Q君 財産権の保障における特別犠牲説を説明してください。
A先生
補償に関しては、「特別犠牲説」が従来からの通説があります。
これは、相隣関係上の制約や、財産権に内在する社会的制約の場合には補償は不要であるが、それ以外に特定の個人に「特別の犠牲」を加えた場合には補償が必要だという説です。
「特別の犠牲」の判断については、
(1)侵害行為の対象が広く一般的か、特定の個人や集団かという点〔形式的要件〕と
(2)侵害行為が財産権に内在する社会的制約として受忍すべき限度内か、それを超えるものか〔実質的要件〕、
によって判断します。
Q君 財産権の規制に対して与えられる「正当な補償」とは、どのような補償ですか。
A先生
憲法29条第3項にいう「正当な補償」については、「完全補償説」と「相当補償説」があります。
「完全補償説」は、「当該財産の客観的な市場価格を全額補償すべきである」とするものであり、一方、「相当補償説」は、「正当な補償は必ずしも完全な補償を意味するのではなく、公共目的の性質にかんがみ当該財産について合理的に算出された補償であればよい」とします。
「相当補償説」の立場では、補償額が財産の市場価格を下回るものであってもよいことになります。
農地改革訴訟判決は、戦後の自作農創設の為の農地改革というきわめて特殊な状況下に行われた農地の収用についてのものであり、「相当補償説」にもとづき、きわめて低廉な農地買収価格を「正当な補償」であるとしました。
「農地改革事件は、占領中の占領政策に基づくものであったというきわめて特殊な事情があることを考慮に入れて検討しなければならない。」とされています。(芦部 憲法 第5版 232ページ)
判例も土地収用法に基づく土地収用に関しては、「完全補償説」の立場に立って判示している(昭和48年10月18日土地収用補償金請求民集第27巻9号1210頁)。
したがって、原則は完全保障説で、戦後の農地改革のような特殊な事情の場合にのみ、「相当保障説」が妥当すると考えるべきです。
***********判例*******
土地収用補償金請求事件(財産権と正当な補償)
昭和48年10月18日 第一小法廷・判決
「おもうに、土地収用法における損失の補償は、特定の公益上必要な事業のために土地が収用される場合、その収用によつて当該土地の所有者等が被る特別な犠牲の回復をはかることを目的とするものであるから、完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をなすべきであり、金銭をもつて補償する場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することをうるに足りる金額の補償を要するものというべく、土地収用法七二条(昭和四二年法律第七四号による改正前のもの。以下同じ。)は右のような趣旨を明らかにした規定と解すべきである。」
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