映画化された「日本でいちばん悪い奴ら」を見てから原作であるこの自叙伝を読んだ。意外なくらい脚色で作ったエピソードは少なく、あまりにひどくてこれ作ったのかと思う話もたいていこの本にあった。
一人の腐敗した警官の責任に帰して済む問題ではないのはもちろん、警察上層部のノルマ主義とトカゲの尻尾切り体制、そして事件がないのが評価されるのではなく取り締まった数で評価されるからわざわざありもしない事件を作ってしまうという評価基準、価値観そのものがおかしいことがはっきりわかる。警察は役所だから利益を上げることなどないのだが、代わりにいかに「成果」を上げて予算をぶんどってくるかが手柄になってしまうというのは、せしめる金ですべてが評価される今の日本そのものの反映と思える。
野党に転落していた当時の自民党が情報戦でどうやって逆転していったかを半ばたまたまのように参謀役に雇われて務めた著者が綴っているのだが、途中から自民党の価値観に同感していくとはいえ元々共感していたわけでもなんでもない、というのはいかにも傭兵的な発想で、後知恵のように自民党の自助努力の価値観を肯定していくのだが、少なくとも政権をとってからの自民党の価値観が健全な自助努力の範疇に入るのか疑問になっている現在、読んでいて何度か違和感を感じた。初めは情報戦でも民主党(当時)がリードしていたのがなぜ停滞するようになったのか、もし民主党側に雇われていたらどうなっていたか、とも想像したくなる。とはいえ野党時代の谷垣総裁がかなりの理解力とリーダーシップを発揮していたのがわかるのは収穫。自民党にそれなりの「人材」がいたから情報戦を戦えたのもわかる。
(後記・いささかこの見方は甘くて、自民党のメディア支配はすでに全体主義化の一途を辿っている。その悪辣さを批判する本の方が今では必要)

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