政治が、誤った決断を下してしまった場合、たとえその政策が誤っていたとしても、裁判としても、違法はわかりつつも、救いようがない場合があり、行政事件訴訟法は、その判断を認める条文(行政事件訴訟法31条1項、事情判決)を有しています。
****行政事件訴訟法****
(特別の事情による請求の棄却)
第三十一条 取消訴訟については、処分又は裁決が違法ではあるが、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分又は裁決を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、請求を棄却することができる。この場合には、当該判決の主文において、処分又は裁決が違法であることを宣言しなければならない。
2 裁判所は、相当と認めるときは、終局判決前に、判決をもつて、処分又は裁決が違法であることを宣言することができる。
3 終局判決に事実及び理由を記載するには、前項の判決を引用することができる。
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二風ダム事件、札幌地方裁判所平成9年3月27日判決では、ダム建設は違法であったが、今となっては、その違法により取り消すことはできないと判事しています。
****二風ダム事件、札幌地方裁判所平成9年3月27日判決 抜粋***
五 行政事件訴訟法三一条一項の適用
本件収用裁決は、右のとおり違法であるから、本来これを取り消さなければならないものである。そして、沙流川流域においては、これまでの洪水により貴重な人命や財産を数多く失っているため洪水調節の必要性があることは十分理解できるが、率直なところ、自然豊かな山間に、堤高三一・五メートル、堤頂長五八〇メートルもの巨大なコンクリート構築物を建設しなければ洪水調節等の治水はできなかったのか、アイヌ民族の自然を損なわず自然と共生するという価値観に倣い、これに沿った方法はなかったのか、といった素朴な疑問ないし感慨を抱かざるを得ない。これらの点のみからすると、本件収用裁決を氷来どおり取り消すことも考えられるところである。
しかしながら、証拠(甲二五、三八、乙ロ一八)及び弁論の全趣旨によれば、本件ダム本体は既に数百億円の巨費を投じて完成しており、またこれに湛水していることが認められる。仮に本件収用裁決を取り消すとの判決が確定すると、原告らの所有する本件収用対象地を水没させることは許されないから、本件ダムに貯水された水を放流したうえ、今後湛水することができなくなることは明らかである。そうすると、このように巨額を投じて建設された本件ダムは、湛水できないことにより無用の長物と化するばかりでなく、湛水しない本件ダムが沙流川の正常な流水を妨げるであろうことは容易に推認することができるから、かえって洪水等の危険性が増すことになるのである。また、沙流川において洪水調節等の必要性があることは前記認定のとおりであるから、本件ダムを使用することができないことになると、更に洪水調節等を目的とする堤防等を建設する必要が生じ、その建設のためには、本件ダムを建設するのに要した費用以上の費用が必要となる(乙ロ一八)。そして、沙流川流域に居住する住民は、それらが完成するまでの間、せっかく完成した本件ダムを目の当たりにしながら、その恩恵を受けることなく、かえって生命、身体及び財産について、本件ダムが建設される前以上の危険にさらされることになる。更に、湛水しない本件ダムによる危険を除去するためには、本件ダムを撤去することが必要となるが、これに巨額の費用を要するであろうことは推測するに難くない。これらの事実によれば、既に本件ダム本体が完成し湛水している現状においては、本件収用裁決を取り消すことにより公の利益に著しい障害を生じるといわざるを得ない。
加えて、ポロモイチャシ跡は本件ダムの建設に伴い消滅し、ペウレプウッカ及びカンカンレレケへのチノミシリは本件ダムの建設工事によりそれぞれ破壊されたことが認められ、本件収用裁決が取り消されたとしても、回復することはできないこと、チャシについて一定限度での保存が図られたり、チプサンケについて代替場所の検討がなされる等、不十分であるものの、アイヌ文化への配慮がなされていること、原告らにおいても今後参加人である国や、北海道及び平取町等の自治体に対し、アイヌ文化の保存伝承等について具体的な施策を求め得ること、そして、これら国等も、今後においては、アイヌ民族の文化等の問題について、十分な配慮をなすであろうことが期待できること、その本件に表われた一切の事情を考慮すると、本件収用裁決を取り消すことは公共の福祉に適合しないと認められる。
そこで、本件においては、行政事件訴訟法三一条一項を適用することとする。
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似たようなことは、都政でも起きようとしています。
そのことをしっかり認識し、対処できる政治家を私たちは選んでいく必要があります。
「東京都の行った移転は違法である。本来これを取り消さなければならないものである。しかし、事情判決を適用せざるをえない」などという不幸を生まないためにも。
****行政事件訴訟法****
(特別の事情による請求の棄却)
第三十一条 取消訴訟については、処分又は裁決が違法ではあるが、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分又は裁決を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、請求を棄却することができる。この場合には、当該判決の主文において、処分又は裁決が違法であることを宣言しなければならない。
2 裁判所は、相当と認めるときは、終局判決前に、判決をもつて、処分又は裁決が違法であることを宣言することができる。
3 終局判決に事実及び理由を記載するには、前項の判決を引用することができる。
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二風ダム事件、札幌地方裁判所平成9年3月27日判決では、ダム建設は違法であったが、今となっては、その違法により取り消すことはできないと判事しています。
****二風ダム事件、札幌地方裁判所平成9年3月27日判決 抜粋***
五 行政事件訴訟法三一条一項の適用
本件収用裁決は、右のとおり違法であるから、本来これを取り消さなければならないものである。そして、沙流川流域においては、これまでの洪水により貴重な人命や財産を数多く失っているため洪水調節の必要性があることは十分理解できるが、率直なところ、自然豊かな山間に、堤高三一・五メートル、堤頂長五八〇メートルもの巨大なコンクリート構築物を建設しなければ洪水調節等の治水はできなかったのか、アイヌ民族の自然を損なわず自然と共生するという価値観に倣い、これに沿った方法はなかったのか、といった素朴な疑問ないし感慨を抱かざるを得ない。これらの点のみからすると、本件収用裁決を氷来どおり取り消すことも考えられるところである。
しかしながら、証拠(甲二五、三八、乙ロ一八)及び弁論の全趣旨によれば、本件ダム本体は既に数百億円の巨費を投じて完成しており、またこれに湛水していることが認められる。仮に本件収用裁決を取り消すとの判決が確定すると、原告らの所有する本件収用対象地を水没させることは許されないから、本件ダムに貯水された水を放流したうえ、今後湛水することができなくなることは明らかである。そうすると、このように巨額を投じて建設された本件ダムは、湛水できないことにより無用の長物と化するばかりでなく、湛水しない本件ダムが沙流川の正常な流水を妨げるであろうことは容易に推認することができるから、かえって洪水等の危険性が増すことになるのである。また、沙流川において洪水調節等の必要性があることは前記認定のとおりであるから、本件ダムを使用することができないことになると、更に洪水調節等を目的とする堤防等を建設する必要が生じ、その建設のためには、本件ダムを建設するのに要した費用以上の費用が必要となる(乙ロ一八)。そして、沙流川流域に居住する住民は、それらが完成するまでの間、せっかく完成した本件ダムを目の当たりにしながら、その恩恵を受けることなく、かえって生命、身体及び財産について、本件ダムが建設される前以上の危険にさらされることになる。更に、湛水しない本件ダムによる危険を除去するためには、本件ダムを撤去することが必要となるが、これに巨額の費用を要するであろうことは推測するに難くない。これらの事実によれば、既に本件ダム本体が完成し湛水している現状においては、本件収用裁決を取り消すことにより公の利益に著しい障害を生じるといわざるを得ない。
加えて、ポロモイチャシ跡は本件ダムの建設に伴い消滅し、ペウレプウッカ及びカンカンレレケへのチノミシリは本件ダムの建設工事によりそれぞれ破壊されたことが認められ、本件収用裁決が取り消されたとしても、回復することはできないこと、チャシについて一定限度での保存が図られたり、チプサンケについて代替場所の検討がなされる等、不十分であるものの、アイヌ文化への配慮がなされていること、原告らにおいても今後参加人である国や、北海道及び平取町等の自治体に対し、アイヌ文化の保存伝承等について具体的な施策を求め得ること、そして、これら国等も、今後においては、アイヌ民族の文化等の問題について、十分な配慮をなすであろうことが期待できること、その本件に表われた一切の事情を考慮すると、本件収用裁決を取り消すことは公共の福祉に適合しないと認められる。
そこで、本件においては、行政事件訴訟法三一条一項を適用することとする。
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似たようなことは、都政でも起きようとしています。
そのことをしっかり認識し、対処できる政治家を私たちは選んでいく必要があります。
「東京都の行った移転は違法である。本来これを取り消さなければならないものである。しかし、事情判決を適用せざるをえない」などという不幸を生まないためにも。
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