「中央区を、子育て日本一の区へ」こども元気クリニック・病児保育室  小児科医 小坂和輝のblog

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「慣れない」という小さな抵抗、難しいけれど、今の時代に最も大事なことかもしれません。

2018-11-25 23:00:00 | シチズンシップ教育
 「慣れない」という小さな抵抗、難しいけれど、今の時代に最も大事なことかもしれません。


********朝日新聞20181125******
https://digital.asahi.com/articles/DA3S13784097.html
(日曜に想う)「慣れない」という小さな抵抗 編集委員・福島申二
2018年11月25日05時00分


 分断にささくれる時代だから、こんな言葉を聞くとほっとする。もはや旧聞に属するが、玉城デニー沖縄県知事の当選直後のネット動画を見ると、インタビューに答える言葉が実にいい。

 「私は、誰一人として取り残さないということを訴えてきました。(与党の推した)佐喜真(さきま)さんを応援、支持された方々ともしっかり話し合い、未来の沖縄県づくりに参加していただきたい。佐喜真さんにもその気持ちで、できることがあれば一緒にがんばっていただきたい」

 ツイッターでも発信した。「誰に投票した人であれ、沖縄の未来を真剣に考えた一票だったと思います。その想いをこの一身に受け止めます」。票が単に勝ち負けを決めるだけの数字ではないことを分かっている人なのだと思う。選挙における一票について、作家の開高健が次のように言っていたのを思い出す。

 条件によってはどうにでも変わりうる無数の要素の、複雑きわまりない絡み合いに対する、単純きわまる答え。それが個々の一票であると。有権者はつまるところ、一人の候補者の名という「単純きわまる答え」でしか意思を示せない。

 何かを切り捨てなければ択一はできない。悩み抜いた末に、自分に、あるいは相手候補に投票した人も多い――そうした想像のできる、デニー氏は政治家なのだろう。出任せのきれいごとではあるまい。その言葉は、民主主義を勝ち負けの結果だけに集約させがちな昨今の政治への、静かな抵抗のように響いてくる。

     *

 さかのぼって今年2月、沖縄の名護市長選では、自公などの推す新顔が、普天間飛行場の辺野古移設に反対してきた現職を下した。筆者がかつて取材した経験からも、移設先にされた名護の人々の心の内は微妙かつ複雑だ。個々の投票の何割かは、それこそ開高が言い表したような悩ましい一票だったと推察できる。

 だが、そのあたりを記者会見で問われた菅義偉官房長官の答えは「選挙は結果がすべて」というものだった。当然と見る向きもあろう。だが、その先にあるのは意に染まない意見の切り捨てではないか。白黒つけよう、勝ちか負けか、が民主主義ではないはずである。

 思えば10年前、米大統領選の勝利演説でオバマ氏は言ったものだ。「私を支持しなかった皆さんの票はもらえなかったが、皆さんの声に耳を傾けます。私は皆さんの大統領にもなるつもりです」

 現大統領の口からは聞けそうもないセリフである。支持してくれる味方の声を聞き、その範囲にだけ言葉が届けばいいというのがトランプ流であろう。その傾向は安倍晋三首相からもうかがえる。

 沖縄で、選挙に勝ったときは結果がすべてと言い、負けたら結果を軽んじてきたやり方(今回も)は、独裁を思わせるご都合主義といって過言ではない。もう言葉を届かせる必要も感じないのか、首相が繰り返すのは「沖縄の気持ちに寄り添って」という空念仏ばかりである。

     *

 どんな異様な事態にも人は慣れてしまうものだという。「人は絞首台にも慣れる」という言葉があるのを、哲学者の鷲田清一さんの著述に教わった。

 その言葉をいま言い換えるなら「人はトランプにも慣れる」だろうか。

 大統領当選の衝撃は大きかった。就任してからの、ありえない虚言や暴言、独善、敵視、人権軽視など数々を、はじめは怒ったり難じたりしていたが、今ではそれが当たり前になってしまい、知らぬ間に慣らされてしまった自分がいる。

 「安倍政治」にも同じような感じがある。自己都合を大義にみせかける政権運営、国会すなわち国民軽視、官僚の文書改ざんや虚言、放言……。繰り返される横着や不実に「またか」と弛緩(しかん)してしまっている自分に気づくことがある。

 世界各地で分断が進み、民主主義は後退しているという。意見や立場を異にする者が、それでも肩を組んで歩こうという民主主義は、壊れやすい人類の発明品だ。沖縄への理不尽もそうだが、慣れてはならぬことには慣れないことを、日々のささやかな抵抗にしたいと思う。その大切さを、歴史は小声で語っている。
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