その昔、札幌市南区の滝野すずらん丘陵公園事務所の所長をしていた時代に、公園内でヒグマが目撃されるという事件がありました。
このときはすぐに閉園をして、園内にいた利用者の皆さんに園内放送で、速やかに退園していただくよう促し、安全が確かめられるまで開園しない、という措置を取りました。
一見、真っ当な対応のように思えますが、困ったのは、ハンターや熊の研究家を招いて園内を見てもらったにしても、「どうやったら園内に熊がいないということを証明できるのか」ということでした。
ハンターの方は公園内の植生を見た時点で、「ああ、もう熊はここにはいないよ。いつくような実のなる木、があるわけではないし、子離れ熊の冒険という彼らの行動パターンに近いものを感じるからね」とおっしゃってくれたのですが、それもかなり高い可能性とは思いつつ、「本当にいないのか?絶対にいないと証明できるのか?」と突っ込まれるとそこまでの確信は持てませんでした。
このときは、人が歩く園路の脇を数メートル幅で下草を刈って、熊が隠れられそうな場所を少なくして、それでも園内で目撃されることがない、ということをもって、安全宣言としましたが、この「クマがいないことを証明せよ」という問いは非常に苦しい問題だったことを今でも思い出します。
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今日は昨日に引き続いて、旭川でわが舗装事業協会の会員企業との意見交換会を開催しました。
現場の話を聞いていると、工事を受注した業者さんの現場代理人は実にいろいろな苦労をし、ある意味理不尽な要求にも時間を取られながら応えようとしていることが分かります。
ある業者さんは、現場監督からこんな問いかけを受けたそうです。
「お宅で使っている下請け業者が、どこも指名停止を受けていないということを証明できますか?」と。
指名停止を受けた業者ならば、発注官庁から発行される処分に関する文書を探せば分かりそうなもので、こういう答えを見つける流れがイメージできる作業であれば、単純にその作業をすれば良いというところです。
ところが「どこも指名停止を受けていないことを示せ」と言われると、私が経験した「園内に熊がいないことを証明せよ」に似た、『悪魔の証明』に思えます。
このときの現場代理人さんは、多くの発注官庁の公表資料をネットで取れるだけ取って、「該当者なし」という資料を作ったようですが、これなどは、舗装工事において品質の良い成果品を作る、という主目的からはかけ離れた要求に感じられます。
問いかけた方は、問題がなければ「そうか」で終わるような確認であっても、問いを受けてそれを証明する資料作りのために、ある種不毛ともいえる作業時間をこなさなくてはならず、それが残業につながるとすれば、今日の働き方改革で労働者の待遇を向上させるような動きとは相いれない要求に思えます。
この一事例に限らず、「そんなことまで要求されるのか?」と思うような事例って数が多いのです。
発注者の側も、受注する側と力を合わせて連係プレーで良いものを作るというのが本来の姿のはずですが、発注者に嫌われたりすると後々面倒だ、という忖度が働くのも人の世の常です。
せめて、「これは正当な要求だろうか、過剰だろうか」という自問自答を繰り返してみてから要求や指示を出す、という心構えを持ってもらいたいものだ、と願います。
労働者が疲弊して心が折れて、この世界から消えてゆくなんてことがあって良いわけはありません。
人材も有限の資源です。無駄遣いはしない方がよろしいのです。