「日本の構造 50の統計データで読む国のかたち」(橘木俊詔著 講談社現代新書)を読みました。
日本の現代社会を統計データという数字で理解しようという本で、経済だけではなく、教育・労働・賃金・生活・老後・福祉・地域格差・財政と多岐にわたるテーマで論じられています。
統計は、過去の記録をたどることで「今」を表す独立的な指標だけではなく、過去からの変化の様子やどれくらいの割合のことなのか、さらには他国との比較をすることで、世界の中の現代日本社会の立ち位置を示してくれます。
まず我が国の現状を概観しておきましょう
①経済では、戦後の20年にわたる高度成長期の後に、オイルショックがあったが、それを乗り越えた安定成長期に入った。その後バブル経済に入るがそれが崩壊したのちに大不況、そして「失われた20年、30年」という低成長期に入り、いまだにそれが進行し、さらにコロナ禍で不況は深刻化している。
②企業活動では、終身雇用、年功序列に代表される労働環境が、アメリカ式の経営方式へと変化し、安定・平等から至上主義・競争賛美・能力実績主義へという変化の過程にある。
③家族の役割が大きいことは、我が国を特徴づける一つの特質であった。しかし今日、かつての皆婚社会から未婚・非婚が増加するようになり、離婚の増加、出生率の低下が深刻になり、三世代同居が消えるなど、家族の絆は弱まる社会になりつつある。
④福祉のありようにも家族の変容が大きく影響している。老後の支援・看護・介護は家族の役割だったが、家族の弱体化により様々な問題が顕現化している。
今後は、福祉は自分で担うという自立意識を強めるか、または年金・医療・介護などへの社会保障制度を充実させるか、という選択が必要になる。
⑤教育は、元来親または家庭の責任で子供に提供されるべきという考え方が強かったが、これでは豊かな家庭と貧困家庭による格差が生じている。日本の学歴社会には機会の平等はなかったといえる。
⑥本書の大きなテーマの一つは「格差問題」である。一億総中流社会は消滅しつつあり、富裕層・貧困層という二極化を生み、所得・資産格差が大きい国になりつつある。
興味深いことは、他の国も同様ですが、現代社会を形作っているのは、統計に表れる数字だけではなく、そこに国柄・国民性としての価値観が顕れていることです。
日本人は悲観的なものの見方をしがちな国民性があるため、そのため、物質的に満たされていてもどこかに不安があったり不満があって、「満たされた感」や「幸福感」が乏しいことが指摘されています。
そして日本の幸福度は「G7で最低」という項目が登場します。
◆
また気になるのは、労働時間が働き方改革の名の下に減少していますが、このことと同時に国民の勤労意欲が低下していると感じられること。
さらに同時に企業が設備投資を怠ったことで生産性も下落の一途。
今後我が国の経済再生がなされるかどうかは、国民全体が改めて一生懸命に働いて付加価値を生み出すために頑張って働くという選択をするかどうかにかかっている、という著者の言葉は重いです。
また他の先進諸国と比較して、女性に対する意識の低さが際立っています。そのため女性の社会進出が阻害されていたり、母子家庭の貧困問題など、女性にまつわる格差の大きさが改めて際立っているように感じました。
本書は、一つのテーマに対して3ページの解説文と1~2ページのグラフ・図表という形の説明形式で、50のテーマが語られていて読みやすく、理解しやすい工夫がされています。
現代日本社会を数字で理解して、そこから反省やこれからへの展望を開くためのヒントが満載です。
「現代日本の人間ドック」だと言えそうで、大いに参考になる一冊です。