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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

棋士・先崎学の青春ギャンブル回想録

2011-11-24 22:46:42 | 読んだ本
先崎学 2011年11月 白夜書房
こないだの『今宵、あの頃のバーで』に引き続いて、先ちゃんのエッセイ集みたいなもの。
同時期に二冊出るのは珍しいような気がする。
ただ、この本はタイトルのとおり、ギャンブル関係のみがテーマとなっている。
三部構成で、第1章「青春ギャンブル体験記」、第2章「先崎学×中田功 あやしい対談」、第3章「酒とサイコロの休日」。
第1章は、『月刊パチスロ必勝ガイドNEO』に連載していたのを編集したもの。
主に、十代半ばからプロ棋士になるまで、打ち続けたパチスロの話。私はパチスロまったく知らないので、いまひとつ興奮が伝わってはこないんだけど。
第2章は、先ちゃんにそのパチスロを教えた、ギャンブルに関しては師匠ともいえる、コーヤンこと中田功七段との対談。
仲間内ではやったゲームをきかれて、名前が出ただけで突如盛り上がったのが、「たぬき」。
二人が口をそろえて、「知らないほうがいい、知らないほうがいいです」「あれが一番あぶないんですよ」「あれは凄い」「あれが一番授業料払った」とか、危険視するサイコロゲーム。
「たぬき」のルールについては、先ちゃんの名著『小博打のススメ』に詳しい。
簡単にいうと、サイコロ2個を同時に親が振って、子は1から6のどの目が出るか、賭ける。べつに2点張ってもかまわない。
2個のサイコロのうち、どっちかでも目が出れば、当たり。たとえば、1に賭けて、1と2が出ても、1と6が出ても、1は当たり。その場合の配当は、3倍(10円賭けたら、20円をもらえて、元とあわせて30円になるの意)。ちなみに、ゾロ目がでたら、6倍。
ただし、親には「総取り」の目というのがあって、それは親が自分で指定する。「1・5」とか「2・3」とか何でもいい。総取りが出る確率は、36分の2だから、18分の1。
18回に1回は親がかっぱげるという利権があることで、バクチとしての押し引きが出てくるわけで。
ちなみに、サイコロを3個でやるのが「きつね」、1個でやるのが「ちょぼいち」。
で、これらのサイコロゲームは、帯や目次で「オカルトの怖さ」と紹介されている。
なにがオカルトかっていうと、目の出る確率は本来いつだって6分の1なんだけど、やっぱ実際にやってみると、よく出る目、ほとんど出ない目というのは存在するもんである。そうなると、子は、理屈では6分の1と知ってはいても、出続ける目に賭けるとか、ずっと出てない目に賭けるとか、そういう狙いをもつことになる。いっぽうで、親は、自分の総取りの目を出すべく、確率なんか相手にしないで、「念を入れ」て振る、当然。当人たちの気合いとサイコロは無関係なはずだけど、それでも意志が通じるような気がするとこが、楽しさであり、ちょっとオカルト。
さて、第3章は、まいどおなじみ文春連載のエッセイ『浮いたり沈んだり』の2007年以降のなかから、主にギャンブル関係を題材にしている23編を収録したもの。
あいかわらず、ここで紹介される、棋士の変人ぶりがおもしろい。
たとえば、確率に関する問題を前に複雑な理論を議論していると、そこへ前述のコーヤンこと中田功七段が言うには、
「もー分んなあい。なんでふたりともそう、理屈をこねるの。サイコロなんて、気合何だよ。気合。(略)
念じて振るのと、そうでないのでは、出目に違いがあるんだよ。ちゃんと、研究の結果も出ている。だいたい、小学校の教科書に載っていたもん。(略)
信用してないな。それなら、今からサイコロで勝負だ。俺は念じて振るから、ふたりはそっぽ向いて振る。それでいいんでしょ。そういうことだよね」

だそうです。勝負師だなあ。
それとか、ジャンケン。
若い頃から、食事したときとか割り勘を嫌って、ジャンケンをしたそうだが(私の周辺も結構そういう場合ジャンケンする)、強かったのはM九段だそうで。(森内?)
このヒトは勝負事には何でも一家言あるタイプで、ジャンケンに対する造詣も深かった。「大金がかかると人間はグーを出しにくい」「あいこの後にその人の実力が出る」などというM語録は我々をしてふーむと唸らせるものだった。ちなみに前者の根拠は、グーを出してパーでつつみ込まれる感じが、プレッシャーのかかった人間には圧迫感を与えるため、なんだそうである。
ちなみに、この話のマクラになっているのが、先ちゃんが新聞で読んだ「ジャンケンで勝つ方法」という記事。
大学教授が学生に一万回以上ジャンケンをさせて統計を取った結果の分析。
一番多いのはグー、ついでパー、チョキの順。だから、ジャンケンはパーを出すべし。
続きがあって、あいこの場合どうするか。あいこの後で同じ手を出した回数は22.8%にとどまって、これは単純平均の33.3%を大きく下回るので、人間は前回とは違う手を出すという傾向がある。だから、あいこの後は、さっきの手に負けるもの(グーであいこだったらチョキ=相手がパーなら勝ち・チョキならあいこ)を出すべし。
しかし、先ちゃんは、「最初はグー」というジャンケンの仕方が対象になっていないことに不満をもつ。
「最初はグー」で始めたら、次に違う手を出したがるのが人間のクセならば、初手はグーが一番多いという統計は役立たないので、「パー必勝法」は成り立たなくなる。ひょっとして「最初はグー」というのは、ジャンケンを公平にするために、いいルールではないかと考察している。うーん。
コメント
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