星のひとかけ

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真実を見出す者の謎と謎…(続編翻訳してください~!):『ローマで消えた女たち』ドナート・カッリージ著

2020-09-15 | 文学にまつわるあれこれ(鴉の破れ窓)

『ローマで消えた女たち』ドナート・カッリージ著 清水由貴子・訳 ハヤカワポケットミステリ 2014年

間違いなしの一気読み本。 とっても濃密で長くて複雑な物語なのですけど 夢中で読みました。

物語は冒頭から 衝撃的な展開で始まります… (これはほんの最初のエピソードなので、 少しだけネタばれで…)
 … 救急隊に要請が入り駆けつけた家で、 男が発作を起こして倒れている。 すぐに気管挿管をしようとする医師のモニカ。 そのとき彼女は男の家の中に「あるもの」を見つける。 それはモニカの双子で 連続少女殺害事件の犠牲になった妹が履いていた「靴」、、 目の前で倒れている男は殺人犯? 
 … 救急措置を遅らせれば男に報いを受けさせることができる、、、 それとも 医師として挿管して命を救うのか、、?

「復讐」か、、 「赦し」か、、 最初から究極のテーマが突きつけられます。。 でもこれはほんの序盤の一つのエピソード。 

主軸となる人物はこのモニカではなく、 二人いて、
 記憶を失った男マルクス。 事件現場の「物たち」の声を聴くかのように そこで起こった出来事を知る特殊な能力を持つ。

もうひとりは
 夫を亡くした女サンドラ。 犯罪現場の写真を撮り その「画像」から起こった事を推察する写真分析官。

でも、 物語はそれぞれまったく別に進んでいき、、 マルクスはある特殊な「任務」を受けて、失踪した女子大学生の捜索を始める。 一方、 サンドラは或る晩、 事故死とされていた夫ダヴィドの死に疑問を投げかける「インターポール」の捜査官を名乗る男の電話を受ける。 

こんな風に 複数の物語が同時進行して、 さらには 「一年前 パリ」 とか 「一年前 メキシコシティ」 とか、 過去の話が挿入されて でもそこにはマルクスもサンドラも出て来ずに謎の人物が謎の人間を追っている。。
マルクスがいったい何者かもわからない、、 サンドラの夫に何が起こったのかもわからない、、 そして「過去」の話がなんなのかもわからない、、 わからないからどんどん読み進めていくうちに、 マルクスとサンドラが結びついて、 インターポールの男シャルバーも出てきて、 さらには、 冒頭の連続殺人事件の被害者の遺族たち(モニカをはじめ)もが、 複雑に物語に絡み合ってくる。

すごく頭を使いましたし、 別々の事件に話がとんでは また戻るの繰り返しなので、 ひと晩たって読み始めると展開を忘れていてまた戻って思い出したり、、 だから物語についていけてるうちに一気に読むしかないのです、、 すごく面白かったですが…

 ***

いろんな事を考えさせられました。 これも少々 ネタばれかもしれないけれど、、 

カトリックの神父さまは「告解」に対して守秘義務があります。 でももし、 具体的にこれからどこそこでテ〇を起こすとか、 誰それに危害を加えるという告白を受けたらどうするのだろう、、 或は 自分で命を絶つとか告白されたら…? そんな重い問いについても考えざるを得ませんでした。

それから、、 人の犯した「罪」はいずこに在るのか、、 罪を犯した肉体なのか 心なのか、、 心とはどこに或るのか、、 もし罪びとが病気や事故で記憶を全て失っていたら、 犯罪の記憶がない者にどうやって罪を償わせるのが正しいのか、、 とか。。

「復讐」とか 「償い」とか 「赦し」とか、、 とても難しいことを 考えながら読みました。。


心にずきっと響く「警句」のような文章も数多くあって、、 今回とても心に刻まれたひと言

 「死は過去を支配する。だが、猜疑心はさらにたちが悪い。 なぜなら未来を奪うからだ」

「死は過去を支配する」、、 死でなくても 「誰か」と訣別するとか 失うということは、 その喪失と思い出とが必ず結びつくことになって「過去」を支配してしまう、、

けれども、 「猜疑心は未来を奪う」、、 ほんとにそうなのだと思う。。 ひとたび猜疑心が頭をもたげたら、 その先ずっと心に影を落としたまま暮らさなくてはならない、、。 「信じること」、、 信じ切ることのたいせつさ、、 それ以上に強くて確かなものは無いのに。。 

 ***

物語はシリアスなばかりではなくて、 あくまでエンターテインメント小説として とてもとても面白く読めます。 
サンドラが思い返す 夫ダヴィドとの思い出の描写も、 すごく生き生きとして ユニークで、 そしてロマンティックで、、。 そのあたりは以前に読んだ 『海岸の女たち』(>>)の行方不明の夫パトリックの思い出のエピソードと似通った部分があって、 とてもせつなくなる素敵なラヴストーリーで、、。
(ダヴィドが留守番電話に残したメッセージがすごく素敵で、、 引用したいのだけど、、やめておきます。。 こんなメッセージを聞かされたら、 永遠に消せない……)


、、話は逸れますが、 『ローマで消えた女たち』も、 『海岸の女たち』も、、 もうちょっとタイトルがなんとかならないか、、 と思う 内容にそぐわない残念な感じがあるのですが、、 今作の原題を訳すと 「魂の裁判所」という意味だそうですが(訳者あとがきより) そちらのほうがちゃんと内容を表していると思うんだけど、、

話戻して、、

物語の最後は ええーーーっつ?! という感じもありの、 かなり荒唐無稽とも言えるような、 著者さんのサービス過剰と言うか、、 映画にしたらエンドロールの後で 「え??」ってなるような含みも持たせていて、、

すごく複雑に練られたストーリーだし、 マルクスもサンドラも、 夫ダヴィドもインターポールのシャルバーも、、 まだまだ「謎」を残した部分がいっぱいあるように思えたので 作者のイタリア版ウィキを見たら、 マルクスとサンドラを扱った小説があと二冊出ている模様。。 翻訳されないかしら、、 続きをぜひ読みたいです!


今回の読書は、 先に読んだお友だちのオススメでこの作家さんを知ったのですが、、 物語の複雑さ、 登場人物の謎の多さゆえに、 ぜひとも読後にあーだこーだと語り合うのがよろしいかと思います。。
(読んだ方だけに分る… シャルバーはなぜフレッドという言葉を知っていたの?) (シャルバーがあそこで姿を消して以降出てこないのは何故?) (シャルバーのあの場面はゆるされる行為なの??) とか、、 シャルバー、 謎多いです… カッコいいけど、、笑


それにしても ローマって素敵。。 たくさんの教会も宗教画も ヴァチカンも、、 「謎」の素材には事欠かないですものね。。


イタリアならではのミステリ、、 また読みたいです。


今回の小説に出てきた サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会>>Wiki 

Basilica di Santa Maria sopra Minerva >>


 ***

東京都もGoToいろいろが始まるみたいで、 さまざまな制約も解除されてきて、 気候も良くなって 楽しみがこれから増えていきそうな秋の訪れですが、、 
医療関係者やエッセンシャルワーカーの方々など、、 一番たいへんなお仕事をされている方々が 一番我慢を強いられている。。 あらゆる楽しみを我慢して日々わたしたちの暮らしの為に耐えていらっしゃる。。 そのことを忘れてはなりません。。


日々 感謝と


自分なりの 努力を
 

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