現代日本の「知の巨人」の一人が解剖学者の養老孟子先生です。
ご本人はもう80歳を超えられて体の衰えは隠せませんが、先生から放たれる一言一言は、聴く側の予想を超えた言葉が多く、「そういう角度できますかねえ」と感心することしきり。
今ネットで動画を探せば若い頃からの講演や対談がいくらでも出てくるので、これからもネット動画で勉強をさせていただこうと思います。
そんな中で面白かったのは先日、東洋経済のサイトでアップされていた「東洋経済education×ICT」の「『医者が患者の顔を見ない』訳と教育」という動画でした。
【養老孟子先生が、『自足』をキーワードに新たな問題提起】
https://www.youtube.com/watch?v=l8-kmu1Qkfc
養老先生への問いは「GIGAスクール構想をどう思うか」というもので、これに先生はこう答えていました。
「先日奄美大島へ行ったら、同行の人とはぐれちゃって、何が起こったかと言うと携帯が通じないんですよ。少なくとも日本中どこでも携帯が繋がるようにしないと、デジタル社会もくそもないですよね(笑)」
「AIというのは理性的なものですから、教育で一番大切なものが落っこっちゃってる。最先端の方に行っちゃっている。そうじゃなくて、育っていく過程で必要なものが何だという事を真面目に考えてほしい。そういうことが大きく出たのが少子化であり、もう一つは若年層の自殺が大変多いという事。
若い人の死因の一番は自殺ですからね。というのは、生きている意味が分からないというか、生きていてハッピーじゃない」。
問い:ICTの進化で、考える力が失われる、知的好奇心が失われるといった意見もある
「問題はそういう事じゃなくて、要は理性的に頭で考えてることで世界が完全に把握できるのか、そこですね。だから自分の体の調子が良いか悪いか、自分が全体として満足しているのか具合が悪いのか、というのはその人その人が把握しないと行けなわけですよね。
そういうときに子供だとか若い人だったら、今まで生きてきた時間が少ないわけだから、その中にある程度以上の幸せと言うのがなかった可能性がある。そうすると『今後もどうせろくなことはない』ということが死にたいということと簡単に結びついちゃうんじゃないか。
つまり、僕は少なくとも子供には幸せな時間を与えないといけないと思う。で、子供を幸せにすることができなければ、大人の幸せなんか到底見つからないですね。子供はそんな過大な要求をしているわけではない」
「じゃあその幸せと言うのはなんだ」となると養老先生は、「自足です、自給自足の、自足。自分がどの程度満足しているか」だとおっしゃいます。
で、「その自足とはなんだ」と言われると、もう面倒くさいから「猫を見なさい」と言うんだ、と。
「猫ならこの季節、家の中の一番涼しいところで寝ていますよね。そうじゃないところにおいても逃げていく。そういう一人ひとりが自足する、というのが理想的な社会だと思いますけどね」
先生は、現代社会に適合して生きている人たちはそういう(体の状態を含んで)自足の感覚が失われているのではないか、と憂いています。
「満足している猫は、ほかの猫に食って掛かるようなことはしませんよね(笑)」
「足るを知る」と口では言うものの、どんな状態が足りていることになるのかをちゃんと知りなさい、と養老先生は言います。
養老先生の話し方を聴いていると、どこか亡くなった榛村元掛川市長さんを思い出します。
榛村さんもよく、私などからの問いには斜めの角度から答えてくれたものです。
まだまだ訊いてみたいことがあったなあ。