉』ニーチェ
なら、表紙をラノベっぽくすれば何でも良いかというと、ニーチェなんかでやっちゃってたりしますが、これで「若き人々」に言葉が届いたのでしょうか? 売上がどれだけ増えたか気になります。
いや、買いましたけど、中身はニーチェに変わりないので。
『堕落論』坂口安吾
ただ、集英社文庫は定期的に学生向けにマンガ家等をカバー絵に登用したリニューアルを定期的にやっていますので、それなりに需要はあるのかもしれません。
『彩雲国物語』雪乃紗衣
古代中国によく似た帝国で初めての女性官吏になった少女の物語。最初は角川ビーンズ文庫から少女向けに。やがてコミック化され、映像化され、落ち着いた装丁で角川文庫から登場します。ただ、これもグインサーガと同様、途中から作者がサブキャラに入れ込みすぎて全体のバランスが狂ってしまったような印象があります。みんな、美形で陰険な陰謀家キャラが好きすぎです。
『エンダーのゲーム』オースン・スコット・カート
昔のハヤカワ文庫は映画化だなんだとシリーズ途中でも表紙イラストを一新して不評でした。このミリタリー・学園SFでも映画化などに合わせて何度も表紙イラストを変更していますが、このあたりになると「文庫カバーとほとんど同じ大きさの宣伝帯」というブレイクスルーがあり、カバー変更したように見えるけれど実は帯をかけただけでした!……というパターンが増えます。「氷菓」とか。
『舞面真面と仮面の女』野崎まど
スゴいSFだ! 斬新なミステリだ!と思わせ読ませておいて、案外と本質はバカミス、ホラ話のような気がする野崎まどの作品群。そのデビュー2作目のマイヅラマトモも最初はメディアワークス文庫からアダルト向けの狐面イラストで登場。最近の新装版でセル画調に処理された森井しづきのイラストで統一されました。スタイリッシュですね。
『2』野崎まど
その一新されたメディアワークス文庫版作品群すべての2作目である『2』も合わせて登場。確かにこれなら、物語の舞台が共通の世界であることが分かりやすいですね。タイトルを見て、なんのことだか分からない作品で、これだけ読んでも何が2だかわからない。『[映] アムリタ』から『パーフェクトフレンド』まで全部読んで初めて分かるタイトルです。
『幽霊塔』江戸川乱歩
ベンジソン夫人の『ファントムタワー』だかアリス・M・ウィリアムソンの『灰色の女』を(諸説あり)、明治時代に黒岩涙香が好き勝手に翻案し、それをさらに昭和になって江戸川乱歩がリライトした作品です。それをさらに原作大好きな宮崎駿がコミック付きでイラストを描いて平成になって復刻。イメージがぜんぜん違うわー。
『野獣の都』マイクル・ムアコック
最後にハヤカワSF文庫から「永遠の戦士ケイン」シリーズの『火星の戦士』1作目。エルリックからホークムーンまで、同じ作者の書いたヒロイックファンタジーのシリーズがいろいろあるけれど、実は主人公は生まれ育ちは違っても同一存在、戦士エレコーゼの化身なんだよ!というエターナル・チャンピオンシリーズに含まれます。そのイラストは、いかにもラノベ的な装丁の元祖というか本家。最初の松本零士から天野喜孝を経て最終的に佐伯経多&新間大悟となるわけですが、普通の学者が実験の失敗で異世界に飛ばされ、なぜか美女と出会って無双するストーリーもラノベ的展開なので、松本版がいちばんしっくりしますね。
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