高木徹 二〇一四年 講談社現代新書
つい最近に古本まつりで見つけたもの、探してたわけぢゃないんだけど、これって『戦争広告代理店』のひとだよな、と思って。
あれはおもしろかったから、似たようなものなら読んでみていいなと期待した。
本書の第1章でも、そのボスニア紛争で活躍したPR会社の戦術のおさらいから入ってる。
「メッセージのマーケテイング」が仕事だというPR会社のもつテクニックが3つ。
まず「サウンドバイト」、これは政治家などの発言のうち、数秒くらいの長さに切り取られる断片、これに向いた話し方をすることが重要。
つぎに「バズワード」、メディアに流行らせる言葉、ボスニアのときは「民族浄化」でセルビア人が何をしてるかって一言で表した。
それから「サダマイズ」、これはサダム・フセインの名前からきてるらしいけど、敵のリーダーを国際社会全体が極悪人だと認めるような世論を作ってしまうこと、あいての国とか組織とかぢゃなく、誰か具体的な人物を標的にしちゃうと世論が形成されやすい。
第2章では、アメリカ大統領選のテレビ討論会なんかでの例があげられているけど、これもおもしろい。
パパ・ブッシュが現役大統領なのにクリントンに負けたのは、テレビ討論のなかで、ある少女の質問の際に、自分の腕時計を覗き込んだ姿を映されたからだという。
この「時間のむだだ」みたいな傲慢な態度の映像が、短く切り取られて何度も繰り返し放映されたのはイメージをすごく悪くしたんだそうな。
オバマが再選に向けた選挙戦の第一回の討論で劣勢になってしまったあと、第二回討論の前に泊まり込みの練習をしたときのことを、
>週末をまたぐとは言え、公務をほったらかしにしてリゾートホテルにこもり、大勢のシークレットサービスをはじめ公費も使ってテレビ討論の準備に専念する大統領を、アメリカのメディアは批判したりはしない。(略)
>アメリカの民主主義では、日本では否定的に「パフォーマンス」などと言われかねないテレビ向けのテクニックを磨くことはあたりまえだと考えられている。それは一つの「ゲーム」なのだ。(p.91-92)
みたいに紹介してるところも興味深いと思った。
オバマはメディア情報戦にすぐれていて、ホワイトハウスにメディアのカメラマンが入ることは許可しないで、専属カメラマンの撮った写真を提供してイメージをコントロールしてたんだそうだ。
2013年9月のシリア攻撃のときは、議会や世論の賛成が得られそうになかった情勢のなかで、一日に6つのテレビ局との一対一のインタビューを受けた、全社を集めて記者会見したほうがラクなはずなのに、
>(略)共同記者会見という形では、各局ともその日のニュース番組で一分になるかならないかの「サウンドバイト」を放送するだけになってしまうが、「単独インタビュー」なら、どの局も「特別番組」かそれに近い扱いで、ほぼ全編を放送することになる。さらには、そこから切り出した「サウンドバイト」をその後のニュース番組でも繰り返し放送することになるから、オバマ大統領のメッセージがはるかに広く、深い形で国民に浸透していくのだ。(p.239)
ってことでメディア対応したっていうんだから、そりゃたいしたもんだと思う。
このオバマが戦ったのがアルカイダで、ビンラディン殺害後も、後継者が出現することのないように作戦を継続したという。
>オバマ政権は、アルカイダのメッセージを世界に広げようとする国際情報戦の能力の高い人物は殺害することで物理的に除去し、しかもその「殉教者化」を防ぐ情報戦も実施するという政策をとっている。(p.165)
という徹底したもの。
というのも、そもそもアルカイダってのが、表裏一体のアッサハブって組織をつかって、メディアつかってのPR戦略に長けてたっつーのがあるからで。
そのまえのブッシュ政権のときは、広告業界から国務省に人材登用したりしたんだけど、無茶な理由でイラクを攻撃したもんだから、「アメリカはイスラム教徒を殺し続ける」みたいなビンラディンの主張がイスラム世界にまかりとおることになってしまった。
>PR戦略といっても、トップがそのメッセージを裏切る行動を続けていてはその効果にも限界がある。国家が情報戦を戦うなら、まずその政策や行動が問われるのは当然のことだ。それをひっくり返すことはどんなプロでもできない。(p.146)
ってことで、「アルカイダとフセインは協力してる」みたいな、イスラム世界ではそんなことありえないってみんな知ってるようなことを言っちゃう政権では情報戦では勝てなかったというわけだ。
そうやって、どっちの側もメディアを通じて自分のほうの正当性を主張するべくPRをするんだが、勝負のポイントはなにかというと、
>本書で描いてきた国際メディア情報戦、(略)いわば「現代の総力戦」の本質は、さまざまなテクニックを使いながら、最終的には「自分たちの方が敵よりも倫理的に勝っている」ということをいかに説得するかという勝負である。国際メディア情報戦の時代には、弱肉強食で軍事的に力が勝るものが勝つというのは古い考え方となる。(略)誤解を恐れずに言えば、現代の国際政治のリアリティは、自らの倫理的優位性をメガメディアを通じて世界に広めた者が勝つという世界なのだ。(p.245-246)
ってことになる。本書は2014年のものだけど、いまロシアとウクライナのあいだで起きていることみても、そこは変わらんだろうなと思う。
章立ては以下のとおり。
序章 「イメージ」が現実を凌駕する
第1章 情報戦のテクニック ジム・ハーフとボスニア紛争
第2章 地上で最も熾烈な情報戦 アメリカ大統領選挙
第3章 21世紀最大のメディアスター ビンラディン
第4章 アメリカの逆襲 対テロ戦争
第5章 さまようビンラディンの亡霊 次世代アルカイダ
第6章 日本が持っている「資産」
終章 倫理をめぐる戦場で生き残るために
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