prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
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「アズミ・ハルコは行方不明」

2016年12月15日 | 映画
原作者なり脚本家は女性なのではないかと見ていて思ったら案の定。
蒼井優がインタビューでしきりと、台本読んでいちいち覚えあるあると思ったから引き受けました、周囲の女性スタッフもみんなそう言っていたというからどういう意味かと思ったら、とにかく大ざっぱに言って女性が日常的に受けている無意識のセクハラ、というかそれ以前の男どものものすごい無神経と貧しい人間観にいちいち我慢していますという顔もしないでやり過ごしているが細かく見るとイラッときている感じがまことによく出ていた。

特に社員四人しかいないハルコが勤める会社で、茶を飲んで駄弁ってばかりの男の社長と専務は月給100万で実務をこなしている37歳の女性社員が手取り17万、ハルコが14万というのだから、もうそれだけでふざけるなと思うのに、37歳で結婚していないなんて生物として終わりだとか石原慎太郎みたいなことを言っている(のが都民に多いから知事として再選三選されたわけで)のだから、やっていられない。

それから地方都市の、コンビニに行ってもビデオレンタルの店に行っても高校の同級生と顔を合わせたりして、これまた顔に出さないでやり過ごしているがいちいち鬱陶しい煮詰まった空気が、一見して小ぎれいでおしゃれな服装や店の外観とは裏腹に貼り付いているのがよく出ている。

こういう地方都市の閉塞した空気の上に成り立った映画が日本映画から連続して出ているというのは時代の産物には違いないだろうけれど、おそらく今に突然始まったことではないし、もちろん大いなる田舎である東京が例外ではありえないのはオリンピックの利権を巡るドタバタを見ればわかる。日本だけのことでもないだろう。

行方不明のハルコのグラフィティを町のあちこちにしていたのが主にネット上で拡散するわけだが、複製が拡散して実像が消失しているのは、アンディ・ウォーホルがモンローのようにすでにアイコンと化した人の版画を作り、人を人たらしめていたいわゆる内面が意味を失ってアイコンとしてのキャラクターだけが残っている状態を予見したのとつながっているみたい。

ハルコが行方不明になってからとなる前とが交錯する形で描かれるのだが、消える前からすでにいなくなっていたのと同然で、アイコンと化してから人の間に膾炙することになる。

ただ、落書きしていた連中がアーティストとして認められるのかと思うとすぐまことに小さなイベントに起用されただけで消費されて終わりというのが、今らしい。

しばしば女子高生によるオヤジ狩りの光景が挟まるわけだけれど、現実には不可能な男どもへの復讐のイメージと解釈するにせよ、男がまるで無抵抗で殴り返さなかったりプ女子式にプロレス技を使ったりして、映画で慣れているリアリティからいきなり離れてしまってちょっと画的に説得力がなさすぎなのはひっかかった。
ストレートに反抗したりキレたりしないのは納得できるのだが。
(☆☆☆★)

アズミ・ハルコは行方不明 公式ホームページ

映画『アズミ・ハルコは行方不明』 - シネマトゥデイ

アズミ・ハルコは行方不明|映画情報のぴあ映画生活



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