G・K・チェスタトン/中村保男訳 1982年初版・2017年新版 創元推理文庫版
丸谷才一の随筆なり文藝評なりを読むたびに、あー自分は全然ミステリーってのを読んでないんだな、と思うことしきりではあったんだが。
なにか読んだことないもの読んでみようと思って、丸谷さんの「ブラウン神父の周辺」って論考のなかで、
>さう、ぼくはそのやうな意味で、探偵小説を大人の童話であると思ふ。それは一日の疲れを楽しく医(いや)してくれる。(略)そして大人の童話の最上のものの一つとして、『ブラウン神父物語』がある。
ってほめたたえられてるのに興味をひかれ、名前だけは聞いたことがある、それを読んでみることにした。
短編集が五つあって、本書がその最初だということだけは調べて、中古を探してきた。
原題「THE INNOCENCE OF FATHER BROWN」は1911年の刊行だという。
(「童心」って、Innocenceの訳なんだ。Innocenceって問題出されて、自分では童心って単語は全然思い浮かばないな。)
主人公のブラウン神父は、そのとおり神父であって、職業探偵ではないから、普通の探偵小説にはならない。
依頼主が探偵のところへ相談もちかけて、事件を捜査したりとか、そういうんぢゃない。
どっちかっていうと、居合わせたところで巻き込まれちゃったブラウン神父が、ことの次第を推理して一見謎にみえる真相を見破るって感じか。
もちろん逮捕する権限もないし、ボストンの探偵のように悪いやつブッ飛ばしちゃうようなこともしない、静かに解決する。
ほかの主要登場人物は、フランス生まれの天才的犯罪者のフランボウ、大男で腕っぷしもたぶん強い。
冒頭の作品「青い十字架」において、大仕掛けな窃盗をはたらく変装の達人として紹介されて登場したフランボウ、ところが何作かすすむうちに、悪党を引退して、探偵を開業することにしたらしい。
毎回登場してくるブラウン神父の宿敵ってキャラなのかと思ってたら、神父の友達って立ち位置に変わってるし、一冊目のなかからこれでは、やっぱシリーズは順番に読まなくてはと思った。
一作目でこのフランボウを追っかけてるのがパリの警視総監ヴァランタンで、このひとが悪人つかまえる側の中心となってブラウン神父と組むのかと思ってたら、すぐに意外な消え方をしてしまう。
ということで、一読したなかでは、二番目におかれている「秘密の庭」ってのが、インパクトつよかったな、他の誰にも見られずには入り込めない場所で、当日招かれていない知らない男が首切られてるの見つかるって事件。
短編集だから、あまり考えずにさらさら読み進めてったけど、どれも印象としては、おかしなことが起きたけど、アタマいい神父から見れば真相はお見通し、って感じのエピソードの数々。
ミステリーというより奇譚集って感じと言えばいいか、丸谷さんのいう童話ってニュアンスがなんとなくわかる気がする。
若いころに読んだら、なんぢゃこれはと思ったかもしれないが、謎解きはたいした問題ではないと思っていまは読んでるので、まあこういうのもたまにはよいかという感じ。
でも、さらさら読みたいものが欲しいという視点からすると、なーんか、改行少ないせいか、読みやすくはないんだよね。
ちょっとわかりにくいような言い回しとか、そういうのはしかたないね、100年以上前のものに文句いうもんぢゃない。
コンテンツは以下のとおり。
青い十字架
秘密の庭
奇妙な足音
飛ぶ星
見えない男
イズレイル・ガウの誉れ
狂った形
サラディン公の罪
神の鉄槌
アポロの眼
折れた剣
三つの凶器
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