北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

シカを生きたまま捕まえろ~囲い罠の成果

2011-04-06 23:32:07 | Weblog

 昨日(仮称)阿寒湖温泉アイヌシアターの地鎮祭へ出かけたついでに、阿寒湖畔一帯の大地主である(財)前田一歩園さんにお願いして、シカを捕まえる囲い罠を見せて見せていただきました。

 前回紹介した阿寒本町にある養鹿牧場(http://bit.ly/fI7Dpz)では、今頃捕まえたエゾシカを春から秋にかけて育成して脂を乗せてからお肉にするのですが、生体捕獲をするシカはこちらの(財)前田一歩園さんの囲い罠で捕まえたシカをもらってきているのです。

 養鹿牧場を始めようと思った頃と、前田一歩園さんがシカの食害に頭を悩ませて囲い罠を始めたのは奇しくも時を同じくしていたというわけ。

 この偶然が今のシカ肉ビジネスを支えていると言っても過言ではありません。双方の力を合わせなくては捕まえるところから食肉にするまでが上手につながらないのです。


    ※     ※     ※     ※     ※

 
 さて、かねがね噂に聞いていた囲い罠ですが現物はまだ見たことがありませんでしたので、今回の阿寒湖訪問は罠の現場を見せていただくちょうど良いチャンスでした。

 そもそも前田一歩園さんとは、稀代の実業家始祖前田正名氏によって取得された阿寒湖畔の3,859haにもわたる広大な土地や温泉を貸すことで森林保全など各種の事業を行っている財団です。

 しかし近年あまりに広大な森林にエゾシカが増えすぎて森林における樹木被害が大きいことからエゾシカの食害を防ぐ意味から生体捕獲に乗り出したというわけ。

「そろそろ猟期は終わりなのではありませんか?」と訊いてみると、「いえ当方では猟ではなくて有害中の駆除という形で捕獲に申請を出しているので猟期とは関係がないのです」とのこと。なるほど。


             【阿寒湖の周りはほとんどが前田一歩園さんの土地なのです】



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 今回は第97林班に設置した囲い罠を見せていただいたのですが、これまた設置と撤去にはそれなりにお金がかかって頭がいたいそう。

「一応国立公園内に仮設で設置させてもらっているので、期限が来たら撤去せざるを得ないのです」
「何年も続けて設置できると効率的と言うわけですか」

「それはあるのですが、一方で同じところに置き続けても群れがいなくなると捕獲の効率は悪くなります。そのため、所有地内の各所に数多くシカの餌を置いて、群れが見られて餌の減りが大きいところで目星をつけて囲い罠を張るということを繰り返しています」

 最初はすべて罠を組み立てていたのが、最近ではシカを捕獲して選別する一番重要な部分をユニット化して簡単に持ち運べるように工夫したことで設置費用が従来の半分で済むようになったのだそう。必要に迫られると工夫をするものです。


    ※     ※     ※     ※     ※


             【囲い罠のイメージ図】



             【囲い罠のシカ選別部分~一番右にある箱で運び出すのです】



             【ここからシカを中に呼び込みます】


 実際に見せてもらった囲い罠はまさに事前に勉強したイメージ通りなもので、ブルーシートで覆われた中に金網で囲いが作ってあり、奥にゆくと狭い部屋になっています。

 シカの餌と言うのはビート(砂糖大根)を絞ったカスを四角に固めたもので、少なくとも木の樹皮よりは美味しいようです。


             【これがビートパルプ】


             【奥の狭い部屋へと追い込みます】



             【オスのシカは横のドアから外に出してしまいます。メスと子供は奥へ】


 シカには敷地内にばらまくことで味を覚えさせ、それを囲い罠の中においてしばらく様子を見ていると囲い罠に喜んではいって餌を食べるようになるのだそう。

 そして頃合を見計らって囲い罠のゲートを閉じると、シカ選別部屋に一頭ずつ追い込んでゆきます。

 追い込んだら、オスは横のドアから出して逃がしてしまいます。捕まえて養鹿牧場送りになるのはメスと子供だけで、これらは一番奥の出口から吊り上げられるような捕獲ボックスに入れられるというわけです。

「オスを逃がしてまた樹皮を食い荒らされるというのはなんだか悔しくありませんか」
「いえいえ、オスは角があって気性も荒いので扱うのに手間がかかり過ぎるのです。暴れるシカを押さえるのに高価な麻酔薬を使っていたのではたまりませんよ」

「なるほど、しかしそれでシカの被害は抑えられるのですか」
「シカは一番強いボスシカを中心にハーレムを形成しますから、メスの数だけ子供が生まれます。だからメスを減らしてゆけば群れの数は減ってゆくというわけで、繰り返していると捕獲頭数が激減してゆきます。これは群れとしては消滅しているようなのです。実際、道内の森林でシカの被害が減っているなどというのはどうやら私たちのところだけだとも伺っています」

 シカが増え続ける中で食害を減らしているという実績は素晴らしいものですね。


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「今年の捕獲はいかがでしたか」
「それが今年は獲れたシカが随分少ないのです。私たちとしては嬉しいのですが、今度は養鹿牧場の方で困っているようでうまくいかないものですね(笑)」

「少ない理由といいますと…」
「彼らは移動しながら食害を与えてゆくのですが、どうやら今年は雪が少なくて、ここまで移動してこなくても途中で食べるものにありつけたのではないかと思います。雪の多い年と少ない年では被害の度合いが大きく変わりますね。そういう意味では、罠さえ張れば必ず捕獲できるというわけでもないわけです」

「前田さんの森林だけではなく、移動元との連携で広域的に罠を仕掛けるような取り組みがあると良いのでしょうか」
「おっしゃるとおりです。ただし、そのときに本当にどんなところに罠をしかたら効率的に捕獲できるのかについては、まだ研究が始まったばかりという状況です」

「餌を置くところにも意味があるのでしょうか」
「はい、この場所にゆくと餌があるという学習をさせておきますが、それは次に罠を張れるような広い場所に置いて誘導しておくことで、罠に入りやすい環境を作ることにも繋がります。しかしまだまだ研究を積み重ねなくてはいけません」


 最近では、寺社林などシカの食害を受けながらハンターが撃てないようなところが囲い罠を聞きつけて視察に訪れてくる数が増えているとか。

 こうした活動にもっと社会の目が向いて、ハンターによる捕獲と合わせ技でシカの増殖を抑えられる日が来ることを願わずにはいられません。

 自治体の取り組みも急務です。
 

【前田一歩園財団について】
 http://bit.ly/fYID5A

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