many books 参考文献

好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

2012-10-06 18:01:58 | 小林恭二
小林恭二 1999年 講談社
私の好きな作家・小林恭二のリストアップが、ずっと停まってたんで、ひさしぶりに再開。あと少しで完了しそうだし。
これは、いわゆる私小説と呼ばれるものに近い、実の父親のことを書いたもの。
前に短編で『瓶の中の父』というのがあったので、それの続編ということになるか。
主人公である著者の父は大正11年生まれ。
成績優秀スポーツ万能の神童で、一高・東大へと進むが、戦中戦後の時期には、不運にみまわれる。
自身は結核にかかり、肺を4分の3(片方全部ともう片方の半分)失う。家族は、大陸から引き揚げることはできたけど、財産を失い、何人かは重篤な病にかかる。
肺をとって、休職してた会社に戻ったあとの、昭和32年に著者が次男として生まれる。
父は会社でも、変わった感じのひとだったが、部下には怖がられる一方、能力はまちがいなく高いんで、社長にはなれなかったけど、やがて役員になって経営陣に加わった。
そんな父親の一生を、親戚や同級生や会社関係者にも話を聞いて、自身の体験とともに書いていく。
なんせ「自分より頭のいい人間を見たことがない」って自分でいうくらいだから、アタマいいんでしょ。
何かに凝りだすと没頭するらしく、御影に住んでいたときは、周囲から「花屋敷」と呼ばれるくらい庭を花でいっぱいにする園芸に取り組んだし、そのあとは仏教を勉強する。
で、著者の十代は、夕方5時になるとすぐ退社して帰宅してくる、そのころの父親とディスカッションを繰り返す毎日だったそうで。
そういう知識が豊富で、考え方もクリアな、頭の切れるひとと問答を日々していれば、そりゃ嫌でも鍛えられるんでしょう。
ちなみに、著者の兄も特異な才能の持ち主で、「地理は白紙から正確な地図が書ければよい」とか言って、実際に細部から書き始めて、カンペキな地図を書いちゃったり、二けた掛ける二けたの掛け算は全部暗記してるから計算が速かったり、ほかにも歴史年表の記憶とか図形問題とか得意だったそうな。
著者の小説に、ときどきスゴイ(偏執的といってもいいような)天才キャラが出てくる(「ゼウスガーデン衰亡史」なんかにごろごろ出てくる)んだけど、あれってそういうすごい家族に囲まれて育ったから、自然と着想が出てくるのかなという気が改めてした。
コメント
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