ゴミ箱の蓋を盾に、木のオモチャの剣を持って空想のドラゴンと戦っている少年(監督脚本のケネス·ブラナーの分身)の身近に火を吐くドラゴンならぬ宗教的排斥の暴徒が投げる火炎瓶の炎が上がる冒頭から、少年時代の回想という内容と一見裏腹な不穏な空気がたちこめる。
一方でそれは子供の空想にもつながっているわけで、殺伐とした暴力だけではない。
特に家族の存在は大きく、かといってたとえば母親がいかにも子供から見た母親的な保護者という役割だけでなく、父親とクラブで歌って踊るところなど子供とまた離れた女としての顔を見せる。
アイルランド出身に優れた俳優が多いせいもあるだろうが(日本でいうと在日に近い存在という解説もある)、キャスティングが知名度のあるジュディ·デンチを除いて実際のアイルランド系の俳優で固めてある。
今風の当時者性の重視でもあるだろう。
北アイルランド紛争の背景は特にわかりやすく説明していないし、それで問題はない(ややこしすぎて描き切れるものではないし)。とにかく暴力は論外というのに尽きる。
身近な家庭と宗教·民族といった大文字の世界とがシームレスに行き来する描き方。
カラーとモノクロの使い分けなど良くも悪くも監督ブラナーの身上であるわかりやすすぎるところが出ている。
英国籍のジョン·ブアマン(アイルランドとスコットランドとオランダの血が混ざっている)のやはりV2ロケットが降り注いでいる戦時中のロンドンでの少年時代を描いた自伝的作品Hope And Glory(「戦場の小さな天使たち」って邦題は使いたくない)のふてぶてしいユーモアを思いだした。