prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「ソワレ」

2020年09月03日 | 映画
正直、ストーリーラインが単純な筈の割りに細かいところでつかみにくい映画で、勘違いしているかもしれないのを前提で書く。

役者志願で、一方でその芝居の技術を生かしてオレオレ詐欺に手を染めている若い男の子と、父親の虐待を受けている女の子が出会い、女の子が親を刺して負傷させたのを機に逃亡の旅に出る。

冒頭、オレオレ詐欺でお婆さんからカネを巻き上げるカットで自然音を誇張して何か飛行している物体のような轟音をかぶせている他、音の使い方には所々工夫が見られる。

養老施設に若い芝居経験のある子たちが来てリハビリに協力する光景も興味深い。

気になるところを挙げていくと、逃亡中にカーセックスをしているかのように見せかけてやり過ごそうとしているところに警官が来て職質をかけるのだが、その後車からえらい勢いで女の子が飛び出していくのをスローモーションで撮っているのだが、この警官結局どうなったのだろう。
男の子が車の外に立っているカットが女の子の主観で入るのだが、この後警官に男の子が暴力をふるったのかどうなのか、はっきりしない。
警官はこの後画面に写ってもいない。

ラジオの音楽に合わせて二人の影だけが踊っているカットなど才気を感じさせ、テレンス・マリックの「バッドランズ」風の詩的な逃亡劇を狙っているのかなとも思うが、二人が逮捕された後、何事もなかったかのように男の子が「ロッキー」風に肉屋で働きながら劇団に戻って芝居の指導を受けている光景に戻るのには首をひねった。彼がどう法的に裁かれたのか、さっぱりわからない。
それまでの逃亡劇は彼の幻想とか枠物語の内ということなのか?

夜間ロケでアンゲロプロスばりの様式的な照明で二人が安珍清姫のセリフをやりとりするくだりがあるのだが、男の子はともかく、女の子に芝居の心得はないはずだが。
昼間のリアリズムと夜間の様式性(強いライトを当てなくても済むようになった技術の進歩の賜物というか)を混淆した撮影は冴えている。

若い男女二人がずっと一緒にいるのだから、どこかでセックスしているのだろうがその割りに直接的な描写がないな、省略しているのだろうかと思ったら、結局それまでやってなかったしその後もやってないらしいという釈然としない着地になる。
どうも納得がいかない。

終盤、主人公二人に元から縁があったような描写がビデオの記録から連想式に回想で入るけれど、終盤にばたばたと新しい展開を付け加えるのはいかにもとってつけたよう。
リアルラインの引き方がどうも曖昧としか思えない。

普通のリアリズムに詩的表現を混ぜるという線にまとめられる性格のモチーフだと思う。
あれこれやりたいことを詰め込みし過ぎた感。