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他団体の妨害行為によって、拡声器による騒音規制違反で起訴された人を、憲法学的に救う方法

2014-10-18 23:00:00 | 憲法学
 以下、教室事例。

 一人であれば、85dB以下で、規制の範囲内であったのに、他団体の妨害行為にあって、騒音規制違反となった。

〇弁護人の主張

 条例は、実質的には、表現内容規制であり、厳格な審査基準を用いて、法令違憲である。
 
 たとえ、条例は合憲でも、Pへの適用は、Pの表現の自由を侵害し、適用違憲である。

〇検察の主張

 条例は、あくまで、表現内容中立規制であり、立法裁量が広く認められる分野である。合理的関連性の基準を用い、法令合憲である。

 条例のいう合わせて85dBとなっている以上、Pは条例違反であり、起訴には理由がある。


〇自分の主張

 条例は、実質的に表現内容規制であり、より制限的でない方法がある場合、違法とするLRAの基準で判断すべきであり、法令違憲である。

 たとえ、条例は合憲でも、Pを規制することでPの被る表現の自由の侵害(①Pの属性、②Pの表現の内容、③表現した場所と時間、④表現の態様、⑤動機)と、Pを規制することで得られる利益(①守られる利益、②時間、③場所)とを比較考量し、本件では、Pの表現の自由の侵害が、得られる利益より大きいため、適用違憲である。

 




**********教室事例**************************

問題 次の文を読んで問1~問3に答えなさい。

 京都府は、政治団体等による街頭演説、街宣車による演説の音量が大きく、官庁街、住宅街等で、業務や日常生活に著しい影響を与えているという状況を考慮して、「拡声機による暴騒音の規制に関する条例」(以下「本件条例」という。)を制定している。

 政治団体A(以下「A団体」という。)は、若者を中心とした団体であり、韓国に対する日本の歴史認識が不十分であり、日本は韓国民に対して、十分な謝罪と賠償を行うべきであるという点を主として主張し、全国で演説活動及びビラ等の配布を行い、インターネット上のHPにおいて、自己の主張を掲げている団体である。また、A団体は、国会に議席を有する特定の政党の影響を受けない団体である。A団体の代表Pが、他の構成員と共に京都市のJR京都駅前でマイクを使った街頭演説を30分程、行っていたところ(演説はPのみが行った)、右翼系の政治団体B(以下「B団体」という。)の街宣車数台が同駅前の近接する地点に集結し、Pによる演説にあわせるように、大音量でA団体方向に向かって、演説を開始した。B団体の演説によれば、A団体の主張は、日本をダメにするものであり、左翼に洗脳された若者たちの虚言であるという。そして、B団体はA団体に対して論争を挑み、この場で、市民にどちらが正当な主張をしているのかを判断してもらいたいと、駅前の市民に訴えた。

 これに対して、Pは、自己の主張に対して対抗心をむき出しにしたB団体の演説は、迷惑だと思ったが、これ以上、大きな音を立てて反論することは、好ましくないとして、従来の音量のままで演説活動を続けた。なお、これまで、A団体は、他の暴騒音条例(通常85デシベル規制がある)を制定している都道府県で演説活動を行ってきたが、これらの条例に反したとして、警告を受けたり処罰をされたりしたことはなく、拡声器の点検も常に行い、10メートル離れた地点から、85デシベル以下にすることを常に心がけてきた。

 しかしながら、PとB団体の演説をあわせると、著しい騒音となり、JR京都駅前は、騒然となったことから、通報を受けた警察官は、本件条例に指定された方法で、騒音を測定したところ、85デシベルを超えていた。ただし、PとB団体のどちらか一方が85デシベルを超えていたかどうかは確認出来なかったことから、警察官は、本件条例6条1項に基づき、PとB団体に対し、拡声機による暴騒音の発生を防止するために必要な措置をとるべきことを勧告した。これ対してPは、これまで自分たちが85デシベルを超えたことがないことを説明したところ、警察官はこの状況ではPの主張を確認できないとして、あくまでも、演説をやめるようにと勧告した。しかしながら、Pは、自分たちに落ち度がないのに、不当な勧告に従うことはできないとして、演説を継続したところ、警察官は、暴騒音を防止するために、本件条例6条2項に基づいて、演説場所の移動を命じた。Pは、この命令に従わなかったために、本件条例6条2項に違反するとして、起訴された。

問1 あなたが被告Pの弁護人であるとすれば、本件刑事裁判において、どのような憲法上の主張をしますか。なお、法人としてのA団体の権利に言及する必要はない。

問2 被告Pの主張に対して、検察官は、どのように反論するかを簡潔に述べなさい。

問3 問1と問2で示された憲法上の論点について、自己の見解を述べなさい。



関連条文 【拡声機による暴騒音の規制に関する条例(京都府)】
(目的)第1条 この条例は、拡声機を使用して生じさせる著しい騒音が、府民の日常生活を脅かすとともに通常の政治活動その他の活動に重大な支障を及ぼしていることにかんがみ、このような騒音を生じる拡声機の使用について必要な規制を行うことにより、地域の平穏を保持し、もって公共の福祉の確保に資することを目的とする。

(適用上の注意)第2条 この条例の適用に当たっては、集会、結社及び表現の自由並びに勤労者の団結し、及び団体行動をする権利その他の日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。

(適用除外)第3条 この条例の規定は、次に掲げる拡声機の使用については、適用しない。
(1) 公職選挙法(昭和25年法律第100号)の定めるところにより選挙運動又は選挙における政治活動のためにする拡声機の使用
(2) 国又は地方公共団体の業務を行うためにする拡声機の使用
以下略

(拡声機による暴騒音の禁止)第4条 何人も、拡声機を使用して、別表の左欄に掲げる拡声機の使用の区分に応じ、それぞれ同表の右欄に定める測定地点において測定したものとした場合における音量が85デシベルを超えることとなる音(以下「拡声機による暴騒音」という。)を生じさせてはならない。

(停止命令)第5条 警察官は、前条の規定に違反する行為(以下「違反行為」という。)が行われているときは、当該違反行為をしている者に対し、当該違反行為を停止することを命じることができる。
2 警察署長は、前項の規定による命令を受けた者が更に反復して違反行為をしたときは、その者に対し、24時間を超えない範囲内で時間を定め、かつ、区域を指定して、拡声機の使用を停止することを命じることができる。

(勧告及び移動命令)第6条 警察官は、2人以上の者が同時に近接した場所でそれぞれ拡声機を使用している場合であって、これらの拡声機により生じている音が拡声機による暴騒音となっており、かつ、それぞれの拡声機の使用が第4条の規定に違反しているかどうかが明らかでないときは、これらの者に対し、拡声機による暴騒音の発生を防止するために必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
2 警察官は、前項の規定による勧告を受けた者がその場所にとどまり、かつ、引き続き拡声機による暴騒音を生じさせているときは、これらの者に対し、当該拡声機による暴騒音の発生を防止するために、その場所から移動することを命じることができる。

(立入調査)第7条 警察官は、前2条の規定の施行に必要な限度において、拡声機が所在する場所に立ち入り、拡声機その他必要な物件を調査し、又は関係者に質問することができる。
2 前項の規定により立入調査を行う警察官は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者の請求があったときは、これを提示しなければならない。
3 第1項の規定による立入調査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。

(罰則)第9条 次の各号のいずれかに該当する者は、6月以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。
(1) 第5条第1項又は第6条第2項の規定による警察官の命令に違反した者
(2) 第5条第2項の規定による警察署長の命令に違反した者
2 第7条第1項の規定による警察官の立入り又は調査を拒み、妨げ、又は忌避した者は、10万円以下の罰金に処する。


別表(第4条関係) 【拡声機の使用の区分と測定方法】
1 権原に基づき使用する土地の区域内における拡声機の使用においては、当該拡声機が所在している土地の区域外であり、かつ、当該拡声機から10メートル以上離れた地点から測定する。
2 権原に基づき使用する土地の区域内における拡声機の使用以外の使用においては、当該拡声機から10メートル以上離れた地点から測定する。

備考
1 音量の測定は、計量法(平成4年法律第51号)第71条の条件に合格した騒音計を用いて行うものとする。この場合において、使用する騒音計の周波数補正回路はA特性の周波数補正回路を、動特性は速い動特性を用いるものとする。
2 音量の大きさは、騒音計の指示値の最大値によるものとする。


参考資料1 音量の参考例
120デシベル 飛行機エンジンの近く
110デシベル 自動車の警笛(前方2m)、リベット打ち
100デシベル 電車が通るときのガード下
90デシベル 大声による独唱、騒々しい工場の中
85デシベル 大きな声・電話の騒音・大型トラックのモーター音・電車線路まで50m
80デシベル 地下鉄の車内、電車の中
70デシベル 電話のベル・騒々しい街頭、騒々しい事務所の中
60デシベル 静かな乗用車、普通の会話
50デシベル 静かな事務所

参考資料2 本件条例改正時における反対意見
以下は、「京都府拡声機規制条例の改悪に反対する」というタイトルの市民運動(沖縄・辺野古への新基地建設に反対し、普天間基地の撤去を求める京都行動)のブログである。

 07年10月、京都府警は、「『拡声機による暴騒音の規制に関する条例の一部を改正する条例(案)』の概要」を発表し、現行の拡声機による暴騒音の規制に関する条例について「1.換算測定方法の導入」、「2.拡声機使用停止命令規定の新設」、「3.複数の者による拡声機の同時使用に対する移動命令規定の新設」、以上3点の改悪を行うことを公表し、パブリックコメント手続きを開始した。
 私たち京都行動は、このパブコメ手続きに対し、条例改悪に反対であり撤回されるべきだとの意見を送った。私たちは特に「3.複数の者による拡声機の同時使用に対する移動命令規定の新設」を問題視し、これがなされてしまうと、いわれのない移動命令が私たちになされてしまうことを危惧する旨の意見を提出した。現行の条例では、2人以上の者が同時に近接した場所でそれぞれ拡声機を使用した結果、10m離れた地点から測定し85デシベルを超える音が発生しているときに、警察官が当該使用者に対して音の発生を防止するための必要な措置をとることを勧告できるとしている。改悪案においてはかかる勧告に従わず引き続き複数の拡声機が使用され85デシベルを超える音が発生していたら、当該使用者に対して警察官はその場からの移動を命じることができ、従わない場合には6ヵ月以下の懲役又は20万円以下の罰金を科しうるとするものとしている。
 府警は、要人の会談など国賓の来洛時において、抗議する団体の街宣車の隊列などを例にあげ、規制強化の必要性を説いている。しかしながら、歩きながら拡声機などを使用して訴えを行ないながら進む一般のデモ行進の隊列や、拡声機を用いて街頭宣伝をおこなう人々に対し、妨害団体の街宣車が大音量で近づいて来て威圧行為を仕掛けてくることは多々あることだ。このような場合でも、とにかくその場で85デシベル以上の音がでていたら私たちに対しても刑事罰を持ってして移動命令が下されてしまう。これを悪用してわざと爆音を発して近づいていき、意に添わない街頭宣伝などを警察に移動命令をださせることによって妨害することも可能になってしまう。私たちは毎週定例で拡声機を使用して街頭宣伝を行なっている。この先もそうしていくつもりであり、私たちに対する移動命令など到底容認できず、国家権力による民衆運動への不当介入であると考える。
 京都府下では私たちの知りうる限り、民主勢力に向けて警察が測定器を使用したとの事例を耳にしたことはないが、他府県においては自衛隊への抗議行動や労働争議の現場などで警察が測定器を使用していたり、福岡のフリーター労働運動家たちの主催した06年のデモに対して警察が測定器を向けていた等の話しは聞いている。国家や資本の意に添わない活動を弾圧するための道具としても使われている現状を見ると、そもそも現行条例の存在にも危惧を抱かざるを得ない。日弁連も1992/9/18付けの会長声明において、当時の東京都拡声機規制条例案の上程にあたり、85デシベルの基準が厳しすぎる点や、一部の常軌を逸した拡声機使用については「刑法の脅迫罪、強要罪、名誉毀損、侮辱罪、軽犯罪法の静寂妨害罪、道路交通法など」の現行法規によってまずは対応が講じられるべきとの点を指摘し批判をしている。
以下略

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