北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

釧路湿原は宝もの

2010-07-25 23:57:00 | Weblog
 釧路に来てから、市の大きな財産の一つである湿原についてしっかりと教えて欲しいと思っていました。

 釧路湿原となれば、釧路にはSさんという方がいると以前からお名前だけは何度も聞かされていました。そこで市役所の中でSさんとご一緒に湿原を見せてもらえるように調整をしてもらっていたのですが、私とSさんとが半日間一緒に行動出来るの一番早い日が今日と言うことで、日曜日にもかかわらずお願いをして湿原の案内をして頂きました。

 今日ご案内頂くSさんという方は、かつては市の博物館に長く勤務し、その後にラムサール条約の登録湿地に向けた仕事を担当するなど、ずっと湿原の研究やその調整に関わってこられた方で、とにかく湿原なら何でも詳しくて釧路では「湿原の神様」と言われるくらいの存在なのです。

 今日の釧路は朝方は雨が降っていたのですが、昼前には小降りになり午後は霧もなく天気は上々です。市の担当者二人と全部で4人が車に乗って湿原を時計回りに回って、いくつかの拠点でポイントとなる説明を受けるというわけです。

    ※    ※    ※    ※

 まずは湿原の西側にある釧路市湿原展望台へ。ここは湿原から少し高台にある展望台で、ここを起点に湿原近くまで遊歩道が整備されています。


 【湿原展望台 イメージはヤチボウズだそうです】

 縄文時代は縄文海進と言って太陽の活動によって気温が高く、世界的に今よりも数メートルほど海の水位が高かったと言われています。

 それを表す現象として内陸部の小高い丘に縄文時代の遺跡が数多く見つかるということがあります。ここ湿原展望台も海水位が高ければ岬だっただろうな、というところにあって、まさにここには縄文時代の遺跡があるのです。

 ここでは農地として利用されている湿原エリアと、元々国有地であったために国立公園として保全の対象となってエリアがはっきりと見え、釧路は市街地のすぐ後背地が湿原だと言うことがよく分かります。


 【真ん中の道路から右は農地、左は保全されている湿原】


■縄文海進
 http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/special/267_data/index.html 
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 続いては釧路市のお隣の鶴居村にある鶴居どさんこ牧場へお邪魔をしました。

 こちらではもじどおり「どさんこ」という北海道和種馬を30頭ほど買っていて、なんとこの道産子に乗って湿原を巡るというサービスをビジネスとして運営しています。

 案内のSさんは「これもひょんな話から始まったんですよ。湿原の調査に初めて入った頃に、瀬川さんというお爺さんがいましてね。その方が趣味で道産子馬を飼っていたんですが、仲良くなって『道具、馬で運んでやるかい?』ということになり、疲れたら『馬に乗るかい』と言って乗せてもらったりしていました。それを地元のマスコミの方がもて囃して大きく紹介してくれたことで人気が出てこんなサービスが続けられるようになりました」
「リピーターもいるのですか?」

「夏は初めてのお客さんが多く来るので、リピーターの方はもっぱら空いている冬をねらってきますよ。でもこういう商売が出たことで、湿原が地域のやっかいものから少し理解を深めてもらうことができました」

 かつては湿原観光と言っても、ゴミだけ持ってこられるのではないかと疑心暗鬼だった人たちも、地域の名が知られたことで誇りに変わっていったとのことです。ほんのちょっとした熱意が立派なビジネスに繋がりました。

 こちらからも湿原に岬のように飛び出た半島状の高台を延々とホーストレッキングが楽しめます。片道をトレッキングする頃には馬の操作にも慣れるそうですが、帰りは馬の方が帰りたくてスピードを上げてトットコトットコ帰ってくるのを、(こんなに馬を速く走らせる私って天才?)と勘違いする人も多いのだとか(笑)


 【広い道産子牧場はすばらしい】



 【道産子はとっても大人しいのです】

■鶴居どさんこ牧場
 http://city.hokkai.or.jp/~tdf/index.html

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 次は湿原の北側に位置するコッタロ展望台で高台から湿原を間近に見ることに。

 ここから見ると、湿原の真ん中がなんだか茶色に見えます。これをSさんに尋ねると、驚いたことに「あれは立ち枯れたハンノキですよ」とのこと。


 【写真の右側の茶色がハンノキ林の群落】



 【展望台にあった双眼鏡につけて撮ってみました。立ち枯れが分かりますか?】

「ハンノキが立ち枯れるなんて自然環境が悪化しているのでしょうか?」と訊いてみると、「それほど単純な図式ではないんです」とのこと。え?なんで?

「ハンノキは、ヨシやスゲが優勢で一見地面に見える部分が実はスカスカな状態の湿原的な環境では入ってこられません。ハンノキが湿原に生えてくるというのは、そんなスカスカな湿原に火山灰などの土が流れ込んで根が張れる状態になったり、農業などに由来する肥料分などが増えてくることで群落状に入ってくるようです。そういう意味では湿原的でなくなるという意味の変化ではあるのですが、それがイコール環境悪化とくくって良いかどうかはまだ明らかではないんです」

「しかしハンノキの群落が生えるのは乾燥化の証だ、という論調をよく耳にしますが」
「おっしゃるとおり、そういう単純化した言い方が良くされますが、我々はそうした単純化には異を唱えています。なぜなら見て分かるとおり、湿原のど真ん中にもハンノキの群落が生えているわけで、実はあれは湿原を流れる川が自然に起こる氾濫によって土がもたらされることでハンノキが育つ環境が整うからだとみています」
「自然現象でもハンノキの群落ができるとは驚きです」

「できます。しかしここの湿原の河川は長い目で見ると氾濫によって蛇行の形状が変わってしまうようで、そのことで、土はあるものの栄養が満たされなくなり、次第にハンノキの育つ環境が失われて行きます。そしてその結果としてハンノキの群落が立ち枯れるという状態になるのですが、これは乾燥化によってハンノキがもたらされているのでもなければ、環境悪化によって立ち枯れを起こしているわけでもありません。あくまでも自然のゆらぎの範囲内の出来事なんだと考えているんです」

「はあ、なるほど」
「そしてもちろん、農地開発などの人為的な変化が周辺部から環境変化をもたらしているところもあります。大事なことは、一つ一つの状況をつぶさに観察して、原因の研究と対策の経験を続けることだと思います」

 環境問題の最前線にいる人たちは、教科書があってその通りにやれば解決するような生やさしい問題ではなくて、悩みながらトライ&エラーを繰り返す中で一筋の光明を見いだして行かなくてはならないのです。

 我々も問題を単純化することなく、複雑な問題に真剣に考えを巡らせたいものです。


 今日はSさんのおかげで釧路湿原のことについて理解が大きく進みました。Sさんとは今度はカヌーで川を下ってみましょうという約束も。
「ここの川は、途中で一度とぎれてまた現れるようなところもあれば、下っているうち東西南北が分からなくなるほど蛇行している川もあったりで、とっても面白いんですよ」

 いやあ、釧路湿原って話題とネタが豊富な素晴らしい財産です。もっともっと勉強しなくてはね。

■湿原とハンノキ林
 http://kushiro.env.gr.jp/saisei1/modules/xfsection/article.php?articleid=78

コメント (1)
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