先週の14日(木)に寒地土木研究所による講演会がありました。
全体的に土木に関する研究発表の講演なのですが、冒頭に北大の三上隆先生による特別講演があって考えさせられました。
三上先生の講演タイトルは「インフラマネジメントの役割を担う北海道の土木技術者育成について」というもの。
人口減少の一側面である少子化は、次世代を様々な仕事によって支えてくれる人材が不足するということに他なりません。
機械やAIで補えるものは良いとして、補うことができない職種も多いことでしょう。
今回は特に次世代を担う土木技術者が不足するとどういうことになるか、という話題で考えさせられたのです。
特に昨今、自然災害はその規模が大きくなり頻度も増しつつあります。
さらに、すでにこれまで諸先輩の力で作り上げてきた道路、橋、トンネルなどのインフラが老朽化のステージに入りつつあるということ。
こうしたことを考えると、人材が増えなくてはならないくらいの状況なのに現実は少子化でありまた、土木に進む若者が減っているということを憂うのです。
ここで一口に土木技術者と言いますが、様々な職種が積み重なっての土木技術です。
仕事を発注する役場や官庁、調査設計をするコンサルタント、施工を請け負う建設会社、仕事を行う下請け会社、作業をする作業員とオペレーター、資材を運ぶドライバー、安全を確保する交通誘導員…など、様々な職種が連担して役割を果たしてこそ、インフラは形になりまた守られます。
ただ維持管理を行う上で技術者不足が問題になるのは、地方自治体いわゆる市町村役場ではないか、と私は思います。
三上先生によると、例えば橋梁は全国に約72万橋がありますが、その9割は地方自治体が管理するものです。
その一方で橋梁管理に関わる技術者が一人もいないという自治体が20%にも上っており、この数は増加の傾向をたどっています。
私が「地方自治体が問題だ」と思う理由は、役割と立場で役場が重要だからです。
修繕や修復などの仕事は、直接役場がしなくてもコンサルや建設業者へ発注すればそれをやってくれる人材はまだ残るでしょう。
しかし、修繕が必要かどうかや、どのタイミングでどのような仕事を発注しなくてはならないか、ということを【判断する】技術を持った職員が役場の中にいなくなると、インフラ管理の仕事のタイミングを失ってしまいかねませんし、そのしわ寄せは住民に及ぶのです。
特に最近は、壊れてから治す「事後保全」から壊れる前に修繕を施す「予防保全」に流れが移りつつあります。
壊れてしまえば治すのには時間もお金もたくさんかかるのに対して、予防的に行っておけば結果的にトータルコストを下げることができるからです。
しかし壊れたものを目にすれば「これは治さなくちゃ」とわかるものの、まだ壊れていないものをみて「なぜ今修理の手をかけなくてはいけないのか」と首長さんや議員、予算担当職員、さらには住民も感じることでしょう。
それに対して堂々と必要性を説明し、正しい行政判断によって疑問や批判に打ち勝ってゆけるだけの技術者が必要なのです。
「説明するのも仕事でしょ」とは正論ですが、それを真っ当にしてくれる職員の確保が難しくなるというのに、どのように対処してゆけば良いでしょうか。
ちなみに三上先生はこうした課題を実現してゆくために、産・学・官からなる「北海道技術者育成プラットフォーム」という団体を立ち上げてその会長としても活動されています。
私たちの未来にも安心して暮らし続けてゆくためには、インフラの維持管理・保全が大切になります。
多くの人たちの協力でこの難題を乗り切ってゆきましょう。